いよいよ4月1日から,KDDIによる第3世代(3G)の携帯電話サービス「CDMA2000 1x」が始まる。3Gのサービスとしては,国内ではNTTドコモが2001年10月1日から「FOMA」の本格サービスを開始している。

 US NEWS FLASHでは,これまで米国を中心に海外の3G携帯電話サービスに関する記事を取り上げてきた。日本以外でも3G携帯電話の環境が整いつつあるようで,こうした英文ニュースを読むのは楽しい。しかし,見慣れない単語が続出するのには,いささか閉口している。「CDMA2000」や「W-WCDMA」はまだしも,「MC-CDMA」「GPRS」「UMTS」「EDGE」といったなじみがない単語が,大した説明もなくニュース中に出現する。いずれも携帯電話の規格を表しているようで,海外では何種類もの3G携帯電話が始まろうとしているようだ。

 閉口しているのは筆者ばかりではないだろう。そこで今回は,こうした携帯電話の規格を整理してみたいと思う。単語の数が多いために少々駆け足の説明になるが,今後モバイル/通信関連のニュースを読み解いていくための助けになれば幸いである。

■いきなり“第3世代”といわれても・・・

 最近は通信事業者や機器メーカーが頻繁に“第3世代”を口にする。しかし,いきなり第3世代と言われても困ってしまう。第3世代があるからには,当然“第1世代”や“第2世代”があるのだろうが,違いが今ひとつはっきりしない。そこで,違いを明らかにするためにも,この“世代”を通して携帯電話の規格を解説していこう。

 “世代”とは,携帯電話の技術方式の変遷を指している言葉である。第1世代は,アナログ方式の携帯電話である。米国では「AMPS」というアナログ方式が標準化され,英国ではこのAMPSを米Motorolaが設計変更した「TACS」が標準となった。

 日本では,1979年に日本電信電話公社(現NTTグループ)が携帯電話サービスを始めた。このとき同社は独自開発した方式を採用したため,日米間の貿易摩擦問題となったという経緯がある。結果的にはその後,1989年に当時のセルラー電話グループが,1991年に当時の日本移動通信(IDO)がTACSを狭帯域した「N-TACS」方式を採用してサービスを開始した(ただし,ともに2000年9月にサービスを終了した)。

■GSMやcdmaOneは日本のPDCと同じ第2世代

 第2世代はデジタル方式を指している。第1世代のアナログ方式では周波数の利用効率が低く,増加する利用者を収容できなくなる恐れがでてきた。そこで,周波数効率を高める目的で導入されたのがデジタルである。

 日本では,標準化機関であるARIB(電波産業会)が1993年に国内の統一規格として「PDC(Personal Digital Cellular)」と呼ぶ仕様を規定し,同年NTTドコモがこの方式の商用サービスを開始した。今ではKDDI/沖縄セルラー電話(auグループ),ツーカー・グループ,J-フォンも同方式のサービスを提供している(ただしauグループはPDCサービスの新規加入を2002年3月31日をもって終了すると発表している)。なお,PDCは日本独自の方式で,現在の日本で最も普及している。

 第2世代のデジタル携帯電話方式にはこのほか,欧州の「GSM(Global System for Mobile Communication)」や米国の「IS-136」「IS-95」がある。このIS-95を使った無線通信システムの総称が「cdmaOne」である。cdmaOneは日本でもauグループが採用しているのでおなじみである。なおこのIS-95は,米QUALCOMMが同社の特許「CDMA」を使ってその仕様の大半を開発している。

 ここで,CDMAとは何かを簡単に説明しよう。CDMAはCode Division Multiple Access(符号分割多元接続)のこと。通信事業者はできるだけ多くのユーザーにサービスを提供する必要がある。そのため,同じ周波数帯の電波を複数のユーザーで共用する必要がある。このとき,ユーザーごとの通話チャネルを,PN(疑似雑音)符号と呼ぶ特殊な符号を使って区切るのがCDMA技術である。

 なお,通話チャネルを区別する技術には,時間で区別する「TDMA(時分割多元接続)」もある。前述のIS-95(cdmaOne)以外の方式(PDC,IS-136,GSM)は,すべてこのTDMAを採用している。

