写真:新型プロセサ「クアッドコア Xeon 5300番台」の外観
写真:新型プロセサ「クアッドコア Xeon 5300番台」の外観
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 インテルは11月15日,4つのコアを搭載する新型プロセッサの出荷を開始した。「クアッドコア Xeon 5300番台」だ(写真)。IAアーキテクチャのプロセッサとして初めて,1つのプロセッサ・パッケージ内に4つのコアを搭載した。

 クアッドコア Xeon 5300番台は,1つのきょう体に2個プロセッサを搭載するサーバー機やワークステーションに向けたもの。特に,1Uラック・サイズのサーバーやブレードサーバーなど,いま市場で一番ニーズがある機種を想定している。6月末に発表した「デュアルコア Xeon 5100番台(開発コード名はWoodcrest)」の後継プロセッサという位置づけである。

 これまでインテルはクアッドコア Xeon 5300番台を開発コード名「Clovertown」と呼んでいた。概要については,9月末にインテルが米サンフランシスコで開催した「Intel Developer Forum」で発表済み(IDFの関連記事)。

 インテルはクアッドコア Xeon 5300番台について4種類のプロセッサを投入する(表)。ハイエンド製品のX5355は,動作周波数が2.66GHz,2次キャッシュ容量は8MB(4MB×2),消費電力は120Wである。

表:クアッドコア Xeon 5300番台のラインナップ
製品名動作周波数システム・バス2次キャッシュ消費電力(TDP)価格(1000個受注時)出荷開始時期
クアッドコア Xeon X53552.66GHz1333MHz8MB(4MB×2)120W14万 850円2006年11月15日
クアッドコア Xeon E53452.33GHz1333MHz8MB(4MB×2)80W10万2270円2006年11月15日
クアッドコア Xeon E53201.86GHz1066MHz8MB(4MB×2)80W8万2920円2006年11月15日
クアッドコア Xeon E53101.60GHz1066MHz8MB(4MB×2)80W5万4680円2006年11月15日
(参考)デュアルコア Xeon 51603GHz1333MHz4MB80W9万7000円2006年 6月27日

 製造プロセス・ルールは65nmで,デュアルコア Xeon 5100番台と同じ。一方,このXeon 5100番台に比べると,クアッドコア Xeon 5300番台の動作周波数は低い。インテルの阿部剛士マーケティング本部長は,「Xeon 5300番台の方がクロック周波数は低いが,コア数を2倍の4つにしたので,処理性能は大幅に向上した。消費電力も同レベルに抑えた」と述べる。「昨年は主流だったシングルコアXeonの4.5倍以上,消費電力当たりの性能を見ると,4倍以上にもなる」(インテルの阿部本部長)。またデュアルコア型であるXeon 5100番台と比べて,50%性能が向上したとしている。

 プロセッサのソケット形状やチップセットは,デュアルコア Xeon 5100番台と共通だ。「ユーザーは,いまお使いのXeon 5100番台をそのままクアッドコア Xeon 5300番台に置き換えられる」(阿部本部長)。

 インテルはこれらクアッドコア Xeon 5300番台4種類に続いて,消費電力を50Wに抑えた低電圧版を2007年第1四半期(1~3月)に投入する。ただし,これら5300番台を投入したからといって,デュアルコア Xeon 5100番台の生産を止めることはない。より低消費電力と低コストを求めるユーザーに向けて,引き続きXeon 5100番台の出荷を続けるという。

 NECやデル,東芝,日本IBM,日立製作所,富士通など主要メーカーが,クアッドコア Xeon 5300番台の採用を表明。うち数社はインテルの発表と同日,搭載機の出荷を開始した。

 インテルはデスクトップ・パソコン向けのクアッドコア・プロセッサも出荷開始した。「Core 2 Extreme QX6700」である(関連記事)。

本格的なクアッドコア競争は来年

 今回インテルが投入したクアッドコア・プロセッサは,デュアルコア Xeon 5100番台のマイクロアーキテクチャ「Core」を継承している。1つのダイに4つのコアを入れた形ではなく,デュアルコアのダイ2個を1つのプロセッサ・パッケージにまとめて,クアッドコアにしている。例えれば,2つのXeon 5100番台を1つのプロセッサ・パッケージに入れ込んだ格好である。

 基本的にインテルは,コア数の増加,新しい製造プロセス・ルールの採用,新しいマイクロアーキテクチャの採用といったプロセッサの改良を同時には実施しない方針。一世代新しくするごとに,いずれかの施策を適用する。開発リスクの低減や,「量産をスムーズに進める」(米インテルのステファン・スミス コーポレート・バイス・プレジデント)ことがその理由だ。

