高速電力線搬送通信設備小委員会の最終会合
高速電力線搬送通信設備小委員会の最終会合
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 総務省は6月5日,高速電力線通信(PLC)の実用化に際する技術基準などを検討する「高速電力線搬送通信設備小委員会」の最終会合を開催した。前回の会合では主任を務める東北大学電気通信研究所の杉浦行教授が規制値の強化案を提案していた。今回の会合では,これを受けて規制値の見直しを議論した。

 高速電力線通信の規制値に関する議論は,2005年1月に「高速電力線搬送通信に関する研究会」の場で始まった。規制緩和を推すメーカーや電力会社と,利用に懸念を抱く日本アマチュア無線連盟など無線利用者ら関係者数十名が,約1年間にわたり議論を重ね,2005年12月に研究会としての規制値を取りまとめた。その後,この規制値をベースに,モデムの出荷前測定方法などを議論する目的で「高速電力線搬送通信設備小委員会」が設置され,議論を進めてきた。

 2005年12月に決定した規制値を満たす試作機が完成したことから,小委員会では5月に実証実験を実施,条件によっては環境雑音を超える漏えい電磁波が観測された。この結果を重視した杉浦主任は,前回の会合で規制の強化案を提案していた(参考記事)。

 メーカーや業界団体らは見直し案に対して異論を唱えた。「研究会が終わってから半年間,実用化を目指して必死に技術開発してきた。10dBの引き下げは誤差の範囲を超える。測定方法や規制値の算出方法なども納得できない」(CIAJ)と主張した。だが,「周囲の環境雑音を越えないというのが昨年の研究会から一貫する規制値の考え方。見直しはやむを得ない」(杉浦主任)と反論を退け,見直し案を小委員会の報告書とすることが確定した。いったんは確定した規制値がくつがえる,異例の措置となった。

 電力線通信をめぐる研究会や委員会の運営方法にも疑問の声が出た。「なぜ1年間も研究会で議論をしてきたのに(規制値の見直しにつながるような)データが出そろっていなかったのか。運営方法に問題がある」(NHK)との指摘も飛び出した。これに対して,総務省は「研究会の時点では取りまとめた規制値を満たすモデムは存在しなかったのだからやむを得ない」(電波環境課)としている。

 報告書案は,同日開催された情報通信審議会配下の「CISPR委員会」に提示され,承認された。この後,6月29日に開催予定の「情報通信審議会技術分科会」で議論される。さらに電波監理審議会を経て,省令改正となる見通しだ。

 今回の規制値を満たす場合,「シミュレーションの結果では通信速度は50%低下する」(パナソニックコミュニケーションズ)という。今秋にも市場に登場すると思われていた電力線モデムだが,今回の見直しで先行きが見えない状況になってきた。

●日経コミュニケーション編集部より 杉浦主任の肩書きと規制値の引き下げ幅について,記事掲載時にはそれぞれ「座長」「10dBμA」と表現としておりましたが,誤りであることが判明したため「主任」と「10dB」に訂正しました。2006.06.07