写真1 訴状を手に提訴の目的を語る原告団の草野利一団長
写真1 訴状を手に提訴の目的を語る原告団の草野利一団長
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 10月4日に解禁された高速電力線通信(PLC)が短波帯の無線通信を妨害するとして,アマチュア無線家など115人が国を相手取り,PLC機器の認可の取り消しと差し止めを求める行政訴訟を東京地裁に起こした。原告は「『妨害を与えないと認めた場合のみ認可すべき』とする電波法第100条第2項などに抵触し,総務相の裁量を超えている」(原告弁護団の海渡雄一弁護士)と判断。訴訟に踏み切った。

 原告団の草野利一団長は訴訟の目的について,「弱い出力でも遠方と通信できる有益な電波資源である短波帯を守るため」と説明。アマチュア無線や短波放送,電波天文,航空管制や船舶用無線への影響も指摘する。原告団は会見の席上,PLCによって発生したアマチュア無線や短波放送の雑音を再生し,PLC機器の普及による短波帯の通信の阻害を訴えた。

「電流値での規制は技術的に誤り」と主張

 PLCは2M~30MHzの短波帯を利用する有線通信技術。高周波による通信を想定していない電力線を使うため電波が漏えいする。草野氏は,「解禁を議論する研究会で,漏えい電波そのものを測定・規制するのではなく,漏えい電波の元になる同相(コモンモード)電流の規制に話がすり替わった。これは技術的に誤りだ」と主張する。法廷では,コモンモード電流の規制が漏えい電波の低減に直結しないという技術的な立証が争点となりそうだ。

 PLCについては,2005年1月から総務省主催の研究会で技術基準を検討し,既存の無線通信に重大な影響を及ぼさないよう基準を定めた。ただ漏えい電波そのものではなく,漏えい電波の主要因となる「コモンモード電流」の値を規制する方向で議論が進んだため,利用環境によっては電力線が効率の良いアンテナとして働く可能性があると研究会や審議会で指摘されてきた。

 2005年12月にいったん規制値を取りまとめた後に実施した実証実験の結果をふまえ,2006年6月に規制値を10dB引き上げた(関連記事)。この技術基準を基に総務省が改正省令案を作成。省令改正を適当とする答申を総務相に出した9月の電波監理審議会に先立ち,原告団の草野団長が1800人を超える反対署名を電波監理審議会に提出していた(関連記事)。

 今後は提訴以後に総務相の認可を受けた機器についても,個々に訴えていく方針。「法律上,改正された省令自体を変える訴訟は成り立たない。認可の差し止めと取り消しの2本立てて戦う」(海渡弁護士)。

 なおパナソニック コミュニケーションズのPLCモデムがアマチュア無線およびラジオNIKKEIの周波数帯域を使用しない措置を取っている点については,「パナソニック コミュニケーションズの善意に頼っている状態。使用帯域の制限が規制の範ちゅうにない以上,他のメーカーが帯域制限をかける保証はない」(弁護団の只野靖弁護士)とコメント。現時点で,12月9日に製品を出荷するパナソニック コミュニケーションズ以外に11社が認可を受けているという。

●日経コミュニケーション編集部より 掲載当初,本文中に「日本アマチュア無線連盟」の名前が入っていましたが,関係がないため削除いたしました。2006.12.08