先日,米Yahoo!がWidgets実行用のランタイム・エンジン「Konfabulator」を買収したと報じられた(関連記事)。このニュース,ここ最近報じられたネット関連ニュースに埋もれてしまい,あまり大きな話題にならなかったが,注目している業界関係者も少なくない。「(今回の買収は)短期間でYahoo!社の期待に十分応えることになる,みごとな施策」(米SearchEngineWatch.comのChris Sherman氏,掲載記事)。「Konfabulatorの買収でYahoo!社はWebブラウザの枠を超える」(米Washington Postの記事タイトル)といった具合だ。KonfabulatorはYahoo!社とってどんな意味をもたらすのだろうか。今回はこのKonfabulatorについてレポートする。

誰でも自由に作成/入手できるのが魅力

写真1●Konfabulatorに標準添付されるWidget
キーボードの特定のキーを押すと作業中のすべてのアプリケーションが隠れ,Widgetだけが前面に表示されるという機能もある
 Konfabulatorはユーザーにも分かりやすい単純明快な技術だ。「Widget(s)」と呼ばれるファイルを実行するためのJavaScriptランタイム・エンジンで,ユーザーはインストール後さまざまなWidgetを追加してデスクトップ上に表示できる(写真1[拡大表示])。

 Widgetにはアラーム時計,計算機,カレンダーなどがある。いずれもミニ・アプリのように動作し,それぞれが単機能であるのが特徴だ。ただ,これだけを見ると,OSに付いてくるユーティリティ・ソフトといった感じであまり魅力的ではない。Widgetがおもしろいのは,株価や天気予報といった情報を表示するものや,辞書やWikipediaの内容を検索できるものなど,Web上の情報とリアルタイムにリンクするものが用意されており,可能性がある点だ。

 Widgetは壁紙のようにデスクトップに貼り付いており,自由に動かせる。デフォルトの設定ではアプリケーションの背景にあるので,作業の邪魔にならない。常にバックグラウンドで動作しているので起動の待ち時間もない。必要なときにいつでも情報を得られるのだ(注1)

注1:Konfabulatorはアプリーションとして動作しており,各Widgetはそのファイルという位置付けになる。つまりユーザーはKonfabulatorを終了し,すべてのWidgetを閉じることもできるし,Konfabulatorを起動しておき,それぞれのWidgetについて個別に起動したり閉じたりすることもできる。

 またWidgetはその仕組みが公開されており,誰でも自由に作成できるのが魅力となっている。それぞれの作者が作ったWidgetはWebで公開されており,現在1000種類が自由にダウンロードできる(Widgetのダウンロード・サイト)。

Mac OS Xの「Dashboard」に"うり二つ"

 ここまで見て来て,もうお気づきの方もおられるだろう。そう,このKonfabulatorは米Apple ComputerがMac OS X 10.4(Tiger)に搭載した「Dashboard」にそっくりなのだ(Apple社のDashboard関連サイト)。両者の違いは,Konfabulatorが任意に終了できるのに対し,Dashboardは,OSに組み込まれているため終了させることはできない。ユーザーの立場から見れば違いはその程度しか分からない。さらに,Dashboardで提供されるファイルの名称も同じくWidgetである。双方のWidgetの見栄えもほぼ同じだ。そしてApple社はWidgetの開発手法を一般に公開している(Apple社の資料)。先ごろDashboard用Widgetの種類が1000を超えたなどと発表していたのが記憶に新しい(Apple社の資料)。

 こう見る限り,Apple社がKonfabulatorの作者にコンタクトをとり,技術供与を受けたように思える。しかし事実は全く異なる。Konfabulatorの作者はApple社から一言も告げられておらず,もちろん一銭も受け取っていないという。

 米メディアや業界関係者のWeb情報などを見ていると,Konfabulatorがこれまで数奇な運命をたどってきたことが分かる。Konfabulatorの作者の1人はArlo Rose氏という人で,同氏はかつてApple社でMac OSのユーザーインタフェース部分「Appearance Manager」の開発に携わったという経歴を持つ。同氏は熱狂的なMacファンであり「筋金入りのMacソフト開発者」(米CNET News.comの記事)。Mac OSのウインドウ外観などをカスタマイズするシェアウエア「Kakeidoscope」の開発にも携わっていた。同氏はその後米Sun Microsystemsに入社して活動していたが,1998年のある日,自由にスキン(外観)の着せ替えが可能なMP3ソフトを眺めているうち,Konfabulatorを着想したという。「デスクトップ上に浮かぶミニ・アプリにさまざまな情報を表示できないか」と考えたのがきっかけだったという。