■第3世代は世界単一規格を目指していた

 これまでの携帯電話方式は,各国の標準化団体がそれぞれに規格を決めていた。そのため,互換性が確保されておらず,同じ端末を世界中のさまざまな国や地域で使うことができない。この問題を改善すべく,ITU(国際電気通信連合)が定めたのが「IMT-2000」だ。これを“第3世代の移動通信システム”と呼んでいる。IMT-2000は世界共通の単一規格を目指した。

 併せて,これまでの携帯電話方式は音声サービスを中心として開発されたため,高速データ通信の対応が十分でなかったり,ユーザー数の急増で周波数がひっ迫するという懸念があった。こうした問題の解決も,IMT-2000開発の目的だった。

 IMT-2000が掲げている具体的な要求条件は,固定電話並みの通話品質,データ通信速度は自動車などの移動環境で144kビット/秒,歩行時に384kビット/秒,室内の静止環境では2Mビット/秒程度---である。まさにこれからのマルチメディア・コンテンツ時代を見据えた要求条件と言えるだろう。

 しかし,単一規格の夢は破れる。1999年11月にITUが合計五つの方式を採用したため,結局は複数の規格が併存することになった。これには日本が提案した「W-CDMA(Wideband CDMA)」,米国の「CDMA2000」,中国の「TD-SCDMA」などが含まれる。このうち日本のW-CDMAは,その名の通りCDMA方式の移動通信システムをマルチメディアに対応できるように広帯域化(Wideband)したものである。

■W-CDMA,IMT-DS,DS-CDMAはどれも同じもの

 日本では,NTTドコモのFOMAがW-CDMAを採用している。またJ-フォンが2002年6月に東京都内で始める3GサービスもこのW-CDMAである。なおW-CDMAには別の名称が使われることがあり,ここにも混乱の種がある。例えば,ITUの無線通信部門であるITU-Rの勧告名では「IMT-DS」,日本の標準化機関であるARIBでは「DS-CDMA」と呼ばれている。

 米国提案のCDMA2000は,QUALCOMM社がcdmaOneの技術をもとに,利用周波数帯域を広げた(広帯域化させた)方式である。CDMA2000はW-CDMAに対抗する技術と言われており,日本ではauグループが採用している。こちらもITU-Rの勧告名とARIBの名称があるのでややこしい。それぞれの名称は「IMT-MC」「MC-CDMA」である。

 このほか,「UMTS」という言葉も聞くが,これはETSI(欧州電気通信標準化協会)が定めるIMT-2000の欧州規格である。その技術仕様はNTTドコモとJ-フォンのW-CDMAとほぼ同じであるものの,同一ではない(ITU-R勧告名はいずれもIMT-DS)。そこでこれらの互換性確保を目的として発足したのが,「3GPP(3rd Generationn Partnership Project)」である。

 この3GPPにはETSI,日本のARIBやTTC(電信電話技術委員会),米T1委員会,韓国のTTA(Korean Telecommunications Technology Association)が参加している。これに対し,CDMA2000をベースとするIMT-2000規格(ITU-R勧告名ではIMT-MC)陣営も同様の活動を行っており,こちらは「3GPP2(3rd Generationn Partnership Project 2)」と呼ばれている。

■2Gと3Gの狭間にある“2.5G”

 ここまでで,で第1世代から第3世代までの概要についてはわかってもらえただろう。ところがUS NEWS FLASHでは,3Gと同じ頻度で“2.5G”が登場する。日本ではあまりお目にかからない2.5Gは,2Gと3Gの橋渡しという意味で使われることが多い。「日経コミュニケーション/通信・ネットワーク用語ハンドブック2001年版(日経BP社)」によると,2.5Gは「現行(2G)の移動通信システムを活用し,IMT-2000と同等の高速データ通信を可能とするシステムを呼ぶ場合に使う俗称」である。

 そこで,具体的にどんなシステムがあるのかと調べてみると,「GPRS」「EDGE」「CDMA2000 1x」が該当するようだ。これらもよくお目にかかるの単語なので,概要だけでも把握しておきたい。

 まず,GPRS(General Packet Radio Service)は,欧州のGSM方式のネットワーク上で提供する高速パケット通信サービスのことである。GSMの最大データ通信速度9600ビット/秒を最大171.2k/秒まで引き上げている。そしてEDGEは,これをさらに高速化したGPRSの後継技術である。EDGEでは384k~500kビット/秒が可能になるとされている。

