今年の「US NEWSの裏を読む」はこれで最後の回となる。読者の皆様には1年間本コラムにお付き合いいただき,感謝の気持ちでいっぱいである。前回はそうした意味を込めて,人物に焦点を当てながら2002年のIT業界を振り返ってみた(「2002年米IT業界で笑った人,泣いた人」)。今回はその第2弾として,企業に目を向けてみる。今年1年間の,「US NEWS FLASH」や本コラムで取り上げた出来事,そして米メディアの報道などを拾って,2002年のIT業界を振り返ってみたい。

■韓国Sumsungが前年比約30%増で躍進したが...

  ●図1 半導体ベンダーの売上高推移(速報値,単位は100万ドル)

※1)日立およびNECによるDRAMの売上高は,両社の合弁会社Elpidaによる
※2)東芝によるDRAMの売上高は,米Micron Technologyによる
出所:Dataquest社

 まずは米GartnerのDataquestが今週発表した,半導体ベンダーの売上高の速報値(関連記事)を見てみたい。これによれば,全世界における各ベンダーの今年の売上高の合計額は1554億ドルになる。これは前年に比べ1.4%増加という数値。一見して今年はじめにアナリストが予想していた「緩やかな回復」を思わせるのだが,実はそうとも言えない。これには,「その前年である2001年の売上高が2000年に比べ大幅に落ち込んでいた」という落ちがあるからだ。

 その売り上げ減少率はなんと32%だった。つまり今年は,「大きく低迷した昨年から微増した」ということに過ぎないのである。それを物語るのが大手半導体ベンダーの売上高推移である。例えば業界首位の米Intelが前年比3.1%減だったのをはじめ,東芝,日立製作所,仏伊合弁STMicroelectronics,米Motorola,オランダPhilips Semiconductorなどが軒並み減少している。

 好調だったのは韓国Samsung(前年比29.5%増)とドイツInfineon Technologies(同22.1%増)くらい。しかし,それとて業界全体から見れば,わずかな部分でしかない(図1)。半導体業界はまだ「回復」とは呼べない状況にあるのだろう。

■パソコンやサーバーも低迷,米HPには強力なライバルが

 パソコンやサーバーの業界についても同じことがいえる。当初,市場回復が今年後半に始まるといわれていたのだが,各社が第3四半期の決算を発表した時点で,それがはずれたことが分かった。例えば,第2四半期に黒字転換していた米Sun Microsystemsは,第3四半期に入って再び赤字に転落した。これに伴い同社は大規模なリストラを余儀なくされている。また米Apple Computerが4500万ドルの赤字を報告したほか,マイクロプロセサの分野では米AMD,米Transmetaがともに減収と赤字幅の拡大を発表した。

 ところが,こうした状況でも好調だった企業がいくつかある。その1つが米HP(Hewlett-Packard)である。同社は前述の企業とは決算時期がずれていることから,11月後半に8月~10月期の決算を発表した。そしてここで黒字転換を報告したのだ。この決算は米Compaq Computerとの合併後2度目の決算である。つまり,同社はこの決算報告で新生HPが早くも順調に軌道に乗ったことを示したわけである。

 しかし,HP社はその業績にあぐらをかいているわけにはいかない。その要因は米Dell Computerである。Compaq社と合併したことでHP社のパソコン出荷台数は業界トップとなっていたのだが,そこにDell社という強力なライバルが猛烈な勢いで迫ってきたのだ。

■パソコン以外にも手を広げる米デル

 Dataquest社の調査結果によると,第2四半期におけるHP社のパソコン出荷台数は462万7000台で,前年同期に比べ大きく減少している(16.1%減)。これに対し,Dell社の出荷台数は445万9000台。Dell社はその差わずか16万8000台でHP社に迫ったのだ(関連記事)。