 その後同氏はパートナーとともにKonfabulatorを開発,2003年の2月に初版をリリースした後,Sun社を辞めた。そしてパートナーとともにPixoria社を設立,この会社でKonfabulatorを19ドル95セント(1ユーザー)/2500ドル(ワールドワイド・サイト・ライセンス)で販売した。Widgetのマニアも増え会社も順調だったが,2004年の6月,Apple社が突如としてDashboardを発表した。このときRose氏はアイディアから何から何までApple社にコピーされたと怒りをあらわにしていた。しかし当時の(現在もだが)Apple社の主張は,DashboardのコンセプトはMac OS Xの前身であるNextStepの時代からずっあった,というものだった。「(Dashboardは)彼(Rose氏)のものではない。我々が開発してきたものは我々のものだ」というのがApple社シニア・バイスプレジデントPhilip Schiller氏の当時のコメントだった(米CNET News.comの記事)。

Windows版の開発に着手

 Apple社からは何のオファーも来ないし,こちらの主張も一蹴された。Dashboardが,Mac OSに無料で組み込まれれば,有償ソフトは売れなくなる。Rose氏は小さな会社として何をすべきかを考えた(当時のRose氏のインタビュー記事)。そして彼らはWindows版Konfabulatorの開発を急いだ。2004年11月にMac版とWindows版の新版をリリース,さらに改良を加えた初のメジャー・バージョンアップ版「2.0」を数ヶ月後にリリースした。Apple社がDashboard搭載のMac OS X Tigerをリリースする数カ月前のことだった。

 もともとMac用だったソフトをWindowsでも使えるよう開発したので,Widgetは両OSで同じように使えるようになった。また何よりも膨大な数のWindowsユーザーに利用してもらえるようになった。さらに,思いもよらぬオファーが来た。Yahoo!社である。

Yahoo!社が狙うものとは・・

 Yahoo!社はKonfabulator買収の直後,同社の開発者サイト「Yahoo! Developer Network」にKonfabulator関連のリンクを設けた。ここでJavaScriptやXMLを使ったKonfabulator用Widgetの各種ドキュメントを提供,開発者コミュニティーの輪を広げようとしている。Rose氏をはじめとするPixoria社の3人もYahoo!社の開発チームに加わった。

 これまでYahoo!社は,自社サービスのコンテンツを利用してもらうべくAPIを公開してきた。検索や地図サービス,音楽,写真といったコンテンツをWebブラウザ以外のアプリケーションからも利用してもらうというのが狙いだ。もちろんRSSフィードも積極的に活用しており,あらゆる場面で同社サービスの「露出」を拡大しようとしている。

 そんなYahoo!社にとって,Konfabulatorはうってつけだったのかもしれない。同社のようにコンテンツを山のように持つプロバイダにとって,それらをどううまく提供していくのかが大きな課題。これまでも携帯電話向けサービスとの連携などさまざまな施策を試みている。ところがパソコン上では相変わらず汎用的なWebブラウザが主流というのが実情だ。

 一方,Konfabulatorは基本的にプッシュ型で,1つ1つのWidgetが単機能で単純明快だ。そしてそれらを1つの枠組みでブランド化してまとめており,分かりやすくしている。これまでの枠を超えたコンテンツ供給という大きな可能性を持つ。これからはこうしたWidgetとWebブラウザ,そして米Googleなどが提供するデスクトップ・ツールなどによって,デスクトップの場所取り合戦が始まる――そんな気がする。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 Yahoo!の名を冠した新生Konfabulatorにはさっそく変化が現れている。標準添付されるWidgetには,YAHOO! SEARCHを利用できる検索用Widget「Where Is It?」,同社写真共有サービスFlickrの写真を表示できる「Picture Frame」,YAHOO! FINANCEからの株価情報を表示する「Stock Ticker」,そしてYahoo!の気象情報を表示する「The Weather」が入るようになった。

 今後もYahoo!サービスを利用したWidgetがどんどん登場してくることだろう。エンターテインメントや地域情報,さらに報道など,ユーザーにとってあらゆるコンテンツの入り口(ポータル)になるのかもしれない。


◎関連記事
米Yahoo!,より正確に広告のインプレッションを測定する新システム導入を発表
米Yahoo!,オーディオ検索サービス「Yahoo! Audio Search」のベータ版を公開
米Yahoo!,中小Webサイトもセルフサービス基盤「Yahoo! Publisher Network」ベータ試験の対象に
米CNN.comと米ABC Newsが、米Yahoo!のニュース・サイトにビデオ・コンテンツを提供
米Google,RSSフィードに文脈型広告を挿入する技術で米国特許を申請
米AOL,AOL.comポータル・サイトをパーソナル化する「My AOL」初回ベータ版をリリース
米Yahoo!,研究部門トップに検索技術専門家のPrabhakar Raghavan氏を任命
米Yahoo!,米Connexionの航空機内向けネット・サービスの独占検索エンジンに
米Yahoo!,Widgets実行用のランタイム・エンジン「Konfabulator」を買収
米Yahoo!が変えるRSSの意味,新サービスを続々投入
見事なV字回復,米Yahoo!はなぜ復活したのか
Webアプリのパラダイム・シフトか,米Googleなどが切り開いた新手法「Ajax」