■1本使うと1x,3本使うと3x

 次のCDMA2000 1x(単に「1x」とも呼ばれる)だが,これは前述のcdmaOneの拡張方式である。ところがCDMA2000 1xは,3GであるCDMA2000の一仕様でもある。つまり技術的には2Gを向上させたもの(つまり2.5G)なのだが,分類は3Gに入るのである。

 CDMA2000は,既存のcdmaOneと同じく1.25MHzの帯域幅を使うのだが,この帯域幅を複数束ねて使えるところに特徴がある(このことから,ITU-RやARIBの名称にMC:multicarrier-codeという文字が付いている)。これを複数束ねず,cdmaOneにように1.25MHz幅一つだけを使いながらも,データ通信速度を最大144kビット/秒に高めるのが1xなのである。つまり,1本しか使用しないので“1x”というわけだ。これに対して,CDMA2000には1.25MHz幅を3本束ねる仕様もあり,こちらは「3x」と呼ばれている。

 なぜ複数束ねられるところを1本しか使わないのだろうか。それは,コストの理由からである。。つまり,コストのかかる3xの準備をして導入を遅らせるよりも,比較的安価な1xを早めにスタートさせ,早期に市場開拓した方がメリットが大きいと考えられるからである。IMT-2000の要求条件であるデータ通信速度は,2Mビット/秒程度(室内の静止環境)だが,IMT-2000はサービス開始時点からこれを完全に満たすようには要求していない。1xの最大144kビット/秒でもよいとしている

 そして1xをさらに拡張したものに,「1xEV(1x evolution)」がある。1xEVには,最大2.4Mビット/秒を実現する,データ通信に特化した「1xEV-DO」(DOはData Only)と,データと音声の混在が可能な「1xEV-DV」がある。前者にはQUALCOMM社が開発したHDR技術が使われている。

 なおW-CDMA陣営には,HSPDA(High Speed Downlink Packet Access)と呼ぶ技術もある。これはW-CDMAをベースとする高速データ通信技術で,W-CDMAの延長技術にあたる。1xEV-DOの対抗技術と位置付けられている。

■“ケータイ”よりも広義のPCS

 最後に規格の名称ではないが,PCS(Personal Communication Service)という単語を解説して締めくくろう。あたかも規格の一つと思える文脈で登場するために混乱の種となるが,PCSとは米国のデジタル移動通信システム・サービスの総称である。具体的には,デジタル携帯電話やコードレス電話,固定無線接続(FWA)も含んだ,広範囲な通信サービスの名称である。日本ではPHSも含んだ移動電話の総称として“ケータイ”と呼ぶこともあるが,PCSはそれよりも広い意味を持った用語なのである。

 米国では,現在多くの通信事業者がIS-136や「GSM 1900」(1.9GHz帯を使うGSM),IS-95(cdmaOne)を用いたサービスを提供している。これらはいずれもPCSの一種である。

◎関連記事
<cdmaOne/CDMA2000/CDMA2000 1X>
米スプリントが3G携帯電話向けアプリ開発のリソース・キットを配布,米ボーランドと開発支援で提携拡大
auがPDC方式の新規加入を3月末で停止。cdmaOneへの移行を促進 
米ハンドスプリングと米スプリントがCDMA対応「Treo」で協力
cdmaOneに経営資源を集中。KDDIが中期経営戦略を発表
KDDI,第3世代携帯電話を4月1日スタート
KDDI,cdmaOne拡張版「1x」を4月開始。データ通信速度を最大144kビット/秒に
京セラ米国法人がCDMA2000 1Xネットワーク対応のA-GPS無線モジュールを発表
米マイクロソフト,米ベライゾンなど4社が「Pocket PC 2002」搭載携帯電話機で協力
米コンパックがモバイル機器の3G無線データ通信機能搭載で米ルーセントと提携
米ルーセントがCDMA2000基地局システムを発表,「将来技術への移行が容易」
米QUALCOMMがCDMA2000 1Xのマルチモードに対応したチップセット「radioOne 6300」を発表
米QUALCOMMが中国の通信機器製造会社11社にCDMAに関するライセンスを供与
1xEV-DVの標準化,3GPP2がQUALCOMMなど6社の共同提案をベースに実施へ
QUALCOMMがCDMA2000 1XとBluetoothでビデオ・ストリーミングの性能デモ
世界初の商用BREWサービス,韓国で11月に開始へ
国際電気通信連合(ITU)がIMT-2000の標準方式としてCDMA2000 1xEV-DOを承認
米クアルコムがcdma2000 1x向けソリューションの廉価版「MSM6000」を発表
KDDI,HDRを2002年内に商用化。最大2.4Mbpsのスループットを確認
米ルーセント,米ベイラゾンによる米国初の第3世代携帯電話の機器供給

