このところ,米Intelや米IBMやといった大手テクノロジ企業が,イスラエルのZend Technologiesというベンチャ企業との提携を相次いで発表している。米国の大企業が,イスラエルのベンチャ企業に注目する理由はなんだろうか。

 答えは,オープンソースのWebアプリケーション開発言語であるPHPの普及ぶりである。Zend社はPHPの中核部分を開発している。Intel社やIBM社は,Zend社と連携することで,PHPの企業分野での利用を促進していこうとしている。Linux普及のきっかけとなった事象と似ているとも言われる。

 これまで商用のWebアプリケーション開発といえばJavaが主流だった。しかしここにきて,PHPがエンタープライズ分野でのWebアプリケーションに本格的に使用されるようになってきている。今回はZend社の動向を通じてPHPの最近の状況をレポートする。

Zeev+Andi=「Zend」

 まずはPHPについて簡単なおさらいから始める。PHPは,オープンソースのスクリプト言語。HTMLファイル内にコード記述しておき,サーバー・サイドで実行することでダイナミックなWebサプリケーション環境を提供する。各種のデータベースと連携したWebアプリケーションが容易に作れるといった特徴がある。

 PHPの前身は,1995年にRasmus Lerdorf氏(注1)によって開発された「PHP/FI(Personal Home Page/Forms Interpreter)」。そして1997年に,このPHP/FIのスクリプト実行エンジンを改良したのがイスラエルのZeev Suraski氏とAndi Gutmans氏。両氏がこの改良エンジンをRasmus Lerdorf氏に提供したことによって,PHP3.0の正式な実行エンジンとなった。

1999年,Zeev Suraski氏とAndi Gutmans氏はPHPのコア部分の書き直しを行い,さらに高速な「Zend Engine」を開発した。「Zend」という名は2人のファースト・ネームを組み合わせたものだ(関連記事)。このエンジンを使ったPHP 4.0が正式リリースされたのが2000年。このころ,両氏と,Doron Gerstel氏が共同設立した会社がイスラエルZend Technologiesである。

注1:Rasmus Lerdorf氏はPHPのオリジナル開発者であり,LinuxコミュニティにおけるLinus Torvalds氏にあたる。同氏は2002年から米Yahoo!に籍を置いており(Lerdorf氏のWebサイト),Yahoo!社はPHPを積極的に使おうとしている

米国へ本格進出,IntelとSAPから出資を受ける

 PHPはオープンソースで提供されているソフトで,無料で利用できる。Zend社はPHPの開発に寄与するとともに,PHPを利用するWebアプリケーションの開発環境(関連記事)や,システムの管理/高速化ツールを販売することなどで収益を上げている。

 同社は,株式非公開企業で業績発表は行っていないが,2003年に初めて黒字化を達成したという(関連記事)。現在は,ドイツLufthansa,米Walt Disney,米Boeingなど,6000以上の企業顧客を抱えている。つい最近も,開発環境「Zend Studio 4」の米航空宇宙局(NASA)での採用事例を発表するなど,好調ぶりを示している(関連記事)。

 またZend社は昨年,800万ドルの出資を受け,カリフォルニア州Cupertinoに米国法人「Zend Technologies, Inc.」を設立。こちらを本社とし,イスラエルの「Zend Technologies, Ltd.」は国際業務部門と位置づけた(発表資料)。さらに今年は,Intel社やドイツSAPのベンチャ・キャピタル部門から出資を受けている。これを元手に今後,エンタープライズ分野での信頼性,拡張性,相互運用性を強化していく方針である(発表資料)。

 こうした大手テクノロジ企業からの支持はまだある。IBM社と米Oracleである。