年の瀬も押し迫ってきた。新聞/雑誌など各メディアがこの1年間をまとめた特集を組み,政治/時事ニュースを振り返っている。そこで本コラムでも2005年のIT業界を振り返ってみたい。今年1年,私たちIT業界には何が起こったのか。また2006年へどうつながっていくのか。

 米国のIT情報誌InfoWorldのインターネット版に「The top 10 stories of 2005」という興味深い記事が掲載されている(掲載ページ)。今回はこれを読み解くとともに,当IT ProのUS NEWS FLASHや本コラム記事を見ながらこの1年について考えてみたい。

「新ミレニアム最初の10年の中間点」

 2005年は,米Oracleによる米Siebel Systemsの買収(関連記事)に代表されるよう,大規模M&Aが相次いだ。通信業界では,米SBC Communicationsが米AT&Tと合併,米Verizon Communicationsと米MCI(関連記事),米Sprintと米Nextel Communicationsの合併(関連記事)など,業界の勢力図が大きく変化した。

 メディア/ネット企業による買収も相次いで行われ(関連記事),米eBayによるSkype Technologiesの買収はその代表的な例となった(関連記事

 InfoWorldの記事では,2005年を「新ミレニアム最初の10年の中間点」と位置付け,大きな転換点となった年と分析している。米Googleなどの比較的新しい企業が新たなビジネス・モデルとともに台頭し,それらが伝統的産業の企業に大きな変革をもたらしたという。安い金利で資金を調達できることも手伝って,M&Aは成熟した業界や,Skype社のような新業態の分野でも盛んに行われた。

大改革の1年 ― HP,ソニー

 また新時代への移行に伴う問題解決に失敗した企業もあり,今年大改革を余儀なくさせられた。その象徴的な企業に,米Hewlett-Packard(HP)やソニーがあったと記事は指摘している。

 Carly Fiorina氏がHP社のCEO職を追われたのは今年2月(関連記事)。Fiorina氏の退任は,HP社が同氏の施策が失敗に終わったことを明確にしたことを意味するという。同氏はCompaqの買収を強行に進めた人物。高価格サーバーに加えパソコンという低価格製品を揃えることで企業顧客にハードウエアの完全パッケージを提供しようとした。これにより低迷していた売上げを伸ばすというのが狙いだった。しかしCompaq買収後何年経っても同社の業績は振るわないまま。そんな状況に今年ようやく結論が下されたというわけだ。

 ソニーの場合は,アナログからデジタルへの移行で失策を演じてしまったと記事では述べている。各社が同じコンポーネントをベースに商品開発するデジタル時代にあって,同社が得意とする高プレミアム商品の価格妥当性をうまく消費者に示せなかったとしている(掲載記事

情報の見方に変化

 その一方で新デジタル時代の中心に存在する大手企業もある。米Apple Computerである。同社が2001年に放った「iPod」は今年もよく売れた。世界の携帯型音楽プレーヤ市場におけるiPodのシェアは30.2%で首位に立っている(関連記事)。同社は,9月に「iPod nano」を投入(関連記事),10月にはビデオに対応した新型iPodを出した(関連記事)。矢継ぎ早の新製品投入で他社をさらに引き離す。そんな戦略がうかがえた展開である。

 今年はiPodを取り巻くコンテンツの分野にも大きな変化が現れている。音声コンテンツはもちろん,ビデオ分野が拡充された年となった。例えば11月には米TiVoが,録画した番組をiPodなどの携帯機器に転送できるようにするサービスを発表(関連記事)。また同月,米NBC Newsのニュース番組「NBC Nightly News」がオンデマンド配信されるようになった(関連記事)。ビデオ対応携帯機器の人気とともに,ビデオ・コンテンツを自動配信するッドキャストも普及が進んでいる。

 これからはこうしたビデオ・コンテンツが続々登場してくると思う。またビデオはHDDレコーダーに録画して見るのではなく,毎日自動転送されるようになる。それを外に持ち出して,好きなときに情報を得る。2005年はそんな時代の始まりだったのかも知れない。2006年は映像コンテンツ/情報の見方に大きな変化が生じる。そんな予感をさせられる1年となった。

Appleは過去最高の業績

 Apple社は今年,そのiPod効果によってパソコン分野も好調となった。先の決算では売上高,純利益ともに同社の歴史上最高額を記録(関連記事)。7月~9月期に出荷したMacintoshは123万6000台。これは四半期ベースで過去2番目に多い台数。Apple社は,6月にIntel製プロセサを搭載したMacintoshを市場投入すると発表した。x86プロセサを搭載したMacintoshは2006年の早い段階にも投入される言われている。2005年は同社にとってPowerPC最終年。大きな分岐点となったと1年と言えるだろう(関連記事)。

Web 2.0/Google/AOL

 米国時間12月20日の遅い時間,Google社によるAmerica Online(AOL)への出資が正式発表された(関連記事)。これにより,米Microsoftなどとほぼ1年にわたり繰り広げてきた「AOL争奪戦」に終止符が打たれた。

 InfoWorldの記事では,今年を象徴するものの1つとして「Web 2.0」(関連記事)を挙げている。2005年は「サービスとしてのソフトウエア」が現実となった年という。

 同記事では,Web 2.0について次のように説明している。

 「ドットコム・バブルという言葉が歴史の中に消えていく。時を同じくして,インターネットはソフトウエアやサービスを提供するための真のプラットフォームとして姿を現してきた。新しいプライス/ビジネス・モデルを伴って・・・。それがWeb 2.0の世界」

 また次のようにも述べている。「Google社はこのWeb 2.0の世界で第一線にある企業。ユーザーには無料,収入は広告主からというビジネス・モデル。Microsoft社がGoogle社に追従する形でライブ・ソフトウエア戦略(関連記事)を打ち出したことで,Web 2.0が実在するものであるという認識が一気に広がった」

 なるほど,今年はWeb 2.0が広く認識された最初の年であり,そのきっかけとなったのがMicrosoft社というわけである。そして今回のGoogle/AOLの提携へとつながった。これらが2005年をもっとも象徴する出来事だったのではないだろうか。InfoWorldの記事の言う「新時代最初の10年の中間点」。それが今年とすれば,それはドットコム時代の完全な終焉とこの先5年間続く新潮流の始まり。今年はそんな1年だった。そんな気がしてならない。

■著者紹介:小久保 重信(こくぼ しげのぶ)
ニューズフロント社長。1961年生まれ。98年よりBizTech,BizIT,IT Proの「USニュースフラッシュ」記事を執筆。2000年,有限会社ビットアークを共同設立し,「日経MAC」などに寄稿。2001年,株式会社ニューズフロントを設立。「ニュースの収集から記事執筆・編集など,IT専門記者・翻訳者の能力を生かした一貫した制作業務」を専門とする。共同著書に「ファイルメーカーPro 職人のTips 100」(日経BP社,2000年)がある。

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