昨年の8月,本コラムでは「検索エンジンを使った広告手法」についてレポートした。その概要は,「検索エンジンがデータ収集する“クセ”を研究し,それによって得た知識やテクニックを使って,企業などが自社サイトを検索結果画面の上位に表示させるべくWebページを作成している」というものだった(掲載記事)。
多くのインターネット・ユーザーがWeb検索サービスを利用する昨今,Yahoo!やGoogleなどの大手サイトで,自社の製品やサービスを露出させることは商品の売り上げに大きく貢献する――。そう考えられているのだ。
こうした“自社サイトの上位表示”をテクニックを駆使して行うのではなく,お金で買ってしまうという方法もある。お金を多く支払ったスポンサ企業のリンクを検索結果ページに優先的に表示するサービスがあるのだ。「ペイド・リスティング・サービス」あるいは「スポンサド・リンク・サービス」などと呼ばれている。
今回はこのサービスを提供する会社で,今,活発な活動を展開している米Overture Servicesについて見てみたい。同社は,今年2月に検索サービスの老舗事業を2件買収すると発表した。米AltaVista(関連記事)とノルウェーFast Search & TransferのWeb検索事業(発表資料)である。同社は日本市場でも昨年末に本格的な事業活動を開始,今,積極的な営業活動を展開中である。いったい何が同社をこうした動きに駆り立てているのだろうか?
■ペイド・リスティング・サービスとはこんな仕組み
まず最初に,Overture社のサービスとはどんなものなのか簡単に見てみよう。同社のペイド・リスティング・サービスは,前述したように,お金を多く支払ったスポンサ企業のリンクを検索結果ページに優先的に表示するというもの。この“お金を多く支払う”というのは,次のような一種のオークション形式で行う。
例えば,あなたの会社がコンピュータ関連だったとしよう。するとあなたは「コンピュータ」というキーワード(検索文字列)に対し,例えば「35円」という値を付けてOverture社に申し込む。これでユーザーが「コンピュータ」で検索した場合,あなたの会社のWebページのリンクが検索結果ページに優先的に表示されるというわけである(図)。
ただし,その順位は保証されたわけではない。10社のライバル企業が「コンピュータ」に対し36円以上の値を付けていれば,あなたの会社は11番目に表示されることになる。つまりトップの座を得たければ他の誰よりも高い値を付けて落札しなければならない。これがオークション形式という意味である。
あなたの会社が実際に支払うお金は,表示されたリンクのクリック数を基準にするペイ・パー・クリック方式で算出される。つまりユーザーがクリックした数(これはあなたの会社のサイトに訪問した数と同じといえる)に,35円を乗じ,Overture社が請求してくるというわけだ。
これを高いと考えるか安いと考えるかは,実際の効果を見なければなんとも言えないが,Overture社では次のように説明している。「我が社はこのサービスをYahoo!やMSN,Lycosといった大手検索ポータルに提供している。つまり貴社サイトがこうした代表的なサイトで上位に表示されることになり,その広告効果は絶大」
●図 Overture社がサービス契約している米Yahoo!のサイト 「computer」で検索した。ペイド・リスティングは通常の検索(Web Matches)とは別の欄(Sponsor Matches)に表示されている。米Intelよりも米IBMの方が高いお金を払って,上位に表示されているというわけだ。![]() |
■絶好調のOverture社を支えるもの
この宣伝文句が奏効していることは,ここ最近のOverture社の業績を見ると分かる。同社が今年2月に発表した2002年第4四半期の売上高は1億9960万ドルで,前年同期の1億120万ドルから97%増となっている。2002年度通期の業績では売上高が6億6770万ドルで,前年の2億8810万ドルから132%増加している(発表資料)。
同社は日本市場でも活発に動いている。昨年末のサービス開始以降,同社サービスへの登録顧客数はすでに1000社に達しているというし(発表資料),同社はMSN Japanと2004年12月までのサービス契約を結んでいる(関連記事)。最近では広告代理店制度を導入し,販売チャネルの強化も図っている。
こうした同社の活動を支える背景には,バナー広告の低迷があると言われている。米国では2年前くらいからバナー広告の効果を疑問視する声があり,広告主による評価が下がってきていると言われている。
例えば,オンライン広告の業界団体である米IAB(Interactive Advertising Bureau)によると,2002年第2四半期におけるバナー広告販売は全オンライン広告の32%で,前年同期に比べ4ポイント下がっている。これに対し,Overture社が提供するようなペイド・リスティング広告は増加傾向にある(発表資料)。ここ1年ほどで多くの企業がバナー広告から,ペイド・リスティングに移行しており,これがOverture社の好業績を支えていると考えられている。
■Web検索サービスの世代分類
では,今回Overture社が立て続けに買収を行った背景には何があるのだろうか。まずは,ここ数年のWeb検索サービス業界の動向を確認しておこう。
Web検索サービスは,その歴史を振り返ると,3つの世代に分類できる。第1世代は,人間が手作業でジャンルごとにデータを分類,検索結果をそのジャンルごとに分類表示するというもの。これはYahoo!のディレクトリ検索に代表される。
第2世代は,データ収集のためのプログラム(クローラまたはロボットなどと呼ぶ)が定期的にサーバーを巡回してデータを収集,そのデータの一部を使って索引を作り,データベースに登録するというもの。