<W-CDMA>
【CeBIT 2002速報】NEC,16日発売のiモード端末を展示。マン島で提供中の欧州版3G端末も
FOMA生かした法人向けソリューション。商用化に向けドコモとオラクルが協力
FOMAの提供エリアが4月に全国60%へ。新端末や期間限定割引も投入
日産とNTTドコモ,FOMAを使った自動車向けの情報サービスを共同で提供へ
【CeBIT 2002速報】 ノキア,新型携帯電話機5機種を披露。3G端末は2002年第3四半期に発売
三菱と東芝が3G端末の開発で提携。コスト削減と期間短縮を狙う
米AT&T Wirelessとエリクソンが3G UMTS音声コールを確立,「米国で初めて」
米ルーセント,米クアルコムのチップを採用した第3世代携帯電話による試験通話に成功
解説:IMT-2000のエリア展開で延期を示唆するJ-フォン,Vodafoneの世界戦略も障害か
J-フォンのIMT-2000はデュアルバンド端末に。PDC併用でエリア補完をねらう
さて,FOMAはどんな用途で使われるのだろう?
第3世代携帯電話「FOMA」がスタート この“第3世代”ってなんだろう?
DS-CDMAの高度化方式,3GPPが2002年初めに決定,5MHzで10Mb/sを可能に

<GSM/GPRS>
【CeBIT 2002速報】 マイクロソフトOS搭載のスマートフォン。欧米各国で相次いで製品化
【CeBIT 2002速報】モトローラ,2月発表の2.5G端末を公開。大手5社で唯一,W-CDMA端末も展示
【CeBIT 2002速報】松下通工,カメラ付き2.5G端末を発表。FOMAビデオフォンのデモも実施
【CeBIT 2002速報】 ソニー・エリクソンが本格始動。PDA型など同社初のGSM携帯電話機を出展
【CeBIT 2002速報】 三菱電機も欧州版iモード端末を開発。ドコモはE-プラスのインフラでデモを実施
仏アルカテル,米コンパック,米パケットビデオがGPRSハンドヘルド向けストリーミングをデモへ
米インテルと米マイクロソフト,「Windows CE .NET」の「XScale」対応で協力
ノキアと米AT&T Wireless Servicesが,3GのライブEDGEデータ・コールを確立

<第4世代>
第4世代移動通信システム
第4世代移動通信システム,実用化時期は2010年前後に,ITU-Rが方針固める
総務省,第4世代移動通信システムの開発強化に向けたフォーラムを設立へ 
2010年に無線で100Mビット/秒,第4世代移動通信システムの仕様案が固まる

<市場調査>
世界の携帯電話ユーザーの44%がmキャッシュに興味を示す---米調査会社
2001年の携帯電話機世界市場は販売打数が前年比3.2%減の3億9960万台
「米国における無線データ市場,今後5年間で約4倍の160億ドル規模へ」,と米調査
「世界の携帯電話機市場,2002年の販売台数は4億6200万台で回復基調へ」,米調査
「世界の携帯電話ユーザー,2006年には19億人に」と米ストラテジー
「3G携帯電話向けの部品,2.5G向けよりも49%割高」,米ABIの調査
「一般消費者は今すぐにでもモバイル・マルチメディア・サービスを利用したがっている」---。QUALCOMM,Lucent,MicrosoftがIDCの調査結果を引用
「2006年のVBNサービス市場は2001年の87倍に」,とIDCの調査
「世界の携帯電話機市場,2001年3Qは前年比9%減」,米ガートナーの調査
「2003年に2.5G/3Gインフラ機器の売上高が2Gを超える」と米調査