NTTドコモがFOMAの本サービスを開始した。今はまだ,使えるエリアが関東の一部地域に限られているが,予定通りにエリア拡張作業が進むなら,来春には全国の主要都市で使えるようになるという(サービス・エリア情報サイト)。さて,FOMAの魅力は何だろうか。FOMAは,どんな用途に適しているのだろう。

2Gの買い替え需要にこたえられるか?

 FOMAが提供する通信サービスは三つある。音声通話(いわゆる電話),下り速度が最大384kビット/秒のパケット通信,そして64kビット/秒の回線交換サービスである。このうちパケット通信は,現行のサービス(DoPa)が最大28.8kビット/秒なので,10倍以上高速になる。64kの回線交換は,現行世代(第2世代;2G)の携帯電話(PDCやcdmaOne)にはなかったもの。こちらは,直接ISDN網に乗り入れられるなど,使い勝手からみるとPHSの64kサービスに似ている。

 普通に考えると,FOMAは2Gの後継技術として開発された第3世代携帯電話(3G)だから,2Gの端末を買い替えるタイミングでFOMA端末に手が伸びるということになる。もちろん,そのためにはエリアの整備だけでなく,いくつかの条件が整っていなければならない。例えば端末そのものに魅力があることや,サービスやコンテンツが2Gサービスと同等かそれ以上であるということだ。もっとも端末やコンテンツについては心配には及ばないだろう。ドコモがFOMAを成功させたいのなら,そちらの対策には万全を期すはずだ。

 途切れにくさとか,音声の明瞭さなどの通話品質については,FOMAがPDCを上回りそう。FOMAは,いくつもの面でPDCより優れた技術を使っているからだ。例えば音声符号化では,帯域の空き状況に応じて符号化速度を変える技術を導入している。このあたりは日経NETWORK11月号の特集記事「携帯電話のしくみを探る」で詳しく紹介したので,関心がある方はそちらを見て欲しい。機器の品質や設備の運用が安定すれば,通話品質の面では3Gに移行しても不満に思うことはないだろう。

 となると,普及するかどうかのポイントは,やっぱり通信料金になる。FOMAの通信料金はPDCより安いのだろうか。

通話料は2G並み,パケット通信は大幅安

 まずは通話料から。FOMAとPDCでは通話料の課金方式が違う。PDCは10円単位で通話できる秒数(16~47.5秒)を決めていたが,FOMAは30秒単位で課金する。そこで目安として,3分あたりの通話料を比べてみた。FOMAの通話料は45~132円/3分で,PDCのそれは40円~168円/3分となる。ほぼ同じ水準といえるだろう。時間帯や距離,通話する相手(固定電話,携帯電話,PHS)で課金単位が変わることも同じである。

 パケット通信はどうか。こちらは,ヘビー・ユーザー向けの専用メニュー「パケットパック」がある分だけ,FOMAの方が安い。DoPaの通信料は0.15~0.4円/パケット(128バイト)だが,FOMAのパケット通信料は0.02~0.2円/パケットである。

 iモードのヘビー・ユーザーなら,FOMAを使えばパケット通信料を大幅に安くできそう。PDCでは一律0.3円/パケットだったが,FOMAでは0.2円/パケットと3分の2になるからだ。その上,前述のパケットパックを適用できる。パケットパックは月額2000/4000/8000円の3タイプがあり,それぞれパケット当たりの通信料は0.1/0.05/0.02円になる。月額料金はパケット通信料に充当される。つまり,8000円のコースを申し込んだとすると,月当たり40万パケット=51.2Mバイト分までは追加料金がいらず,それ以降は0.02円/パケットで課金されるということだ。PDCのiモードで8000円分といえば,わずか3.4Mバイト分だった。

 こうしてみてくると,「通話とiモードで十分」と考えるなら,エリアが広がった時点でPDCからFOMAに乗り換えるというシナリオはそれほど不自然なものではない。あとはFOMA端末の魅力と価格のバランスが問われることになる。

