このところ米Yahoo!の業績が好調だ。4月20日に発表した05年第1四半期の決算では,売上高が11億7400万ドルで前年同期から1.5倍,純利益は2億500万ドルで同2倍に伸びた。これで同社は2年間連続して売上高の記録を更新した。

 かつてネット・バブル崩壊に泣き,1億ドル近い赤字を出した企業とは思えないほどだ。今回はYahoo!社復活の経緯とその要因について考えてみたい。いったい何がYahoo!社に成功をもたらしたのだろうか?

どん底から抜け出した

図1●米Yahoo!の売上高/損益推移(単位:億ドル)
 Yahoo!の業績不振が始まったのは2000年の第4四半期。この四半期だけで同社は9782万ドルの赤字を出した。ネット・バブルの崩壊により,ドットコム企業からの広告収入が大幅に減ったのが原因だ。翌2001年,同社は広告収入に依存する無料のビジネス・モデルからの脱却を図るべく,盛んに有料化を推し進めた。しかしその年の業績は惨たんたるものだった。売上高が激減し,それを盛り返せず,通期の赤字額は過去最悪の9280万ドルとなった(図1[拡大表示])。

 復活の兆しが見え始めたのは翌2002年。そして本格的な回復は2003年だ。この年,売上げ,利益ともに,2000年のピーク時を超えた。さらに翌年(2004年),売上高は前年からほぼ2倍の35億7500万ドル,利益は同3倍以上の8億4000万ドルとなり,みごとなV字回復を果たした(関連記事)。

売上げの8割以上を占める検索マーケティング部門

 Yahoo!社の好業績を支えているのは,「Marketing Sevices」と呼ばれる事業。これには,2003年10月に買収手続きを完了した米Overture Services(現在は「Yahoo! Search Marketing」に改称)が含まれる。検索連動型広告など,検索を利用したマーケティング・サービスを提供する事業だ。同事業の2004年通期の売上げは30億ドル。同社売上げ全体の8割以上にもなる。不振時期に必死に進めた有料サービスの売上げ(4億2600万ドル)や,創業時からのディレクトリ・リスティングの売上げ(1億4700万ドル)とはひと桁違う規模である。

 これを裏付ける調査結果がある。インターネット広告の標準策定団体,Interactive Advertising Bureau(IAB)と米PricewaterhouseCoopers(PwC)が共同で行った米国ネット広告市場の調査によると,2004年のネット広告売上高は前年比33%増の96億ドルで,バブル最盛期だった2000年の売上高を20%近く上回ったという(関連記事)。

 またこのなかで,検索連動型広告の売上高は38億5000万ドルとなった。ネット広告全体に占める割合は40%で,カテゴリ別でトップである。とうとう,ディスプレー広告(バナー広告やリッチ・メディア広告など)を上回ってしまったというわけである(IABサイトに掲載の資料)。

“Google路線”への軌道修正が成功

 最近のYahoo!社には活気がみなぎっている。検索のパーソナル化サービス(関連記事)や,検索ツール「Y!Q」(関連記事),ソーシャル・ネットワーキングとブログを組み合わせた「Yahoo! 360」(関連記事)などを続々登場させた。昨年は,検索技術の開発を行う専門の研究部門「Yahoo! Research Labs」を設立(関連記事)。ここで同社の事業戦略推進に向けた技術開発を行っており,生み出された新たなコンセプトや製品/サービスを同部門のサイト「Yahoo! Next」でどんどん紹介している。

 この動きは米Googleとよく似ている。例えば,検索のパーソナル化サービスはGoogle社の「My Search History」(関連記事)。新コンセプトの紹介サイトは,「Google labs」といった具合だ。

 Yahoo!社のかつての主要な収入源は,手動によるディレクトリ・リスティングやバナー広告など。しかしバブル崩壊により,やがて広告主を失うことになる。同社はポータル・サイトを核とした有料サービスに注力したが,思うようにヒットせず,模索した。その一方でGoogle社が台頭,単なるWebのテキスト検索から進化し,次々に新サービスを投入,ポータル・サイトを脅かす存在になった。

 Yahoo!社がそんな状況を打破するきっかけとなったのが,Google化ともいうべき,テクノロジ路線への軌道修正だったと考えられる。検索技術の研究に資源を投入,開発強化を図ったことで,売上げ増につながるサービスが生まれた。その資金をもとにさらに開発を続け,次々と新たな製品/サービスを生み出した。折しもその時期がネット広告市場の回復と一致した。

量より質で勝負

 かつてのYahoo!社はしきりにユーザー増大の成果について強調していた。「今月はユニーク・ユーザーが1億8000万人になり,前年より6000万人増えた」といった具合だ。ところがここ最近,そんな表現はしない。

 「我々のユーザーはかつてないほど深くYahoo!のサービスを利用するようになった。なぜなら我々がインターネットで革新的な製品やサービスを提供することに絶え間なく努力しているからだ」(Yahoo!社会長兼CEOのTerry Semel氏/PDF資料

 もはや,量より質で勝負ということなのだろう。前述のIAB/PwCの調査によれば,2004年,パフォーマンス・ベースの広告は伸びを示したが,CPM(露出頻度で広告料金を支払う)ベースは1ポイント下がった。広告需要も,量より質へと移行しつつあるようだ。とは言ってもYahoo!社は安閑とはしていられない。Google社とのし烈な競争があり,米Microsoftも市場参入を計画している(関連記事

 ブランドとテクノロジの両方で“いけてる”企業に変容したYahoo!。今後は,絶えず変化する状況を見極め,迅速に対応していくことが必要だろう。さもないとあの“どん底時代”がまたやってくる。


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