「我が社のユーザーをポップアップ広告の呪縛から解き放つ」――先週はじめ,こんな触れ込みで大手ISPの米Eearthlinkが大規模なキャンペーンを始めた。ポップアップ広告を遮断するソフトを無料で提供し,自社のユーザーに快適なインターネット環境を楽しんでもらう。これによりライバルISPとの差異化を図る,という考えだ(関連記事)。

 ポップアップ広告とは,Webページにアクセスすると前面に現れる広告ウインドウのこと。バナー広告よりも効果が高いとして,ここ数年の間に欧米で多用されるようになった。

 ところがここ最近,ポップアップ広告に対するユーザーの不満が多いとのことから,これを敬遠する動きが出ている。女性向けポータル・サイトを運営する米iVillageは,7月末にポップアップ広告の排除計画を発表したばかり(発表資料)。米AOLもAOLサービス会員に向けたポップアップ広告を大幅にカットしている。MSN,Yahoo!もしかりである。

 ポップアップ広告は消えゆく方向にあるのだろうか? そんな考えがふと頭をよぎる。バナー広告に取って代わる新たな広告手法として期待されてきたポップアップ広告だが,どうやらここに来て岐路に立たされているようである。今回は,日本より一歩先行く欧米のポップアップ広告事情について考えてみたい。

■AOL.com,Netscape.com,Real.comなど大手がこぞって採用

 ポップアップ広告が問題視されるようになったのは,ネット・バブル崩壊後の2000年半ば。オンライン・メディア大手がこぞって採用を始めたことから非難されるようになった。例えばこのころ,米Top9.com(人気サイト・ランキング情報/検索ディレクトリ・サービスの会社)は,煩わしいポップアップ広告を多用するサイトに,AOL.com,Netscape.com,Real.com,ATT.netなどがあるとして問題提起していた(Top9.comの発表資料(注1)

注1:Top9.comが2001年2月時点で公表していたワースト1はAOL.comだった。ワースト2はNetscape.comで,この後に,Real.com,Jobsonline.com,Msnbc.com,CNN.com,Time.comと続いていた(掲載記事)。

 これらのサイトはいずれも,アクセスするとウインドウ前面に別のウインドウが現れ,広告を表示するという通常のポップアップ広告を採用した(大半のサイトは今でも採用している)。

 また2001年半ばになると,ウインドウの背面に別のウインドウを表示し,ユーザーが前面のウインドウを閉じたときに,目に触れるという“ポップアンダー”(または“ポップダウン”とも呼ばれる)広告が問題視されるようになった。特に物議をかもしたのは米New York Timesなどのサイトで表示されていたX10社という無名の監視カメラ・メーカーの広告。当時のWebサイト視聴率統計には,こうした広告も含めて統計を出すものがあった。そのため,この名もないカメラ・メーカーが米国のアクセス数ランキングで上位5位に入ってしまったのである(関連記事)。

■一度入ったら出られない“アリ地獄”にご用心!

 正攻法以外でアクセス数を稼ごうとする試みはほかにもある。例えば,有名サイトに似たドメイン名を取得し,サイトを立ち上げ,スペル・ミスをして間違えてアクセスしてくるユーザーを待ちかまえるという“アリ地獄”あるいは“食虫植物”のようなものもある。こうしたサイトにアクセスすると突如としてポップアップの集中攻撃に合ってしまう。

 またPassThisOn.comのように,ユーザーがサイトから立ち去ろうとすると(ウインドウを閉じるかほかのサイトに移動すると),突如としていくつものウインドウが現れる,というのもある。勝手にウインドウの大きさが変わり,パソコンの画面いっぱいに表示したり,好き放題に移動したり,ブラウザ・ソフトのダイアログ・ボックスでメッセージを出したり,マウス・クリックを求めたり,と非常に煩わしい。最終的には,ウインドウを閉じられなくなったり,ブラウザのほかのウインドウにも移動できなくなってしまうので,ブラウザあるいはパソコンを強制終了するはめになる(不用心にアクセスしないよう,くれぐれも注意していただきたい)。

■大人気の広告遮断ソフト

 こうした迷惑なポップアップ広告に対抗すべく開発が続けられているのが,Eearthlink社が提供しているような広告遮断ソフト(「広告フィルタ」とも言われる)である。こうしたソフトはそもそもバナー広告などWebページ中の広告を削除するためのツールとして1999年ごろに登場していた。当時の人気はそこそこなものに留まっていたのだが,ポップアップ広告の急増に伴い再び脚光を浴びるようになり,今や絶大な人気を誇っているのである。