料金ではかなわないが,速さはPHSに勝る

 ではデータ通信のインフラとしてはどうだろうか。実は3Gは,携帯電話専用のシステム技術として開発されたわけではない。3Gの開発を促進してきたのはITU-Tだが,ITU-Tが当初掲げていた3Gの目標は,最大2Mビット/秒という高速な汎用の移動体通信インフラだった。ITU-Tでは3G技術を「IMT-2000」と名付けたが,この2000は2000(kビット/秒)の意味も込められていた。

 FOMAをデータ通信インフラとして見ると,選択肢となるメニューは二つある。パケット通信と64k回線交換だ。64k回線交換の料金体系は通話料と同じで,その水準は通話料の約2倍弱といったところだ。3分当たりで見ると84~237円となる。仮に3分100円とすると,回線交換では100円で約1.5Mバイト(理論的な最大値)分だけ通信できることになる。パケット通信なら100円で運べるのは64K~640Kバイトだ。実際には,回線交換のときはオーバヘッドがあるため通信できるデータ量は少なくなるが,それでも基本的には「安さなら回線交換,速さならパケット交換」という棲み分けになるだろう。

 データ通信インフラとしてFOMAを見たとき,その競合相手は2Gではない。当面はPHSになる。エリアと移動性では2GにかなわないPHSであるが,データ通信なら速度でも料金でも2Gを圧倒している。FOMAはPHSに対抗できるだろうか。

 料金面で見ると,PHSが圧勝する。PHSには完全定額制のメニューがあるからだ。例えばDDIポケットのAir H”は月額5800円(年間契約すると月額4930円)で使い放題となる。ただしこの場合,最大速度は下り32kビット/秒,上り17kビット/秒だ。

 速度で選ぶなら,しばらくはFOMAの優位性が保たれそう。PHSを使ったデータ通信の最大速度は現時点で64kビット/秒。DDIポケットは来春に高速化する予定だが,その時点でも最大速度は128kビット/秒止まりである。

 ただしPHSにはその先もある。無線技術を高度化し,最大1Mビット/秒程度にまで高速化するしくみが開発されているのだ。この高速化に向けた技術検討は2000年半ばから始めており,2001年6月には情報通信審議会が総務省に技術的条件を答申している。PHSの高速化計画が順調に進めば,PHSは料金だけでなく速度面でもFOMAを上回ることになる。

ちょっと気になるホットスポット

 高速な無線通信インフラとしては,まったく別のアプローチもある。いわゆるホットスポット・サービスだ。ホットスポットはハンバーガー・ショップ,ホテル,駅,列車,ショップなどの小さな特定エリアに限定された無線インターネット・サービスのこと。エリアまでは有線でインターネットを引き込み,そのエリアのアクセス・ポイントと端末は無線LANやBluetoothで結ぼうというアプローチだ。

 具体例としては,モスバーガーとNTTコミュニケーションズのHI-FIBE(http://www.hifibe.net/),日本エリクソン,丸紅,ハンドスプリングの「B.L.T.プロジェクト」(http://www.b-l-t.org/top.html),NTT西日本とプロバイダが共同で運営する「フレッツ・スポットアクセス」(http://www.ntt-west.co.jp/spot/)などがある。どれも試験段階であるが,こうしたスポットがどんどん広がりそうな雲行きだ。

 ホットスポットは,移動性でもエリアでも,FOMAとPHSに劣っている。しかし,手もちのノート・パソコンを街角でインターネットにつなぐという用途を考えると,その高速性と使い勝手のよさはなかなか捨てがたい。料金もFOMAやPHSよりは安くなるだろう。

 PHSとホットスポットがどのように整備されていくかはまだ見えていない。ただ,FOMAが無線通信インフラの決定版でないことだけは確かなようだ。

(林 哲史=日経NETWORK副編集長)