第3世代は,第2世代を発展させたものでGoogleに代表される。Webページの順位評価にこれまでになかった画期的なアルゴリズムを用い,検索精度を飛躍的に高めたものだ(詳細記事1,詳細記事2)。Overture社のサービスも検索ビジネスという点においてはこの第3世代に入ると言われている(ただし同社のサービスはあくまでも広告。ユーザーの求める検索結果を公正に表示するという趣旨はないので,厳密に言えばどの世代カテゴリにも入らない)。
■第2世代を巡る買収劇
この第3世代サービスの登場(“Googleの登場”とほぼ同義だが)により,第2世代の検索サービスは窮地に追い込まれた。その結果ここ数年,業界で統合の動きが進んでいる。例えば,第2世代の米Inktomiは,昨年に11月に企業向け検索ソフトウエア事業の売却を余儀なくされた(関連記事)。12月には米Yahoo!が同社の買収計画を発表している(関連記事)。
また米Infoseekについては,今週に入って,「米Walt DisneyがInfoseek社のWeb検索事業の売却を検討している」と報じられている(掲載記事)。Infoseek社も第2世代の検索サービス。1999年にWalt Disney社に全株式を買収され,その傘下に入っているが,なんとWalt Disney社は今週始め,Google社と契約を結んでいる。自社の持つ検索技術に見切りをつけたとしか考えられない出来事である(関連記事)。
今回のOverture社によるAltaVista社の買収もこうした業界変動の大きな流れの1つと言えるだろう。AltaVista社はこれまで複雑な経緯を辿っている。同社の出発点は1995年に米DEC (Digital Equipment Corporation)が始めた検索サービスだった。AltaVistaは,米Compaq ComputerによるDEC買収後,1999年1月にCompaq社の子会社となったが,その年の8月に米国のベンチャー・キャピタルCMGIにその株式の80%を取得された。最近では,かつての栄光を取り戻せずに苦しんでいたなどとも報道されていた(掲載記事)。
■ネット企業の脅威となるGoogle
こうした第2世代の衰退を尻目に,Google社の躍進には目覚ましいものがある。シンプルな検索画面と高性能の検索技術は相変わらずユーザーに人気が高いし,ニュース集計サービスやショッピング比較サービスなど,サービスの拡充も怠らない。Google社は,Yahoo!社,Yahoo! JAPAN,米AOL(America Online),米Excite,米AT&T,米New York Timesといった大手ポータル/ニュース・サイトに検索技術/サービスを提供しているほか,Overture社と同様のペイド・リスティング・サービスも提供している。最近では,「関連性の高い広告を提携サイトにも表示する」という新たな広告サービスを発表している(関連記事)。
オンライン業界においては次の3つのことが言えるのではないだろうか。(1)Googleという第3世代のWeb検索サービスが登場したことで,かつて華々しく活動していた第2世代の検索サービスはそのシェアを大きく奪われた。(2)Google社は自前で検索サービス・サイトを運営しているが,そこではポータルが提供する機能と同じものを提供・拡充しており,大手ポータルをも脅かしている。(3)さらにGoogle社は,Overture社のような広告市場にも進出しており,Overture社からAOL社や米EarthLinkといった大口顧客を奪っている。そしてこの3つの要素が検索サービス,ポータル,ネット広告のさまざまな企業の脅威となっている。
■Google対策に乗り出したOverture
こうして見てみると,Yahoo!社のInktomi社買収も,Overture社のAltaVista社とFast社事業の買収も,1人勝ちを続けるGoogleへの対策と考えられる。Yahoo!社にとっては自社の提携パートナーであるGoogle社がいつの間にかサービスを拡充し,自社の人気を脅かすまでに成長しているという状況である。Overture社にとっても状況は似ている。同社のペイド・リスティング・サービスは好調ではあるものの,実際,Google社には顧客を奪われている。
またOverture社とGoogle社は特許侵害で争っているという関係でもある。Overture社は昨年4月に,自社のペイド・リスティング・サービスの特許侵害されたとしてGoogle社を訴えている(関連記事)
Overture社としては,ここはなんとしてもGoogle社の勢力を食い止めたいところだろう。Overture社は,Fast社のWeb検索サービス「AlltheWeb.com」を高度技術の実験の場として使い,AltaVista.comをその実装の場として使いたいとしている。AltaVista社とFast社のアルゴリズム技術,ペイド・インクルージョン・サービス(注1)と自社の技術を組み合わせて,ポータルやISP向けの総合的なサービスを展開していくのだという。残念ながら,現時点ではこれ以上の詳細は明らかにされていない。
ビジネスの側面ではかつての勢いを失った第2世代の検索サービスは,Overture社のような活気のある企業に統合され,新たな活路を見いだすことができた――。そう言えるかもしれない。しかし,それが今後どう使われていくのかが気になるところだ。老舗の技術が形を変えて次の時代に受け継がれていくことはよい。ただし,初代開発者の意図とはあまりかけ離れたものにはしてほしくないとも考えてしまうのだ。
注1:ペイド・インクルージョンとは,検索エンジンの索引への迅速な登録と更新を保証するサービス。ペイド・リスティングのように優先順位を目的としたサービスとは異なる。
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