2006年には,ITが業務効率化のための単なる道具ではなく,企業経営そのもののインフラであることを改めて思い起こさせる出来事が相次いだ。その一方で,情報システムの開発や運用のあり方に大きなインパクトを与える技術革新が具体的な姿を見せ始めた。ITproで報じられたEnterprise分野のニュースを中心に振り返ってみたい。
■ユーザーもベンダーも一斉に走り始めた「内部統制」
写真1 内部統制に関する国内初の総合展示会「内部統制ソリューション展」には、 約1万4000人が詰めかけた |
上場企業の財務報告の適正性を確保することを目的として,2006年6月には“日本版SOX法”の条項を含む金融商品取引法が成立。この11月には,同法が求める内部統制整備・評価・監査の実務的なガイドラインである「実施基準(公開草案)」が金融庁から公表された。同法の適用が始まる2008年度(2009年3月期)以降の“本番”に向け,内部統制に取り組む上場企業はもちろん,それを支援するコンサルタントや監査法人,ITベンダーの活動がいよいよ本格化し始めた。
- 明らかになった日本版SOX法「実施基準案」,使いこなすポイントとは(12月21日)
- J-SOX実施基準草案が正式公開、IT統制の記述を若干修正(11月21日)
- 【速報】日本版SOX法「実施基準案」がついに正式公表、意見募集後の1月中旬に確定の見込み(11月20日)
- 「売上高3分の2以上を目安に業務を選定」、内部統制の基準案公表(11月6日)
- 「財務報告だけを目的にすべきでない」、IT関連4学会が産業界に提言(6月8日)
- 「内部統制の整備に企業規模は関係ない」、青学の八田教授が“日本版SOX法”成立にコメント(6月7日)
- 「日本版SOX法」が成立、2009年3月期から内部統制の報告義務(6月7日)
日本版SOX法対応を支援する製品/サービスに関するニュースは非常に数が多く,ここでは紹介しきれない。姉妹サイト「内部統制.jp」にまとめて掲載しているので,参照していただきたい。
■東証問題,話題の焦点は誤発注からシステム刷新へ
写真2 東京証券取引所の西室泰三社長(12/20付け「【続報】東証が次世代開発 ベンダーを富士通にした理由」より) |
- 【続報】東証が次世代開発ベンダーを富士通にした理由(12月20日)
- 【速報】東証の次世代売買システム、富士通が開発(12月19日)
- 誤発注による約定取引の取消ルールを整備へ、東証が検討会を設置(11月28日)
- 東証、404億円の賠償請求拒否をみずほ証券に回答へ(9月8日)
- 富士通の黒川社長、東証トラブルで「補償の要求ない、する考えもなし」(6月9日)
■大手ユーザー企業が巨額の戦略的IT投資
内部統制やリスクマネジメントといった“守り”の話題の一方で,2006年は大手ユーザー企業が,中核事業への戦略的なIT投資や大規模なシステム刷新計画を打ち出すなど,“攻め”の話題も多かった。急速な業績回復や,抜本的な業務改革に向けた基盤作りの必要性などを背景に,巨額の大型案件が目を引いた。
- 日本航空,2010年までの5年間に430億円のIT投資(今週のCIO:齋藤俊一 執行役員 ITサービス企画室室長)(12月4日)
- 日生が業務改善計画を提出、目玉は1000億円のシステム投資(8月25日)
- 大証が中期経営計画を発表、今後3年間でシステム投資130億円(3月22日)
- イオンが銀行設立を正式発表、システム投資は120億円(3月10日)
- 【速報】郵政公社が600億円で分社・民営化に向けた第4次ネット構築開始(3月2日)
■“アプリケーションのサービス化”を加速するSaaS
写真3 米Salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEO(7月7日付け「SaaSが企業向けアプリケーション の“標準”になる」、米Salesforce.com会長) |
- マイクロソフトがOffice Liveを発表、「Office Systemの機能を簡易に利用」(12月11日)