 デュアルコア Xeon 5100番台,そしてクアッドコア Xeon 5300番台もその方針に沿った形で技術を適用した。先代であるXeon 5100番台では,Core マイクロアーキテクチャの適用を実施。今回のXeon 5300番台では,コア数を増加させた。

 インテルは2007年以降,45nmによる製造プロセス・ルールの適用と,新しいマイクロアーキテクチャの採用を予定している。新アーキテクチャでは,1つのダイに4つのコアを実装した形態になる。インテルの公式発表によると,45nmによる半導体工場の稼働時期は2007年下半期の予定(プロセッサの将来計画についての関連記事)。

 それと時期を同じくする2007年半ばには,ライバルの米AMDがクアッドコア・プロセッサを投入すると言われている。このクアッドコア・プロセッサでは,1つのダイに4つのコアを内包させる。AMDは2005年,64ビットのデュアルコア・プロセッサ「Opteron」を投入。後手に回ったインテルは,デュアルコア製品を急ぎ投入する格好になった。

 デルなど一部の大手サーバー・メーカーは,インテル製プロセッサの採用を続けるものの,ユーザーの声を受けて少しずつOpteronの採用を進めている。こうした動向は,インテルの業績にも影を落としている(関連記事)。挑戦者であるAMDにより,「覇者」インテルが揺り動かされたのがこの1,2年間だった。

 ITリサーチ会社の米ガートナーでサーバー市場に詳しいブーン・マシュー氏は,次のようにコメントする。「市場で一番数が出るサーバー・マシンのボリューム・ゾーン,デュアル・プロセッサのマシンで,インテルは米AMDの猛攻を受け,大打撃を受けた。それだけにインテルは必死だろう。実際,インテルの努力の結果,AMDの技術優位性は消えつつある。しかしインテルにとってまだ予断は許されない状況だ」。

 「来年第1四半期(1~3月),第2四半期(4~6月)に向けてXeon 5300番台の出荷数を増やす。第2四半期にはデュアル・プロセッサの市場で40%をクアッドコア Xeon 5300番台で獲りたい」とインテルの阿部本部長は語る。

 デュアルコアのレースはAMDが先行した。一方,クアッドコアのレースはインテルがスタートダッシュを切った。そしてレースが本格化するのは来年である。いずれにせよ,インテルとAMDの競争で,ユーザーは高性能というメリットを享受できそうだ。

いますぐわかる“マルチコア事情”Q&A

Q1:CPUコアの数は今後も増えるのですか。

A1:はい。一つのプロセッサに複数のコアを内蔵することを「マルチコア化」,あるいは「メニ(many)コア化」などと表現します。IAアーキテクチャのプロセッサは、2005年にデュアルコア化(2コア)、2006年にクアッドコア化(4コア)しました。今後もコア数は増える見込みです。例えばインテルは、80コアを集積したプロセッサを試作済みです。

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Q2:なぜプロセッサ内のコア数を増やすことが可能なのですか。

A2:半導体技術が進歩しているからです。「ムーアの法則」(関連記事)によれば、18カ月から24カ月で、同じチップ面積当たりに集積できるトランジスタ数は2倍に増えます。つまり、1年半から2年ごとに、2倍の数のコアを集積できることになります。現在、半導体業界では、90nm~65nmの製造プロセス・ルールに基づいた半導体技術が主流です。インテルによれば、2007年から2008年にかけて,さらに進歩した45nmルールの技術が実用化される見通しです。

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「ムーアの法則に異変なし」とIntel社,今年第3四半期には65nmが主流に」

Q3:なぜマルチコア技術が注目されているのですか。

A3:プロセッサの消費電力の大きさがやっかいな問題となっています。動作周波数を高めれば高めるほど、プロセッサの消費電力は大きくなります。マルチコア技術では、動作周波数を高める代わりに、CPUコアの数を増やすことで性能を高めます。今回、インテルが発表したクアッドコア・プロセッサは、デュアルコア型の現行品と比べて、性能を高めつつ、消費電力の低減を実現しています。

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Q4:パソコン用以外のプロセッサでも、マルチコア対応は進んでいるのですか。

A4:はい。例えばゲーム機用では、「プレイステーション 3」用プロセッサが9個のコアを、「Xbox360」用プロセッサは3個のコアを内蔵しています。

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