筆者は米国のニュースを毎朝ウォッチして,US NEWS FLASHを執筆している。その中で一つのニュースを見ているだけでは意味が分からないこともある。過去のニュースも含めて,複数のニュースを結びつけることによって,はじめて浮かび上がってくることがあるのだ。この新コーナー「US NEWSの裏を読む」では,複数の米国発ニュースから見えてくる事柄を毎週,記していく。第1回はまず2001年を振り返りつつ,2002年を展望してみよう。

 2002年の幕が開け,IT業界は早くも動き始めている。米Apple Computerが一体型デスクトップ・パソコンの新機種を発表米Intelも動作周波数2.2GHzの「Pentium 4」を発表した。ラスベガスでは民生機器の展示会「2002 International Consumer Electronics Show(CES)」が開幕し,米Microsoftなどがデジタル家電機器の構想を打ち出している。

 華々しくスタートした2002年だが,IT業界は今年はどんな動きを見せるだろうか。果たしてIT市場は本当に回復するのだろうか。米国のメディアや市場調査会社がそれぞれ予測を発表しているので,まとめてみよう。

注目技術はおおむね予想通りだった2001年

 まず昨年,2001年の予測を振り返ってみる。米InfoWorldのTest Centerが昨年始めに,“企業が注目すべき”として10個の技術を挙げていた。10個とは,CRM(customer relationship management),EKP(enterprise knowledge portal),ピア・ツー・ピア,サプライチェーン・オートメーション,ビジネス・インテリジェンス・ソリューション,ビジネス・プロセスの統合,コンテンツ管理,無線技術,広帯域,そしてLinuxをはじめとするオープンソース・ソフトウエアである。

 ピア・ツー・ピアについては,米Napsterがサービスを停止し,一時の“大騒ぎ”は収まったものの,2001年にはピア・ツー・ピア・コンピューティング技術を用いたさまざまな技術が登場した。例えば,米Intelなどの世界のPCをつなぐ「仮想スーパーコン」米IBMの「グリッド・コンピューティング」構想米Sun Microsystemsの分散コンピューティング研究プロジェクト「Project JXTA」が記憶に新しい。

 サプライチェーン・オートメーションやビジネス・インテリジェンス・ソリューション,ビジネス・プロセスなどについては,サプライ・チェーン構築を目指すRosettaNet,Webサービス実現のためのSOAP,WSDL,UDDIやebXMLなど,XMLをベースとする技術が実用化の一歩手前の段階にきている。

 無線LANを利用できるパソコンも普及しており,広帯域向けコンテンツ利用の環境も普及しつつある。Linuxについても,対応するシステムやソフトウエア,サービスが充実している。これら個々の技術については,概ねInfoWorld Test Centerの予測通りに進んだ,と言えるだろう。

2002年はデジタル認証サービスが新たに注目

 さて今年はどうだろうか。米IDCが1月3日に市場予測を発表しているので,少しみてみよう。

 IDCは「2002年は2001年の遅れを取り戻すところからスタートし,回復は2002年中頃に始まる」と分析している。また,「ことによると,予測よりも大きな回復をみせるかもしれない。またその時期も予測より早まる可能性がある」(同社チーフ・リサーチ・オフィサーのJohn Gantz氏)とより楽観的な見方も示している。

 なお同社が言う“2001年の遅れ”は9月11日の同時多発テロに起因する。2000年にネット・バブルが崩壊し,2001年に入って多くのドットコム企業が倒産した。こういう背景があるものの,IDCは当初「回復は2001年中にも始まる」とみていたという。ところが同時多発テロが起こり,IT市場回復の足かせとなってしまったというのだ。

 IDCは具体的な数値も示している。例えば,2002年における企業のIT支出は,「米国で4~6%,西欧で6~7%,アジア太平洋地域で10~12%増大する」と予測する。また中国のWTO(世界貿易機関)加盟により,IT支出の増大が期待できるという。「今後数年で中国のIT支出は25%増大し,中国は2010年までに世界のIT市場で三番目に大きな市場になる」と考えている。

 IDCはこのほかの八つの市場分野についても分析を行っている。個々について詳しくみてみよう。

1)「無線接続」:無線機器やモバイル機器によるインターネット・アクセスが広まるにつれて,まだ無線LANに対応にしていない企業でも,無線LANへの対応を迫られるようになる。

2)「セキュリティ」:同時多発テロの影響から“業務の継続性”について真剣に考える企業が増える。これにより多くの企業でIT危機管理政策を見直すことになる。

3)「デジタル認証サービス」:米Microsoftが「Passport」認証技術をWindows XPユーザーに浸透させることを狙っている。一方,反マイクロソフト陣営は競合技術を開発し,対抗しようとしている。このためデジタル認証サービスが実際に使われるようになる。

4)「ストリーミング・メディア」:新しい標準技術が普及し,また同時多発テロの影響を受けたことから,新サービスや市場ニーズが活発化する。

5)「Webサービス」:Webサービスのコンセプトが広まるのは,2002年がピーク。ただし注目される(実用段階の)製品やサービスが登場するのはまだ数年先。

6)「Linux」:Linuxにとっては2002年は“ブレークアウト”の年となる。Linuxは過去数年に最も困難な時期を乗り切ってきた。また2001年は幾度も市場から消滅する危機にさらされた。しかしいまや企業向けの代替OSとして,その生存能力を証明している。

7)「ブレード・サーバー」(薄型サーバー):ブレード・サーバーの市場は2002年の段階ではまだそれほど大きくはない。しかしエントリー・サーバーやアプライアンス・サーバーの市場をかき乱す要因となる。

8)「Windows XP」:2002年におけるWindows XPの販売ライセンス数は,7500万に達する。しかし,Windows 95のようにハードウエアの売り上げやパソコンの新規購入者数を著しく増大させるといった力はない。

 米Gartnerも,2002~2007年における注目技術を発表している。最後にこちらもみてみよう。

 Gartner社は,2007年までに企業に最も影響を与える技術として「バイオメトリックス」「音声認識」「Webサービス」「ポータル」「常時接続の無線データ/通信機器」を挙げている。同期間に企業が重要視するものとして,コンポーネント・ベースの業務インフラをプラグ・アンド・プレイ方式で利用する「エンタープライズ・ナーバス・システム」のほか「CRM」「電子調達」「電子商取引」「情報リテラシ」「ユビキタス・コンピューティング」などがあるという。またベンチャー・キャピタルがその投資対象として2002年に注目するのは,「ケーブル」「エレクトロニクス」「ネットワーク・インフラ」「セキュリティ」「無線技術」などとGartnerは予測している。

 これらの予測は果たして実現するだろうか。2002年も米国発ニュースをウォッチしていくのでご期待いただきたい。