「Solaris 10」の無償提供や,オープンソース化計画,そしてCPU/ストレージをグリッドで提供するというサービスなど,このところ米Sun Microsystemsの動きが活発だ。昨年6月に本コラムでSun社のビジネス・モデルに関する話を取り上げたが,その後の同社には変化が表れている。7月に発表した第2四半期(4~6月期)決算では13四半期ぶりに増収となり,黒字転換も果たした。直近発表の四半期決算でも1800万ドルとわずかながらも黒字を維持した。これは戦略変更の効果が表れたということなのだろうか。果たして新たな試みはSun社復活へと導くのか。今回はUS NEWS FLASHの記事を振り返りながら考えてみる。

■「赤字か収支トントン」を繰り返す

 Sun社のかつてのビジネス・モデルとは,SPARC搭載の高性能サーバーを特定の顧客に販売する(売り切る)というもの。その顧客は通信事業者や金融機関など。ところが4年前のITバブル崩壊を境にこうした顧客は遠ざかっていった。同社製サーバーのシェアは減少し,同時にLinuxが台頭してきた。

図1●Sun Microsystemsの売上高と損益
 図1[拡大表示]はここ数年の売上高と最終損益を示したもの。同社はこの3年間で人員や研究開発費を25%削減するなど業績改善に努めてきたというが,業績にはあまり効果が出ていないのが分かる。売上高の減少(前年同期比)は2004年第1四半期まで連続12四半期続いた。またSun社という会社は,赤字か,収支ほぼトントンを繰り返している会社ということがわかる。株価もこれを反映しており,2000年8月ごろ約60ドルだった同社の株価はその後急落が止まらず,現在ではわずか4ドル数十セントあたりで推移している(Sun社の投資家向け発表資料)。

■「Solaris 10とSun Gridで顧客を取り戻す」

 こうした状況をなんとか打破しようというのが一連の施策である(米メディアの記事)。

 まず,3年間,5億ドル,3000人の開発者を投じて完成させたというSolaris 10のリリース。SPARCとx86の両方に対応し,他社製プロセサとの組み合わせでも機能を十分に引き出せるようにした,同社がこれまでリリースしたOSのなかで最も速いとする自信作である。Solaris 10では,64ビット版をOpteron向けにも提供し、Linuxに奪われてしまった顧客を取り戻したい考えだ(関連記事)。そしてそのビジネス・モデルは,OSを無償提供して技術サポート料金を徴収するというLinuxスタイルの追従。さらにSolarisオープンソース化計画も打ち出した。今年第2四半期にもソース・コードを公開する予定である(関連記事

 「Sun Grid」についても詳細を明らかにしたばかり。これは,コンピューティング環境をペイ・パー・ユースで提供するというもの。1時間当たり1CPUを1ドルで提供する「compute utility」と,1カ月当たり1Gバイトを1ドルで提供する「storage utility」の2つを用意する(関連記事)。また同サービスの派生物として,演算リソースを売買する“オンライン取引所”の計画も明らかにした。Sun Gridと米Archipelago Holdingsの電子マッチング技術を組み合わせて,プロセサの演算能力などを株式や商品と同じようにオンライン取引できるようにするものという(関連記事)。

■“特定の顧客”から“広くあまねく”へ

 Sun社はSolaris 10やSun Gridを金融機関や石油/ガス会社に売り込むことを目指しているという。大手企業顧客の獲得に躍起なのである。デスクトップLinux統合ソフト「Java Desktop System(JDS)」や,サーバー用統合ソフト「Java Enterprise System(JES)」も企業顧客拡大を狙ったもの。自社の製品/技術を高い価格で特定の企業顧客に売るという事業モデルからの大きな転換を図っており,無償/低価格/サブスクリプションなど,さまざまな方法を使って自社製品を市場に広めたいというわけだ。

 また昨年はJava開発ツールの大幅値下げに踏み切ったり,RFID(IC無線タグ)分野に注力するという施策も講じている(関連記事)。自社技術を取り巻く開発者のすそ野を広げ,応用製品の開発を促進するというのが狙いである。

 業績も,昨年の第2四半期から少し変化が表れだしたのも事実。売上高の前年同期比減少がいったんストップし(図1のオレンジ色表示),2四半期連続して増加したのだ。また最終損益も5四半期ぶりに黒字転換した(図1の緑色表示)。ただしこのときは米Microsoftからの和解金16億ドルが入ったというのが主な要因でもあるが・・。そしてその次の四半期では1億7400万ドルの赤字だったものの, 米Eastman Kodakとの特許侵害訴訟の和解金(関連記事)などの特殊要因を除いた非GAAPベースでは,1300万ドルの黒字となった(関連記事)。さらに直近発表の決算(2004年10~12月期)では1800万ドルの黒字となった(注1)。低価格サーバーの台数も伸びているという。

注1:当初1900万ドルとしていたが,後に米証券取引委員会に提出した書類で1800万ドルに修正した(関連記事

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ただし,こうした変化をSun社の復活の兆しととらえてよいのかどうかはまだ分からない。Solaris 10の需要についての懐疑的な見方(関連記事),Solarisのオープンソースのあり方に対する懸念(関連記事),そして路線変更の時期の遅さなどが指摘されている。Sun社は“高級機”ベンダーから“無償/低価格/サブスクリプション”ベンダーへと生まれ変わろうとしている。正しい方向かもしれないが,その実現は容易なことではない。時間もかかるだろう。成果が出たと判断するのはまだ早い。


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