写真1●Ajaxを使ったかな漢字変換サイトsumibi.org。スペースを押すと変換候補が表示される
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写真2●デスクトップのIMEと同様に使えるAjaxかな漢字変換
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写真3●Ajaxによる手書き文字認識。JavaScriptでマウスの座標をサーバーに送信して認識する
写真3●Ajaxによる手書き文字認識。JavaScriptでマウスの座標をサーバーに送信して認識する
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写真4●Gmailの画面。Ajaxで宛先を1文字入力するごとに候補を絞り込む
写真4●Gmailの画面。Ajaxで宛先を1文字入力するごとに候補を絞り込む
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写真5●Microsoftが開設しているAjaxを活用した実験サイトStart.com
写真5●Microsoftが開設しているAjaxを活用した実験サイトStart.com
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 Googleが火をつけて以来,日本でもAjaxの様々な可能性が次々と開拓されてきている。中にはこんなものも,と驚くようなものもある。Ajaxを使った,オープンソースのかな漢字変換プロセッサがある。西山清香氏が開発したsumibiである。公式サイトsumibi.orgで使用できる。「海外など日本語OSのない環境でも日本語が入力できる」(西山氏)。ローマ字を入力して,スペース・キーを押すたびに候補の漢字がするすると表示されて面白い。

 sumibiはGPL(GNU General Public License)に基づくオープンソース・ソフトウエアとして公開されており,誰でも自由に自分のサイトに組み込むことができる。

 面白い,と感心していたらもっと凄いサイトがあった。自然言語処理などの研究者で,形態素解析エンジンMeCabの開発で知られる工藤拓氏のサイトだ。なんとデスクトップのかな漢字変換プロセッサとほぼ同じインタフェースで漢字を入力できる。Ctrl-9でかな漢字変換モードに入り,ローマ字で入力してスペースを押すと候補の一覧がリスト表示される。また,ローマ字を入力するごとにインクリメンタルに候補が表示されるページもある。

 工藤氏はAjaxによる手書き文字認識ページも公開している。マウスで字を書くと漢字の候補が表示されるのだが,この処理もJavaアプレットやFlashではなく,JavaSriptで行われている。JavaScriptで描画処理を行い,文字の座標情報をサーバーに非同期送信しているとのことだ。サーバー側で文字認識をし,最も近いと思われる文字を確率付きでWebブラウザに10個表示する。これらのページにも,手書き文字認識エンジンTomoeやなどのオープンソース・ソフトウエアが利用されている。

 こういった技術を見て,最近感じていることに改めて意を強くした。「デスクトップの機能が,次々とネットワークに吸い取られつつある」ということだ。

データやシステムがローカルにあることは本来不便

 記者は最近,スケジュール管理を職場のパソコンからあるネットワーク・サービスに乗り換えた。グループでスケジュールを共有するメリットは言うまでもないが,個人だけのデータでも,ネットワークに移すとかなり便利になることにいまさらながら気付いた。自宅のパソコンでも,携帯電話からも使用できる。パソコンのデータのバックアップは取っていなかったが,サーバーのデータはバックアップが取られていて,最悪前日の状況が復旧できる。
 
 考えてみると,データやシステムがローカルにあるというのは色々と不便だ。システムやアプリケーションの実行ファイルならバージョン・アップをしなければならない。怠るとセキュリティ・ホールを突かれてワームに感染する。

 現状ユーザーのディスクに記録されているデータの大半はプログラムや音楽,映画などのファイルのコピーだ。多くのディスク領域が同じコピーに占領されている現状は,社会全体としては損失と言えなくもない。

 そしてローカルにあるデータは紛失する可能性がある。それが個人情報だったりするとおおごとだ。そのためにシン・クライアントの導入が進んでいる。

 多くのアプリケーションがローカルにインストールすることを前提に作成されている現状では,ユーザーはセキュリティを優先して,不便を我慢してシン・クライアントを使用しているわけだが,広帯域のネットワークが常に存在することを前提に,アプリケーションを設計すれば,かえって便利なアプリケーションが作れるのではないか。ローカルのストレージは,あくまで接続が途切れたときのための一時的な領域とのみ使うほうが,利便性と安全性は本来高まるのではないか。

GoogleとMicrosoftのどちらが優れたネットワーク・サービスを提供できるか

 その証明がGoogleのGmailだろう。Ajaxを使ったアドレス自動補完などの優れたユーザー・インタフェース,Googleお家芸の強力なメール検索,1Gバイトを超える大きな記憶容量から,多くのユーザーはメールをサーバー上においたまま使っている。領域が広いので,Gmailを増設ディスクのように使えるソフト(GMail Drive)もあるくらいだ。

 こうして見ると,Googleが無線LANに進出(関連記事)した理由もよくわかる。Googleは,広帯域のネットワークが常に存在する状況を,自ら作り出し,デスクトップの機能をどんどんネットワークに吸い取ろうとしているのではないか。

 またMicrosoftがGoogleに抱くライバル意識は,最近ことあるごとに報道されている。最近では,MicrosoftからGoogleへの幹部の移籍を差し止める訴えを起こしている(関連記事)。欧米のメディアでも,GoogleはMicrosoftの脅威になるという論調も多い。

 しかし現状ではGoogleが利益を得ている市場は広告市場であり,MicrosoftにとってはMSNで手がけている周辺事業でしかない。同じくインターネット広告市場の巨大企業であるYahoo!に対しては,Microsoftはこれほどライバル視してはこなかった。Googleが,デスクトップOSを無意味にしかねない存在だからこそ,Microsoftはこれほどまでに重視しているのだろう。

 とはいえ,MicrosoftとGoogleという企業同士の競合というよりも,デスクトップ(あるいはパームトップ)からネットワークへという大きな流れのなかでどちらが優れたサービスを提供できるかという視点で考えるべきだろう。

 その流れを先導するのはMicrosoftになる可能性もある。Microsoftも実はStart.comと呼ぶAjaxを活用した情報サイトを実験的に開設している。「+」などのアイコンをクリックすると,ページをリロードすることなくブラウザ内に四角いウインドウが描画されて記事が表示される。もちろんAjaxだけが,Webブラウザだけがネットワーク・コンピューティングのための唯一の技術ではない。Microsoft Officeなどでもネットワークを介した共同作業を支援する機能の強化に力を入れている。

常時ネットワーク接続を前提にしたシステム設計,企業でも

 いつでもどこでも必ず,しかも安価に広帯域のネットワークが常に存在する状況は,まだ実現されているわけではない。そのためこの現象は,ゆっくりと進むだろう。しかし,そのような世界を前提に考えれば,インターネットの世界のみならず,企業情報システムの領域でも,かなり面白く便利で安全なシステムが実現できるのではないだろうか。

◎関連資料
sumibi.org(西山清香氏)
Ajaxを使った日本語Full IME(工藤拓氏)
Ajaxを使った手書き文字認識(工藤拓氏)
Gmail(Google)
Start.com(Microsoft)
日本語で読めるAjax関連情報のリンク集(川俣晶氏)