ウィルコムは、OSにWindows Mobileを採用したスマートフォンの新製品「W-ZERO3[es]」を発売する(PC Online関連記事)。2005年12月に発売された「W-ZERO3」を小型化し、携帯電話機としての使い勝手も向上させた機種だ。同製品の商品企画に携わった、ウィルコム 営業開発部 企画マーケティンググループ 課長補佐の須永康弘氏と、シャープ 情報通信事業本部 新携帯端末事業部 第1商品企画部 主事の廣瀬泰治氏に開発の舞台裏や、製品に込められた開発チームのこだわりを聞いた。(聞き手は金子 寛人=日経パソコン

「2カ月前倒しできませんか」「なりません」

■W-ZERO3の発売から半年で、派生機種であるW-ZERO3[es](以下、es)を発売することを発表した。早い段階でこうした派生機種を作ることを計画していたのか。

廣瀬 W-ZERO3が発売された時点で、次の製品もやりたいという提案をウィルコムから受けており、メーカーとしてそれは異論のないところだった。

須永 「やりましょう」と決めるのが先で、細かい仕様については開発をしながら詰めていくという状況だった。例えば、esとW-ZERO3でソフトウエアの互換性を確保することや、esには無線LANを搭載しないことなど、大きなところは最初の段階で決めていたが、プリント配線基板の回路設計や、esで新たに搭載したテンキー部のボタン配置、十字キーの仕様などは後から詰めた。

 通常であれば、あらかじめ細かい仕様まで決めてから設計にかかるところだが、それをやっていると開発スケジュールが遅れてしまう。W-ZERO3の時もハードだったが、esの開発はそれ以上にハードだった。

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W-ZERO3[es]の商品企画に携わった、ウィルコムの須永康弘氏(左)とシャープの廣瀬泰治氏

■W-ZERO3を発売してから開発に取りかかったとなると、わずか半年という短期間の開発スケジュールだったことになる。その中でユーザーの意見も反映した製品を出すとなると、相当に余裕のない開発工程になったのではないか。なぜそんな急ピッチで開発を進めたのか。

須永 ウィルコムとしては、どうしても7月に発売したいという思いがあった。実は今回、シャープへ最初に話を持って行ったとき、シャープの開発チームから提案いただいたスケジュールは2006年秋発売となっていた。専門家が3~4週間考えてその結論が出たのだから、やはり9カ月くらいは確保するのが妥当だったのだろう。しかしウィルコムとしては、夏のボーナス商戦に向け新しい製品を必要としていた。

図2
W-ZERO3[es]。W-ZERO3をベースに、胸ポケットに収まるサイズへ小型化し、片手で簡単に操作や入力ができることを目指した

 そこで、シャープの開発チームに「2カ月前倒しすることはできないか」と聞いた。当然、最初は「なりません」と断られたのだが、「了解いただくまで帰りません」と頼み込み、最終的には根比べで了承してもらった。

 限られた時間の中で開発を進めたわけで、それに伴うリスクは常に抱えている。開発チームの技術者1人ひとりの仕事に、1つでも穴があれば、それがそのまま製品に潜んだ欠陥として世に出てしまうわけだ。そうしたリスクを取ってでもスピードを重視して開発をしてくれるメーカーはシャープくらいしかない。当社(ウィルコム)社長の八剱(洋一郎氏)は製品発表の記者会見で「esを開発できたのはシャープだからこそ」と発言していたが、これは八剱だけでなく、ウィルコムの幹部全員が実感していることだ。

廣瀬 引き受けると決めた以上は、納期は厳守しなければいけない。これを実現するために、外観のデザインや内部のハードウエア設計、ソフトウエアの開発といった複数の工程を、連絡を密にしながら同時並行で進めていった。併せて、社内の稟議などに必要以上の時間を取られるわけにもいかないので、ある程度の決裁であれば口頭でもゴーサインを出してもらうなどして、時間を節約した。開発した製品の使い勝手を確認するユーザビリティーテストは、シャープの開発チームが自ら被験者となって実施した。このように、地道なプロセス改善の積み重ねで開発期間を少しずつ短縮していくことを図った。人員などの開発資源を大幅に増やすといった手段は採っていない。

「W-ZERO3は15万台売れたが、50万台は売れない。その限界を突破したい」

■派生機種であるesを作るにあたり、どのような設計思想で開発に取り組んだのか。