写真1●Yahoo!社が今年9月に始めた新Yahoo! Mail(ベータ)の画面。Yahoo!社は同ベータ・テストへの参加を<a href="http://whatsnew.mail.yahoo.com/" target="_blank">最新情報紹介ページ</a>で受け付けている(名前とメールアドレスを入力して,Yahoo!社から案内が来るのを待たなければならないが)
写真1●Yahoo!社が今年9月に始めた新Yahoo! Mail(ベータ)の画面。Yahoo!社は同ベータ・テストへの参加を<a href="http://whatsnew.mail.yahoo.com/" target="_blank">最新情報紹介ページ</a>で受け付けている(名前とメールアドレスを入力して,Yahoo!社から案内が来るのを待たなければならないが)
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写真2●Gmailのスペル・チェック機能。ボタンを押すと瞬時にして,スペル・ミスと判断された文字を指摘,候補をプルダウン・メニューで表示する
写真2●Gmailのスペル・チェック機能。ボタンを押すと瞬時にして,スペル・ミスと判断された文字を指摘,候補をプルダウン・メニューで表示する
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 米Google,米Yahoo!,米Microsoftが相次いでWebメール機能を強化している。11月30日には米Microsoftが「Windows Live Mail」の最新ベータ版を公開した(関連記事)。米Yahoo!は,現在試験運用している「Yahoo! Mail」の次期版にRSSリーダーを組み込むと伝えられた。第2次Webメール・ブームの火付け役とも言える米Googleの「Gmail」はセキュリティ対策を強化した(関連記事)。

 3社は検索市場で鎬を削るライバル。Google,Yahoo!,Microsoftの頭文字を並べて「GYM」とも呼ばれる。そのGYMが検索に続くもう1つの市場として,今,Webメールに注力している。活況を呈してきたWebメール市場。今回は米メディアの論調なども見ながら最新情報をレポートしてみる。

Yahoo! Mail,昨年買収した米企業の技術がベース

 まず,Yahoo!社から見てみよう。同社は,今年9月に強化版Yahoo! Mailとなる新サービスのベータ・テストを始めた(写真1)(関連記事)。この新Yahoo! Mailで,ドラッグ・アンド・ドロップによるメッセージの移動などを提供した。デスクトップ・アプリケーション並みの操作感を目指しているという。

 この新しいYahoo! Mailでは,インタフェースとユーザ・エクスペリエンスにおいて,これまでで最大の機能強化を行ったという(発表資料)。そのベースとなったのは,米Oddpostの技術である。Oddpost社はメール/ニュース・アグリゲーションのサービスを提供していた会社だったが,2004年の7月にYahoo!社が買収した。その同社が手がけていたのが,DHTML,XML,SOAPなどを使ったWebアプリケーション。Yahoo!社は同社のこうした技術を自社サービスに取り入れてたというわけだ。

メールと同じ画面でRSSフィード

 そして,この12月に入って,Yahoo!社が同サービスにRSSフィード機能を取り入れる計画と米メディアが伝えた(米InfoWorldに掲載の記事)。これは,メールのメッセージをフィードして,別のサイトで閲覧できるようにするといった,これまでのようなものではない。その逆で,Yahoo! Mailのサービス内で各種フィードを取り込み,メール・サービス内の画面で表示するというもの。これにより,ユーザは,パソコンでいくつものウインドウを表示する必要はなく,また認証などの手間も省けて便利という。

 Yahoo! Mailのプロダクト・ディレクタEthan Diamond氏によれば,今やメールは人々のネット・アクティビティで中心的な存在になっており,このことから,同機能をYahoo! Mailに組み込むのは理にかなっているという(掲載記事)。

 そもそもYahoo!社は早くからRSSフィードを自社サービスに取り入れていた。例えば「My Yahoo!」(ユーザーが自分の好みに応じてパーソナル化できるポータル)では,自分の好きなRSSフィードを指定してトップ・ページに表示するというサービスを1年以上も前から始めている(関連記事)。Yahoo! MailにRSSリーダーの機能を入れるのは同社にとって自然な流れだったのかも知れない。なお,同社パーソナライゼーション・プロダクト・ディレクタのScott Gatz氏によれば,組み込むRSSリーダーは,ページの画像も含む全文を表示できる"フルポスト"リーダーとのことだ(掲載記事)。これにより,ユーザーほかのWebページに移動することなく,Yahoo! Mailだけで長い時間を過ごせることになる。

