写真1●米Sun Microsystemsの社長兼COO,Jonathan Schwartz氏の音声コンテンツ。今年8月1~5日に開催された「O'Reilly Open Source Convention」で同氏のプレゼンテーションを収録したもの
写真1●米Sun Microsystemsの社長兼COO,Jonathan Schwartz氏の音声コンテンツ。今年8月1~5日に開催された「O'Reilly Open Source Convention」で同氏のプレゼンテーションを収録したもの
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写真2●iTunesの場合,IT Conversationsのポッドキャスト・ページで「Subscribe」ボタンを押すと自動登録され,Podcastメニューに各コンテンツの一覧が表示されるようになる
写真2●iTunesの場合,IT Conversationsのポッドキャスト・ページで「Subscribe」ボタンを押すと自動登録され,Podcastメニューに各コンテンツの一覧が表示されるようになる
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 インターネットによって世界中のニュースがリアルタイムで読めるようになり,大いに喜んでいたのも束の間,今度はブログが登場し,世界中の人々の日々の文章がいとも簡単に読めるようになった。しかしネットの世界はさらに進化している。米国では数年前からWebを介した音声コンテンツの配信が始まり,手軽に著名人の生の声が聞けるようになった。

 例えば米InfoWorld誌では,Bill Gates氏のインタビュー音声を配信している(InfoWorldのサイト)。9月初めに行われた米Microsoftの「Professional Developers Conference(PDC)2005」で同氏が基調講演を行った後に取材したものだ。Steve Jobs氏の講演もネットにある(wiredatom.comのサイト)。こちらは,今年6月にJobs氏がスタンフォード大学の学位授与式で行ったもので,「心に響く」と賞された話題のスピーチである。

 いずれも,音声とともに内容のテキスト(トランスクリプト)を掲載している。また音声ファイルはダウンロードできるので,自分のパソコンに取り込んで何度でも聴くことができる。もちろん携帯オーディオ・プレーヤに転送して移動中に聴くといったことも可能だ。英語のリスニングが不得意と思っている人でも,トランスクリプトを見ながら繰り返し聴くことで,耳がかなり慣れてくる。

 米国のサイトではこうした音声コンテンツをいたるところで提供しているが,その中でIT Proの読者のみなさんに役立つうってつけのサイト「IT Conversations」がある。今回は少し趣向を変えてこのサイトについて紹介しよう。

キーパーソンの声で英語のリスニング強化

 IT Conversationsは,IT業界でキーパーソンと言われる人の音声を録音/編集し,配信しているサイト。キーパーソンとは,例えば,10月6日現在のトップ・ページでは,米Sun Microsystemsの社長兼COO,Jonathan Schwartz氏,米Yahoo!エバンジェリストのJeremy Zawodny氏,米O'Reilly Media創立者のTim O'Reilly氏などが掲載されている。内容はこれらキーパーソンのラジオ・インタビュー,電話インタビュー,カンファレンスでの講演、プレゼンテーションなどだ。中には書籍内容の一部を朗読しているコンテンツもある。

 いずれもタイトルとリードの文章が付いており掲載内容について簡単に解説している。その文章下にある「More」というリンクをクリックするとそれぞれのコンテンツ・ページに行く。そこでは,「Play now」や「Download MP3」というリンクがある(写真1)。前者はそのままブラウザ上で聴くことができるボタン。後者を使えば,米Apple Computerが無償配布している音楽管理/再生ソフト「iTunes」などでパソコンに取り込める。こうしたソフトを使えばMP3プレーヤにも転送できるので移動中や運転中などに手軽にラジオのように聴けるというわけだ。すべてではないものの中にはトランスクリプトが付いているコンテンツもあるので,役に立つだろう。仕事と関連する業界の重鎮の声を使って,いとも簡単に英語の学習ができるというわけだ。便利な時代になったと実感する。

 またIT Conversationsはポッドキャストにも対応しているのでありがたい。これは音声ファイルをサブスクリプション形式で自動入手できるようにするもの。iTunesなどのソフトを使って登録しておけば,Webブラウザでサイトに再訪問する必要はない。新たなコンテンツが掲載されるたびに,逐一ソフトに自動追加してくれるのだ(写真2)。何よりも嬉しいのは音声ファイルなので手軽ということ。ダウンロード時間も短いし,一般的な映像配信よりもはるかに音質が良い。昨今のパソコンの高性能化のおかげで,音声であればダウンロード/再生/転送中のいずれも,ほかのアプリケーションの動作を妨げない。

 なお,IT Conversationsで提供されているすべてのコンテンツは,CCL(Creative Commons License)のもと無料で利用できる。聴くのも無料だし,同ライセンスの条項に従えば,ユーザーが自分のWebサイトにコンテンツを掲載できる。例えば,同サイトではクリップ作成機能を提供している。サイトのフォームを使って,音声コンテンツの始まりと終わりを秒単位で指定すると,抜粋したコンテンツのURLが生成される。それを自分のWebサイトに貼り付けて引用するなどできるというわけである。

