米AMDが米国で米Intelを提訴した後,事態は世界に飛び火した。米国での提訴からわずか2日後,日本AMDが,Intel社の日本法人インテルによる違反行為で損害を受けたとして約60億円の賠償請求訴訟を起こした(関連記事)。7月12日には欧州委員会と関係当局がIntel社とコンピュータ関連企業などを立ち入り検査した。

 Intel社は同社の商慣行が公正かつ正当なものと主張しているが,AMD社は欧州委の捜査を歓迎する声明を発表,米国で同社の主張を訴える広告を大手新聞に掲載するなど,異例とも言える大規模なキャンペーンを展開している。今回は,このIntel訴訟とAMD社のキャンペーンの意図について,米メディアの報道を見ながら考えてみたい。

歴史的な和解から10年

 まずはAMD社とIntel社の関係の経緯について簡単に振り返ってみる。両社間の争いの歴史は長い。1980年代半ばの386プロセサを巡る争いから始まり,1991年にはAMD社が米国で独禁法違反訴訟を起こした。後に,Intel社に1000万ドルの賠償金支払い命令といった判決を経て1995年,AMD社とIntel社はすべての係争に決着をつけ和解した。

 ところが2000年,AMD社は,Intel社が不正なマーケティング手法で欧州の独禁法に違反した,と欧州委に訴える。2004年4月には,日本の公正取引委員会(公取委)がインテルの立ち入り検査を行い,今年3月,公取委はインテルに排除勧告を発した。今年4月,インテルは公取委の主張事実は否定したものの,排除勧告を応諾した(関連記事米CNET News.comの記事)。

 今回の訴訟はこうした経緯の後に起こった。1995年の歴史的な和解から10年。その間に新たな火種が現れていた。日本の公取委による排除勧告を受けて,これまでくすぶっていたものが一気に爆発したといった感がある。

20%あったAMDのシェアが15.8%に

 AMD社の資料によれば,2001年に個数ベースで20%あった同社x86プロセサの世界シェアは,Intel社が不公正な商慣行を実施したことで,2004年に15.8%までに落ち込んだという(表1)。

 かつてのAMD社は,IBM社にx86プロセサを供給する2次サプライヤとしてIntel社と契約した。しかし今や状況は変わった。2003年には64ビット・プロセサで,同社歴史上初めてIntel社との開発競争に勝った。現在はデュアルコア・プロセサの市場投入でIntel社としのぎを削っている。そんな同社がシェアを伸ばせないでいるのは,Intel社が,コンピュータ・メーカーや小売店にAMD社の製品を閉め出すような不正な商慣行を行っているからだ,というのがAMD社の主張である。

表1●x86プロセサの世界シェア推移

        1997    1998    1999    2000    2001    2002    2003    2004 
Intel  85.0%  80.3%  82.2%  82.2%  78.7%  83.6%  82.8%  82.5% 
AMD     7.3%  11.9%  13.6%  16.7%  20.2%  14.9%  15.5%  15.8% 
その他  7.5%   7.9%   4.2%   1.1%   1.1%   1.4%   1.7%   1.7% 
出典:AMD社

キャンペーンで何を目指すのか?

 AMD社はいま,大々的なキャンペーンを展開中である。Intel社を提訴した週には,New York Times,Wall Street Journal,Washington Postなどに全面広告を掲載。タイトルは,「Intel訴訟,なぜAMDは提訴したのか」。ここで同社の主張を繰り返し説明しているほか,新たに開設した,訴訟の話題に特化したWebサイトを紹介。読者に同サイトを閲覧するよう勧めている。同サイトでは,同社会長/CEO/社長Hector Ruiz氏の公開書簡や,デラウエア州連邦地裁に提出した48ページに及ぶ訴状を公開している。

 この訴状の内容については,New York Times紙のWeb版がレポートしており,「実に生々しい言葉」と表現している。例えば,東芝の幹部が「Intelの奨励はコカインと同様の常習性を持つ」と発言をしたと書かれた部分などを取り上げている(New York Times紙の掲載記事

 こうしたことが本当に述べられたのかその真偽は定かでないが,同紙はなぜAMD社がこのような生々しい内容の訴状を作成したのか,その意図について触れている。

 同紙は,「この訴状はまるでWebサーファーが時間のあるときに読むために書かれたもののようだ」と指摘している。つまり,同訴状は一般的なそれとは異なり,人々に感心を持ってもらうために書かれたもののようで,AMD社の意図はそこにあると述べている。

 同記事では,AMD社の広報担当者David Kroll氏のインタビューも掲載している。それによると,キャンペーンの「主な目的は,人々の関心をAMD社に集めること」(Kroll氏)と名言している。「ハイテク業界の外にいる多くの人はAMDを知らない。だから我々は何か特別なことをする必要があると考えた。(今回のキャンペーンは)我々の世界と外の世界のバリアーを外す1つの方法と我々はとらえている」(同氏/掲載記事

 力の入った特設サイトでは,訴状の内容や全文を公開した意味などを解説している。閲覧すれば,AMD社の意図がよく分かる。またInsight64誌のNathan Brookwood氏によれば,AMD社の戦略はアンダードッグ効果を狙ったものだという。これは人々が弱い立場の側を応援したくなり,同情票が集まるという現象。AMD社は「広く一般の人々に多く関心を持ってもらい,味方を増やしたい。それと同時にこれを機に,同社の知名度を一気に上げたい」――。そのように考えているようである。

 訴訟と巧みに絡ませたキャンペーン。したたかな戦略である。


◎関連記事
米Intel,「Pentium D」と「E7230」によるサーバー・プラットフォーム発表
米Intel,「次期Itanium 2,4ウエイ・システムで45ギガFLOPを記録」
米Intelと米Corning,超紫外線リソグラフィ技術の開発で提携
米Intel,新作映画の有料オンライン配信に向けたベンチャ設立に出資
米AMD,対Intel訴訟関連の文書保存に関する申し立てが認められる
【緊急インタビュー】日本AMD吉沢取締役に聞く、インテル提訴の狙い
米Gateway,「Pentium D」「Windows XP Media Center」搭載したメディアPC
「自由な競争を回復するのは今」―日本AMDがインテルを提訴
米AMDが不正販売行為で米Intelを提訴,「38社が犠牲になった」
米Intel,バリューPC向け64ビット対応プロセサ「Celeron D」6モデルなど
AMDがPacificaの仕様を公開,Longhornに向けIntelに一歩先行
米HP,デュアルコア版「Opteron」ベースの2ウエイ・サーバー4モデル
薄型/軽量ノート向け「Turion 64 ML-40」,米HPと台湾Acerが採用
米HP,米AMDの「Turion 64」を搭載した消費者向けノートPC
「米Intelがインドに半導体工場設立へ」,インド通信情報技術相が発表
米Intel,中国に2億ドルのベンチャ・キャピタル基金を設立
Intelに乗り換えるApple,「開発者の不安」と「Jobs氏の自信」
日本AMDがクライアント向けデュアルコア・プロセサ4製品を発表
インテルがクライアント向けデュアルコア・プロセサ,AMD対抗を鮮明に
「日本でサーバー・シェア首位になる」、米HPのPCサーバー担当副社長
日本AMDがサーバー向けデュアルコア・プロセサ群を発表
米Intel,「Pentium D」や企業向け新プラットフォームを発表
x64 Editionを6年前の64ビットWindowsと比較する
米AMD,プロセサ仮想化技術「Pacifica」の詳細仕様を公開
ついに登場のデュアルコアx86を検証,4コア以上で問われる真価
インテル、公取委の主張事実は否定するも排除勧告を応諾