 有名なところでは,InterMute社の「AdSubtract」,シェアウエアの「AdKiller」,Junkbuster社の「Internet Junkbuster Proxy」,Webwasher.comの「WebWasher」がある(注2)。なかでもWebWasherはすでに500万のユーザーを抱えているという。InterMute社は,「1年余りの間に50億のポップアップ/ポップアンダー/Flash広告を除去し,数テラバイトのトラフィックを解放した」と豪語しているほどだ。

注2:ブラウザ・ソフトの「Opera」や「Mozilla」にはポップアップ遮断機能が組み込まれている。また米Symantecの「Norton Internet Security」といったセキュリティ・ソフトでも同様の機能が提供されている(関連記事

 こうしたソフトが人気を博しているのはもちろん,前述のような煩わしい広告や迷惑行為から解放されたいというユーザーの願いがあるからである。また最近では,「ポップアップ広告がブラウザの表示速度を遅くする。そのためユーザーの作業に支障を来している」という問題も取り沙汰されている。米国では一般家庭の広帯域接続がそれほど普及していない(関連記事)。つまり大半がまだアナログ電話回線で接続している。こうした状況では,広告遮断ソフトの需要がますます高まるばかりである。

 なかには,「今後の広帯域接続の普及に伴い(ポップアップ広告に対する)不満も薄れていくのではないか」という意見もあるのだが,広告遮断ソフトの開発者側ではそうはみていないようだ。「広帯域接続が増えればそれに応じた広告が登場する。そうした広告は当然,広帯域を前提としたリッチなものになる」(WebWasher社広報担当のBerni Lorwald氏)というのだ。

■遮断ソフトに対抗するサーバー・ソフト

 さて,こういう状態が続くと,クライアント(広告主)からの収入に頼っているWebサイトのビジネス・モデルは崩壊することになる。そこで最近では,広告遮断ソフトに対抗すべく開発されたサーバー・ソフトが登場している。

 ドイツmediaBeam社の「AdKey」がそれ。このソフトは,すでにドイツのメッセージ・サービス・サイト,directBOXに導入されている。ユーザーが広告遮断ソフトを使っていることを検知すると,遮断機能を解除するよう,または広告なしの有料サイトにアクセスするよう促すメッセージを表示する(掲載記事)。このメッセージは,ブラウザの設定で画像の表示をオフにしているだけでも表示される。あくまでも「広告画像を見ない人は有料」を貫けるというわけだ。

■大手各社は自主規制へ,テレビ・コマーシャルの手法を踏襲?

 こうした状況のなか,Eearthlink社やiVillage社のようにポップアップ広告を排除するのではなく,directBOXのように遮断ソフトを排除するのでもない,新たな動きが出てきている。

 「ポップアップ広告を統制された秩序のあるものにしよう」というものである。これまでのような“のべつまくなく”をやめ,確固たる規定のもとで使っていこうというのだ。例えば,MSNは1人のユーザーに付き5日に1回表示するよう制限しているという。Yahoo!は特定のカテゴリやユーザーに絞って表示するという方針を示している。Terra Lycosも具体的な数値は出していないものの,ユーザー1人当たりに表示するポップアップを制限するという意向である。

 また,CBS SportsLineは20分に1回という方針をとっている。同社は,「きちんと管理・統制されれば(ポップアップは)効果的なものになる」とし,「そのためにはテレビ/ラジオ・コマーシャルのような手法を手本にする必要がある」と説明している。

 これについては,広告市場の調査会社,Dynamic Logic社のNick Nyhan社長も同意見のようだ。「一般的なユーザーが耐えられるポップアップ広告の数は1時間当たり3つ。テレビ・コマーシャルが1時間に15回なので,これは妥当な線だろう」(同氏)という。

 また同氏は次のようにも述べている。「人々に広告が見たいかとたずねれば,一般的には『ノー』という答えが返ってくる。しかし彼らに『広告とは適切なものなのか』とたずねてみるといい。“無料にはその代償が付きものである”ことを彼らが理解しているのがわかるだろう」(同氏)(掲載記事

 こうした大手サイトの意向,業界関係者の考え方が現時点での大方の方向性のようである。しかし,ポップアップ広告が存続するためには,こうしたことをきちんと守る業界の“確固たる方針”が必要になる,と筆者は考える。また悪質なサイトに対処する具体策も考えなければならない。

 これらを解決しない限り,遮断ソフトの需要は今後もますます高まっていくだろう。EarthLik社のように,ユーザーの不満を“うまく”ついて自社のプロモーションへと転換させる企業も現れる。

 はたして大手の自主規制だけでこの問題に対処できるのか,それとも当局による厳しい規制が必要となるのだろうか――。今後も注視していきたい。

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