小規模な運営,高い評価

 こうした有益なコンテンツを提供してくれるIT Conversationsは大変ありがたい存在なのだが,これが小規模な組織で運営されていることに驚かされる。同サイトは,Doug Kaye氏という個人が無報酬で始めた小規模なプロジェクトだ。同氏はテレビ/映画業界でレコーディング・エンジニア/サウンド・エディタとして務めた後,ソフトウエア業界に身を置いた。その後,Web関連の2冊の本を執筆。2003年6月に同氏の個人企業でIT Conversationsを立ち上げた。現在は,開発者,オーディオ・エンジニア,執筆/編集者など,同氏に賛同するスタッフがおり,制作/配信業務に携わっているとのことだ。

 とは言ってコンテンツの冒頭部分に出てくるナレーションは同氏の声(プロのアナウンサーのようになめらかで聴きやすい)だし,Tim O'Reilly氏に電話インタビューするその声も同氏である。Kaye氏は,番組の司会者でありインタビュアでもあり,またプロデューサ兼開発者で,エンジニアでもあるとのことだ。

 IT Conversationsの収入源は,リスナー/読者からの寄付と,コンテンツの中でKaye氏が紹介するスポンサー企業。得られた収入はその100%をスタッフに還元しているという。音声の編集は,同氏が「Studio 2」と呼ぶ自宅の2つ目のベッド・ルームで行っている。機材こそプロフェッショナルなものを揃えているものの,大手メディアや業界関係者に絶賛されている(関連資料)コンテンツが自宅の一室で制作されているとは驚くばかりである。なお,IT Conversationsのサイトには機材の詳細が説明されているのでご興味のある方は参照されたい(Aboutのページ)。ちなみにWebサイトは,LinuxサーバーとApache,mySQL,サーバーサイド・スクリプティングはPHPで運用しているとのことだ。音声ストリーミングは米NullSoftのストリーミング・サーバー「SHOUTcast」,コンテンツ配信は米Limelight Networksのサービスを利用しているという。

音声コンテンツ版Googleが登場

 こうして見てみると時代は変わったという感じがする。日本でも大手メディア各社がポッドキャスティングに力を入れはじめ,ラジオ番組の配信が続々登場している。これらのコンテンツはポッドキャストの仕組みでパソコンに自動配信するよう設定できる。いわばHDD/DVDレコーダのオーディオ版といったところだろうか。しかしHDD/DVDレコーダの電子番組ガイドに相当するものが存在しないことが今ひとつ使い勝手を悪くしている要因でもある。

 これについては,米CNET News.comに「ポッドキャストの第2ステージ」と題されたコラムが掲載されていたのが記憶に新しい。同コラムによれば,現在,ポッドキャストのコンテンツをブラウズするには,「iPodder」「Podcast Alley」「Podcast.net」といったポータルを利用するのが一般的。しかしコラムでは,「大方が予想する通り今後オーディオ・コンテンツが急速に増え続ければ,これらのサイトはついていけなくなる」としている。かつて米Yahoo!が,増え続けるWebサイトを人力で収集/分類していたが,これらポータルはそれよりうまくいくのだろうかという疑問を投げかける声ある(掲載記事)。

 同時にこのコラムでは,こうした状況を解決できうる新しい技術/サービスについても紹介している。それは米TVEyesの提供する「Podscope」だ。これは一言で言えば,音声版のGoogleだろう。トップ・ページで探している内容に関する文字列を入力して検索ボタンを押すと,該当サイトの一覧が表示される。この検索結果画面はAjax仕様(関連記事)になっていて,タイトルをクリックすると要約が瞬時にして現れる。同時に再生ボタンも表示されるので,それをクリックすると,フレーム分割しページの上部がリンク先,下部が音声再生の操作画面になる。オリジナルのサイトを閲覧しながら音声を聴けるというわけだ。

 このPodscopeの仕組みはおもしろい。CNET News.comの記事によれば「スパイダー」と呼ぶロボットが,Web上の音声ファイルを収集し,再生する。これにSpeech-to-Textのアルゴリズムをかけ,音声をテキスト化,そのテキストをインデックス化して検索エンジンに組み込んでいるという。したがって検索対象は音声ファイルの要約ではなく,全文となる。話し手がほんの少し口にした単語やフレーズからでも検索できるという優れものなのだという(掲載記事)。なお現在のところ,Speech-to-Textの認識率は75~80%。決して完全とは言えないが,それでもユーザーの要求に十分応えられるサービスが提供できているという。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 話をIT Conversationsに戻そう。Kaye氏は11月に開催されるカンファレンス「Portable Media Expo and Podcasting Conference」で「Podcasting Academy」というオンラインの学校を立ち上げる予定という(Kaye氏のブログ)。ここでレポーターを養成するのが狙いだ。イベント会場での録音スキルやノウハウを身に付けてもらい,1年以内にレポーターの数を5万人以上に増やしたい考えだ。こうして提供される音声コンテンツでIT Conversationsのネットワークを広げていくのだという。

 なるほど,これからは世界中にいるレポーターの手によってこうしたコンテンツがいち早くWebで公開されるようになるというわけか。そんな時代は目の前に来ているのかもしれない。これからのWebではテキストに加え,音声がどんどん増えていく。そして携帯プレーヤの使い方は,エンターテインメントからビジネスの分野へと広がっていく。その先には,映像コンテンツがぐっと身近になる時代も来るのだろう。音声や映像が今後のWebの世界をどう変えていくのか ---とても楽しみだ。

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