2012年に入って、鉄道会社が車内での携帯電話通信に対応する事例が相次いでいる。携帯電話が登場した当初は、車内で突然着信音が鳴ったり、大きな声で通話する乗客が目立ち、鉄道会社はマナーの啓発に腐心してきた。地下線やトンネル内など、電波が届きにくく、もともと携帯電話が使えない場所への対応には、必ずしも積極的ではなかった。

 ところが、最近は方針を転換しつつある。1つの転機は、東京メトロ(東京地下鉄)が2012年中に全線で携帯電話を利用可能にすると発表したことだ(関連記事)。東京メトロの総路線距離は約195キロで、東西線の郊外部などを除いてほぼ全線が地下トンネルだ。東海道線で言えば、東京駅から静岡駅まで(約180キロ)に匹敵する路線が“圏内”になるインパクトは大きい。

 京王電鉄や東京急行電鉄、大阪市営地下鉄なども、同様にトンネル内での携帯電話対応を進めている。その動きをまとめた。

無線LAN方式の先駆は山形県のローカル私鉄

 列車内で途切れずに無線通信できるようにするには、路線全体を携帯電話の“圏内”にする以外に、車両内に無線LAN(Wi-Fi)アクセスポイントを設置する方式がある。この方式は、つくばエクスプレス(2005年~)や東海道新幹線(2009年~)が全線で運用している。

 実は、もっと早くに始めていた鉄道会社があると、ITpro編集部の先輩から教えられた。記事データベースをたどると、山形県を走る山形鉄道(フラワー長井線)が2003年に始めた列車内無線LAN接続サービス「ネットトレイン」が先駆けだったようだ。

 しかし、山形鉄道は2009年11月にサービスを終了した。もともと山形鉄道にはトンネル区間がほとんどない。当時に比べて携帯電話の通信品質が格段に向上したため、必要性が薄れたのだ。

 一方で、JR東日本の山手線(東京都)のように、最近になって新たに車内無線LANサービスを始めた事例もある(関連記事)。山手線にもトンネル区間はほとんどなく、携帯電話通信に支障はない。それでもJR東日本は、車内に限定して、位置・状況に応じた情報を配信する手段として、車内無線LANを選んだようだ。

どこにでも届く“世知辛さ”も

 なお、どの鉄道会社も「車内では着信音が鳴らないマナーモードに設定する」「車内での通話はしない」「優先席・おもいやりゾーンなどでは、医療機器に影響を与える恐れがあるため、電源を切る」ことを、マナーとして乗客に呼びかけている。

 小型・高機能のスマートフォン端末の普及によって、乗客が画面に集中しすぎることによる衝突・転落事故や、盗撮などの迷惑行為といった新たな問題も発生している。一人ひとりの心がけが重要だ。

 筆者のような古い人間は、今はアイドルグループ「AKB48」の総合プロデューサーとして知られる秋元康氏(関連記事)がかつて作詞した『ポケベルが鳴らなくて』(1993年)という歌を思い出してしまう。高層ビルや地下鉄の中で電波が届かないことを嘆くフレーズがあった。

 それが今や、地下鉄の中でも携帯電話の電波が届く。電話に出なくても、電子メールやLINE、Twitter、Facebookのチャットなどは届いてしまう。恋人たちにとってはすばらしい環境なのかもしれないが、筆者に届くのは、仕事関連の電話・メッセージばかりである…。