米国で先週から今週にかけて大手企業の業績報告が相次いだ。米Microsoft,米IBM,米Intel,米AMD,米Apple Computer,米Sun Microsystemsなどが2003年1~3月期の決算を発表したが,これらの業績報告を1つ1つ見てみると各社の状況は一様でない。Microsoft社やIBM社のように増収増益の企業もあるが,米Intelのように横ばい,AMD社のように売上高が大きく落ち込んだ企業もある。昨年の初め,「世界のIT業界は1年かけて緩やかに回復する」と言われていたが,それは実現しなかったことになる。

 業界の景気回復の時期については今ひとつよく分からない。イラク戦争や重症急性呼吸器症候群(SARS)の影響から,「回復などは当分見込めないのではないか」という懸念の声もある。そこで今回は,各社の業績結果やアナリストなどの見解を見ながら,IT業界の景気回復時期について探ってみたい。

●順調に売上を伸ばす米Microsoftだが・・・

 まず,Microsoft社の1~3月期業績を簡単におさらいしておく。同社の同四半期売上高は78億3500万ドルで,前年同期に比べて8%増加した。純利益は27億9400万ドルで,同2%の増益である。Microsoft社は,世界的に企業がIT支出を抑制している中,堅実に業績を伸ばしているといえるだろう。

 その要因は,同社が昨年から導入しているソフトウエアの長期契約にあると言われている。これは契約を結んだ企業顧客に対して,定期的に最新ソフトウエアを提供していくというサブスクリプション形式のライセンスである。Microsoft社にとっては,一度契約を結べば期間中は安定的な収入を確保できる。景気の短期的な変動に左右されにくいというメリットがあるため,「Microsoft社の非常に強力な収入源となっている」(米Sanford C. BernsteinアナリストのCharles Di Bona氏)という(掲載記事)。

 こうして売上高では,好調を維持しているMicrosoft社だが,かつてのピーク時に比べると,まだ回復状態にあるとは言い難い。同社の通期の純利益は1999年の94億ドルをピークに減少に転じ,直近の2年間は連続して80億ドルを割っている。さらに同社は,昨年末から段階的に業績予測を下方修正している。

 Microsoft社が明らかにした2004年度通期(2003年7月~2004年6月)の見通しでは,売上高が331億~338億ドル,営業利益が148億~151億ドルとなる(純利益の見通しは明らかにしていない)。前年の実績は,売上高が283億7000万ドル,営業利益は119億1000万ドルだったので,この予測通りになるとすれば,同社は確かに回復に向かっているといえる。

●「パソコン市場は回復していない」と大手調査会社

 次にパソコン市場について見てみよう。実は業界のトップ・メーカーである米Dell Computerや米HP(Hewlet-Packard)の2社がまだ決算発表を行っていない。両社の決算期が2~4月になっているからだ。そこで先ごろ発表された大手調査会社の速報を見ることで全体像をつかんでみたい。

 IDCの調査では,第1四半期における世界パソコン出荷台数は3460万台となり,前年同期に比べて2.1%増だった(掲載記事)。Gartner社の調査では,パソコン出荷台数が3450万台,前年同期に比べた伸び率は5.5%となっている(掲載記事)。これら数字には少し開きがあるものの,両社は次のような類似したコメントを出している。

 「消費者分野は比較的弱く,企業分野もまだ目立った回復をみせていない」(IDC)

 「わずかに予測を上まわったものの大幅な回復をみせるほどではない。市場を支えた要因はメーカーの積極的な価格引き下げにある」(Gartner社)

 つまり,第1四半期においてはパソコン市場の回復はなかったということである。また,影響が懸念されるイラク戦争についてはIDCが,「戦争の影響で第1四半期の需要が低下した」(同社ディレクタ,Loren Loverde氏)という見解を示している。SARSについては,「世界市場全体に与えるような大きな要因にはなっていない」(Gartner社コンピューティング・プラットフォーム・ワールドワイド部門バイス・プレジデントのCharles Smulders氏)という。

 これだけを見ても景気回復時期についてはよく分からない。それどころか,SARSの被害が今後大きくなるにつれ,状況は深刻化してくるとも考えられる。そこで,別の情報も拾ってみた。

●「Intelは大きな回復が見込める」

 4月20日付けのNew York Timesオンライン版に,米Trustco Capital Managementの投資アナリストChristian G. Koch氏にインタビューした記事が掲載された(掲載記事:閲覧には無料の登録が必要)。この中で同氏が半導体業界とIT業界全体の今後の見通しについて興味深いことを言っていたので,ここでご紹介したい。なおKoch氏はその言動が株価の変動に影響を与えるとして名が知れた人物である。

 そのKoch氏によると,SARSは半導体業界にとって大きなリスクとなる可能性があるという。世界の半導体企業が,中国/台湾,韓国と密接につながっていることから,この先,製品の供給が滞ると懸念しているという。

 しかし,それはあくまでも一時的なリスクを意味する。同氏はこのリスクについて,「早期回復が見込まれる半導体企業の出鼻をくじく程度のもの」と考えているようである。また半導体業界がウォール・ストリートで過小評価されているとも指摘している。とりわけ,Intel社にはこの先,大きな回復が見込める可能性があるとしている。

 Intel社は過去2年間にわたり,最新技術に120億ドルもの資金を投じており,コスト削減を図ってきた。それがあと一歩で実を結ぶというのが同氏の考えである。「今Intel社に必要なのは2~3%売上高を伸ばすこと。そうすれば同社の利益は6~7%増大する」(同氏)。Intel社のコスト削減策はそういう状態にまできているという。同氏のこの考えは,Intel社の決算発表後に,より強固になったという。

●「IT業界の回復は今年後半。M&Aも盛んに」

 さて,気になる業界全体の回復についてだが,Koch氏は次のように予測している。

 「昨年の12月時点で,企業の売上高は前年同期に比べ4%伸びた。緩やかながら回復のパターンがあったといえる。まもなく業界の回復は来ると見ている。ただし,回復前に一時的に立ち往生する時期がある。実はそれが今だ。これは,2月の初めから3月にかけて高額製品の需要が鈍ったこと,また,これから第2四半期という季節的に低迷する時期に入ることが要因。しかし,我々はこの局面から抜け出しつつある」――

 なるほど,つまり,今年の後半から回復が見込めるということになる。また同氏は,その今年の後半から業界でM&A(企業の合併・買収)が進むとも予測している。大企業が小企業を飲み込み,その競争力をさらに強めていくという。その要因は,M&Aにかかる費用が3年前に比べはるかに“リーズナブル”になっていること。これにより,米Cisco Systems,Microsoft社,Dell社のような膨大なキャッシュを持つ企業が,新市場に容易に参入でき,売上の増大も以前に比べ,ずっと簡単になっているという。

 Nasdaqの総合指数(Nasdaq Composite Index)は今年に入って6%上昇した。全体から見れば,「第1四半期は困難な状況の中、一応の堅調なスタートは切った」と言えるのかもしれない。

 なお今回は,以下でIT Proにこれまで掲載した各社の決算記事を分野ごとにまとめてみた。同じ分野の企業であっても,業績結果はマチマチである。「どんな分野のどんな企業が好・不調だったのか」また「その具体的な要因は何であったのか」,といった分析の一助になればと思う。

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