- 「SOAの時代のCIOは2人に分かれる」、SAP TechEd 06'の基調講演(10月5日)
- 「2011年までにビジネス・ソフトの25%はSaaSモデルへ」,Gartnerが予測(9月29日)
- オラクルがCRMアプリケーションのSaaS型サービスを発表(9月28日)
- 「SaaSが企業向けアプリケーションの“標準”になる」、米Salesforce.com会長(7月7日)
- SAPジャパンmySAP CRMを“SaaS”形式で提供開始、1ユーザー月額8400円(4月25日)
■「仮想化」で進化するシステム基盤
システム開発/運用技術のもう一つの大きなトレンドは,システムが稼働する基盤(プラットフォーム)の性能や拡張性,信頼性などを向上させるための技術革新である。なかでもコンピュータの「仮想化」とプロセサの「マルチコア化」は,2006年を特徴づける技術面での新潮流と言える。
1台のコンピュータ(サーバーやクライアント)で複数のOSを動かし,あたかも複数のコンピュータであるかのように運用できるようにする仮想化技術については,米マイクロソフトや米IBM,米インテルといった大手ITベンダーに加え,米VMwareなどの専門ベンダーが相次いで,仮想化を実現するための製品や技術を発表したり,技術提携を行ったりした。
- MSが仮想アプリ環境を提供へ,「アプリ互換問題を解消しVista移行時の壁をなくす」(12月18日)
- IBMとIntel,サーバー向け仮想化技術の導入推進で協力(12月15日)
- 仮想化は次のステージへ(11月16日)
- 開発・テスト環境の管理を仮想化で効率化---VMwareが新製品を発表(11月8日)
- MicrosoftとNovell提携,仮想化とオフィス文書でLinuxとWindowsの相互運用性拡大,特許も相互開放(11月4日)
- クライアントの仮想化とVistaの組み合わせに商機、インテルが企業向けPCに新技術(9月8日)
■消費電力低減と性能向上を両立する「マルチコア」
一方,米インテルや米AMDといった大手プロセサ・メーカーは,動作周波数を高めるのではなく,複数のコアを搭載することで処理性能を高めた新世代プロセサを相次ぎ発表した。消費電力を抑えながら性能を伸ばせる利点があり,サーバーとクライアントの双方で今後のプロセサの主流になる。
- AMDが新プラットフォーム「Quad FX」を発表,クアッドコア版「Opteron」もデモ(12月1日)
- AMDを引き離せるか,インテルが懸ける4つのコア(11月15日)
- Intel,クアッドコア版「Xeon」と「Core 2 Extreme」をリリース(11月15日)
- DellがCore 2 Duo搭載デスクトップなど5モデルを発表,省電力への取り組みを強調(9月13日)
- Pentium時代に幕,米Intel社が新プロセサ「Core 2 Duo」を発表(7月28日)
- “脱・性能至上主義”の本命,インテルの新プロセサ「Woodcrest」登場(6月26日)
■ユーザー企業向けのスキル標準が登場
このほか2006年には,ITエンジニアのキャリア設計,あるいは,企業のIT人材育成にかかわる重要な動きがあった。2002年末に経済産業省が発表した「ITSS(ITスキル標準)」が初めてバージョンアップ。ITSSの“ユーザー企業版”とも言える「UISS」の暫定版も公表された。一方,以前から議論されてきたITSSのレベル定義と情報処理技術者試験との対応付けについて,本格的な検討が始まった。
- 落としどころはどこに?,見えてきた「情報処理技術者試験」改革のゆくえ(12月13日)
- ユーザー向けスキル標準、暫定版が公開(5月26日)
- ITスキル標準初のバージョンアップ、4月1日からIPAのサイトで公表(3月30日)
- 「『ITスキル標準』の新版を経営者から広めたい」~情報処理推進機構ITスキル標準センター長が語る(3月29日)