Windows Live Mailも「滑らかな動作」が売り

 Microsoft社も同様の手法を使って機能拡充を図っている。同社のWindows Live Mailは,11月1日に発表したライブ・ソフトウエア戦略の一環となる(関連記事)。「Windows Live」と呼ぶ,各種Webアプリケーションを専用サイト「Live.com」を通じて提供するサービスだ。メールのほか,インスタント・メッセージング(IM),ニュース・コンテンツなども併せて提供し,これまでのHotmailとは異なる展開でブランド統一を図る。またYahoo!社同様,Ajax(関連記事)やRSSなどを利用し,Webブラウザ上での使い勝手の向上を目指している。

 メール・サービスのWindows Live Mailでは,各メッセージをマウスでドラッグ・アンド・ドロップして移動できる機能や,入力と同時に綴りのミスを表示するスペル・チェックなど,滑らかな動作を実現しているという。Windows Liveプログラム・マネージャのImran Qureshi氏によれば,Windows Live Mailベータ版のコードネームは「Kahuna」。その最新アップデートは「M4(Milestone 4)」と呼ぶのだそうだが,このアップデートでは,高速化した検索機能,メッセージのスクロール表示,ドラッグによる画面リサイズの機能などを追加した。これまであった問題の多くを修正し,信頼性を高め,高速化と新機能の追加を行ったとQureshi氏は説明している(Qureshi氏のブログ)。

Googleの大きな役割

 以上,Yahoo!社とMicrosoft社のサービスについてざっと見たが,ここまでで,両社の方向性が概ね同じだということが理解できる。その概要は,Ajaxを使って,ページ遷移の少ないユーザー・インタフェースを提供すること。各種機能の拡充や,サービス統合を行って,ブランド力を強化すること。いずれもWebの新しい流れに対応する形で,ユーザーの囲い込みを図ろうとしている。

 しかし,そもそもWebメールという分野では両社は老舗。Webメールは,最初の登場からそろそろ10年になる定番のサービスだ。WebブラウザでIDとパスワードを入力すれば,どんなマシンからも自分のメールにアクセスできる。メール・ソフト不要で,ISPを変更しても同じメール・アドレスが保てる。そんな利便性からユーザーは定着している。

 ではこの時期に両社が機能拡充を図っている理由は何であろう――。やはりそこにはGoogle社の存在があると考えるのが自然なのだろう。Google社のGmailは,それまで穏やかだったWebメール市場に衝撃を与える形で登場した。2004年の4月1日,1Gバイトの保存容量を提供する無料のWebメールとしてデビューしたのだ。当時皆が驚いたのには無理もない。そのころYahoo!社のサービスでは,無料版が4Mバイト,Hotmailは2Mバイト。その後の2社はGoogle社に追従する格好で保存容量を増やしていったが,Google社はその1年後にさらに2Gバイト超へと増大しており,また2社を大きく引き離した(なお,現在のYahoo! Mailは無料版が100Mバイト。年間19.99ドルのYahoo! Mail Plusサービスで2Gバイトになる。Microsoft社は無料のWindows Live Mailベータで2Gバイトを提供している)。

 Gmailはページ遷移の少ないユーザー・インタフェースも好評(写真2)。また今年の夏から米国では会員からの招待状がなくても利用できるようになった。携帯電話番号を入力すれば誰にでもインビテーション・コードが届くようになり,広く一般に公開されたのだ(Google社の資料)。

ユーザーの時間の奪い合う新たな戦い

 米J.D. Power and Associatesの調査によれば,Webメールの満足度でもっとも高い評価を得ているのはYahoo! Mailという(関連記事)。ところが検索エンジンの満足度ではGoogleがトップ。43%のアンケート回答者がGoogleをメインの検索エンジンとして利用しており,この割合は高速接続ユーザーだと53%にまで増えるという。

 こうした検索の満足度を背景に,今後Gmailにユーザーが流れてくるものと考えられる。Yahoo!社もMicrosoft社も安閑とはしていられない状況である。メールは,人々がパソコンを利用する上でその時間の大半を費やすアプリケーション。Yahoo!社やGoogle社によるデスクトップの場所取り合戦(関連記事)は相変わらず続いている状況だが,今度は新たな戦いが繰り広げられそうだ。Webメールによるユーザーの時間の奪い合いである。

■著者紹介:小久保 重信(こくぼ しげのぶ)
ニューズフロント社長。1961年生まれ。98年よりBizTech,BizIT,IT Proの「USニュースフラッシュ」記事を執筆。2000年,有限会社ビットアークを共同設立し,「日経MAC」などに寄稿。2001年,株式会社ニューズフロントを設立。「ニュースの収集から記事執筆・編集など,IT専門記者・翻訳者の能力を生かした一貫した制作業務」を専門とする。共同著書に「ファイルメーカーPro 職人のTips 100」(日経BP社,2000年)がある。

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