2006年,通信・ネットワーク業界にもさまざまなトピックが飛び交った。携帯電話事業者の再編から番号ポータビリティ(MNP)開始に関連した一連の騒動,「ワンセグ」サービスの開始,そして高速電力線通信(PLC)やNGN(次世代ネットワーク)など新しいネットワークの仕組みの始動などである。ITpro「Network」で報道した重大ニュースから,2006年を振り返ってみよう。

■次世代ネットワーク「NGN」ついに発進

写真1 NTTのNGNトライアルに参加する12社の幹部
 記憶に新しいところでは,NTTグループがNGNのトライアルを12月20日開始したニュースが挙げられる。NGNは電話網のIP化に端を発し,通信事業者の各種サービスをIP網上に集約したネットワークである。携帯電話と固定電話のサービスを融合した「FMC」(fixed mobile conversion)や,放送とIP電話,ブロードバンドを合わせた「トリプルプレイ」といった新しいサービスのインフラとして期待されている。

 NTTグループは7月にNGNの接続条件を公開し,12月にフィールド・トライアルにこぎ着けた。このトライアルのショールームでは,企業向け,家庭向け,社会・公共向けの3種類のビジョンを掲げ,ハイビジョン相当の画質のテレビ放送やテレビ会議,遠隔診療などを実験していく。2007年のNGN始動本格化に向けて,その成果に注目したい。

■番号ポータビリティ緒戦はKDDI(au)に軍配

 10月24日に始まった「携帯電話の番号ポータビリティ」(MNP)は,“予想外”に大きな社会現象にもなった。携帯電話の電話番号を変えずに異なる事業者に契約を変更できる制度で,これ自体は古くからユーザーに待ち望まれていたものだ。しかし,各社の宣伝の応酬に加えてソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)が直前に新サービスを発表し,話題に火が付いた。  追い打ちを掛けるように同じくソフトバンクモバイルが番号ポータビリティの処理を引き金にシステム障害を起こし,契約業務などに支障が出た。こうしたことが重なり,番号ポータビリティは国民的関心事にまで拡大した。フタを空けてみた結果,制度開始後の直近でほくそ笑んだのはKDDI(au)だけ。11月にはNTTドコモは会社設立以来の契約数純減に見舞われることになった。

■ソフトバンクが携帯電話事業に本格参入

写真2 ボーダフォン日本法人を買収したソフトバンクの孫社長(中央)
 2006年も通信事業者の再編は進んだ。番号ポータビリティでも大きな話題を振りまいたソフトバンクモバイルは,3月に旧ボーダフォンをソフトバンクが買収して登場した会社である。2005年に携帯電話事業への新規参入が認められたソフトバンクは,その後半年も経たないうちに「新規」から「既存大手」の携帯電話事業者になった。成長が頭打ちになっていたボーダフォンから,何かが起こりそうなソフトバンクモバイルになり,ユーザーにとって目が離せない存在ではある。

 その影で,ソフトバンクモバイルの前身であるデジタルホンと同時に1.5GHz帯の携帯電話サービスを開始したツーカーブランドのサービスが,2008年3月でサービスを終了することも明らかになった。固定系の事業でも一つの時代が終わりを迎えた。通信事業でNTTグループの対抗軸になることも期待されていた電力会社の東の雄,東京電力が傘下のパワードコムに続き光ファイバ部門をKDDIに売却,通信事業の表舞台から姿を消した。

■高速PLCがようやく利用可能に

写真3 松下電器の高速PLC製品
 同じ「電力」でも2006年に脚光を浴びたものとして,高速PLCがある。10月に法令改正の答申が出たことを受け,年末までに製品が市場に投入された。家庭などの電力線をあたかもLANのように使える高速PLCは,ITpro読者の興味を引きつけ,製品のレビュー記事がITproのアクセス数年間ランキングでも4位に位置した。一方で,高速PLCからの漏えい電波により障害が出るなどとして,アマチュア無線家らが差し止め訴訟を起こしており,祝福された船出とは言い難い側面もある。

■ワンセグがテレビ視聴の方法を変える

 放送分野では,地上デジタル放送の移動体向け放送「ワンセグ」の開始が2006年の一大トピックであった。4月1日に本放送が始まったワンセグは,携帯電話だけでなくカーナビゲーションシステム,パソコン,電子辞書,携帯音楽プレーヤーなど各種の対応機器が市場に出回り,ユーザーへの浸透が始まっている。デジタル方式の採用で電波状態の影響を受けにくい安定した画質はもとより,テレビ番組の視聴と同時にデータ放送で各種の情報を閲覧できるサービスを得られる。携帯電話事業者各社は2006年の秋冬モデルには複数のワンセグ端末をラインアップに加え,視聴環境も整いつつある。2007年にはさらに端末の普及が進み,一つのメディアに近づくと考えられる。

■スマートフォン離陸へ

 携帯電話/PHSの端末では,PDA的な機能を併せ持つ「スマートフォン」が離陸の年になった。2005年にNTTドコモが本格的なスマートフォン「ビジネスFOMA M1000」を発売したのを皮切りに,2005年末に発売したウィルコムのWindows Mobile搭載端末「W-ZERO3」が市場に衝撃を与えた。2006年にはウィルコムの「W-ZERO3[es]」,NTTドコモの「hTc Z」,ソフトバンクモバイルの「X01HT」など,Windows Mobile搭載端末が続々と登場。オープンなプラットフォーム上で企業などが作り込んだアプリケーションを実装できる携帯電話の時代が始まった。

■将来へ向けての無線通信の高速化も結実

写真4 NTTドコモのHSDPA対応端末「FOMA N902iX HIGH-SPEED」
 2006年は無線通信の高速化が進んだ年でもあった。携帯電話では,下り最大3.6Mbpsの伝送速度を実現したHSDPA(high speed downlink packet access)方式によるサービスがNTTドコモとソフトバンクモバイルにより開始。KDDIは,「CDMA2000 1x EV-DO Rev. A」方式を使って上り1.8Mbps,下り3.1Mbpsのサービスを開始した。ウィルコムのPHSも,最大408kbpsの伝送速度を実現した「W-OAM」技術を採用し,高速化を進めている。

 無線LANでは実効速度で100Mbpsクラスの伝送速度を得られる次世代無線LAN技術のIEEE802.11nは,国内での導入に向けた省令改正に向けた準備が進んでいる。75Mbpsといった通信が可能な「モバイルWiMAX」も実用段階に近づいてきている。すでに韓国ではサービスが始まり,国内でもKDDIをはじめとした通信事業者がサービス提供に向けてトライアルを重ねている。2007年に高速なモバイル通信環境を実現するための布石が打たれてきた。

●携帯電話/PHS

●IEEE802.11n,WiMAX

■トラブルから学ぶ

 NTT東日本,西日本の光ファイバ網によるIP電話サービス「ひかり電話」に相次ぐトラブルが発生したのも記憶に新しい。交換網を使った従来型の電話サービスとは異なるIPベースのネットワークの今後の展開に,安定運用という大きな課題が浮き上がった格好だ。Winnyによる情報漏えいが社会問題化した中,インターネットサービスプロバイダの対応も大きな話題になった。特にぷららネットワークスによるWinny遮断サービスは,総務省からいったんストップがかかり再考することになるなど課題が顕在化。通信の自由とセキュリティのトレードオフがクローズアップされることになった。

●ひかり電話トラブル

●ISPのWinny遮断