 第3四半期になってもDell社の勢いは衰えなかった。同四半期,Dell社はとうとうHP社を追い抜いてしまったのだ。この時のDell社の出荷台数は前年同期比20.7%増。これに対しHP社のそれは同3.1%減だった(関連記事)。

 Dell社については,その後も積極的な事業展開のニュースが多かった。例えば「米Lexmarkと提携したプリンタ市場への参入」「初のハンドヘルド機『Axim』によるPDA市場への参入」がある。

 Dell社はサーバーの売り上げも好調だった。さらに,企業向けサービス事業を拡大するというニュースもあった。こうした絶好調に支えられた積極的な事業展開が「行き過ぎ」ではないかとして,パートナー企業との間で摩擦が生じている,という報道もあったほどである(掲載記事

■米ゲートウエイは積極路線に転向

 日本など国外市場からは一昨年の夏に撤退してしまった米Gatewayは,本拠地の米国では健在である(関連記事)。それどころか,今年はDell社同様,積極展開に出た。

 同社の米国市場におけるパソコンのシェア(出荷台数ベース)は,昨年末から4位が続いていた。しかし今年第3四半期,同社は米IBMを抜いて3位の座を獲得した(関連記事)。同社についてはこのころから活気のある話を多く聞くようになった。例えば,11月には同社ブランドのPDPテレビ受像機を販売すると発表(同社がパソコン関連以外で自社ブランドの製品を販売するのはこれが初めて),また直営店で他社のブランドの家電も販売するという戦略を打ち出している。

 これ以外にも,自社ブランドTablet PCの販売,音楽配信サービスも発表,変わったところでは,グリッド・コンピューティングのサービスも明らかにしている。これは,同社の直営店に眠っている合計8000台の在庫パソコンをつなぎ,そのコンピューティング・パワーを企業向けに提供するというサービスである。

■市場から消えたかつての有力企業

 2002年は名門企業やかつて脚光を浴びたベンチャー企業が次々と破綻し,業務停止などに追い込まれた年でもある。例えば,あの米General Magicは9月に業務停止を発表,この12月に米連邦破産法11条(チャプター11:日本の会社更生法に相当)の適用を申請している(発表資料)。同社は,Apple社の3人のエンジニアが1990年に設立した企業。エージェント技術を応用した携帯型通信機器向けOS「Magic Cap」などで多くの協力企業を集めた。

 音楽配信技術やデジタル著作権管理(DRM)技術で注目された米Liquid Audioは10月にその知的財産権を米Microsoftに売却,今では会社精算の方向に向かっている。

 米国でかつてISP(Internet Service Provider)の“ビック・スリー”の1つと言われた米Genuity(旧BBN)も今年11月に米連邦破産法11条の適用を申請した

 同じ通信事業者の米WorldComも今年,破綻に追い込まれた。同社については,前回の人物編で取り上げたのでそちらをご覧いただきたい(掲載記事)。

 また,破綻には至らないが大きなダメージを受けた企業も多い。目立つところでは米AOL(America Online),米Lucent Technologiesがその例だろう。AOL社にとって,2002年とは,不正会計疑惑ブロードバンド戦略の失敗広告/販売収入の大幅減の3黒星を付けた年といえるだろう。

 もう一方のLucent社は,破綻寸前まで追いつめられている(掲載記事)。Lucent社の傘下にある“米国の宝”ベル研と合わせて,行く末が案じられる。

◇     ◇     ◇     ◇     ◇

 2002年は結局,期待されていたような市場の回復はなかった年だった。むしろ,ITバブルの崩壊と9・11テロの流れを受け,多くの企業が破綻した。もちろんビジネス・モデルや経営の見直しを迫られた企業の数はその比ではない。そうした企業は,Dell社のように新市場に参入したり,Gateway社のように異業種製品との相乗効果を狙ったりしている。もちろんAOL社のように苦汁をなめた企業も多い。「企業はもちろん,製品やサービス,戦略や手法においても淘汰が急速に進んだ年」―――それが2002年だったと思う。

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