2009年春,東海道新幹線の東京-新大阪間で車内無線LANサービスが始まる(関連記事)。出張中のビジネスパーソンにとって,新幹線の車内はメール・チェックやWebのニュース・チェックなどをする格好の場所。もちろん,これまでも携帯電話やPHSのデータ通信を使ってメールやWebを見ることはできたが,通信状況は不安定でしかも通信速度もそれほど高くない。それに比べて,無線LANならば安定的で高速なネットワーク環境が期待できる。現時点でJR東海は採用する無線LAN方式を明らかにしていないが,IEEE 802.11b方式だとしても最大11Mビット/秒(理論値)。携帯電話やPHSよりも高速に通信できる。

 と,ここまで勝手に想像したところで,発表資料を見て驚いた。地上から車上(下り方向)の1車両当たりの通信速度が最大2Mビット/秒だと言うのだ。東海道新幹線は16両編成もあり,満席で約1300人もの乗客が乗れる。そのうち,インターネット接続する人が1割の130人で,全員が同時接続することはないとしても,実効速度は数十kビット/秒から100kビット/秒程度ではないかと予想される。ちなみに車上から地上(上り方向)は1車両当たり最大1Mビット/秒だ。

 6月下旬に事業の見直しを発表し,事業の継続性に黄信号が灯っているものの,航空機内の無線LAN接続サービス「コネクション・バイ・ボーイング」の1機当たりの下り速度は最大5Mビット/秒である。航空機は機種によって最大乗客数が異なるが,国際線ではだいたい300~400人だろうか。また現在,車内無線LAN接続のトライアル・サービスが続けられているつくばエクスプレスは,地上と列車の間は最大54Mビット/秒(理論値)のIEEE 802.11g方式を使用する。1300人で最大2Mビット/秒という新幹線は,どうしても見劣りしてしまうのだ。

 なぜ最大2Mビット/秒なのか。その点をJR東海に聞いてみると,「Webの閲覧やメールの送受信には問題ないと判断したため」という回答が返ってきた。だがよく聞いてみると,どうやら現状では最大2Mビット/秒が技術的に限界のようだ。

 2009年春といえば,今から3年近い歳月が流れる。3年後には携帯電話のデータ通信でも,下り最大3.6Mビット/秒でサービスが始まる「HSDPA(high speed downlink packet access)」が規格上の最大14.4Mビット/秒に高速化されるかもしれないし,下りで最大十数Mビット/秒を実現するといわれる「CDMA2000 1xEV-DO Rev.B」が実用化されているかもしれない。サービスが始まるころには,実は新幹線の車内LANは要らなかったなどということになりかねない。

 とはいえ新幹線の車内無線LANサービスが,線路沿いに張り巡らせた漏えい同軸ケーブル(LCX)を使う点は非常に魅力的。地上と車両の間の通信において,地上側のアンテナにLCXを使うのだ。これを使うことで,山間部やトンネル内でも安定的に通信できる。携帯電話がいくら高速化しても,この安定性にはかなわないだろう。

 もし新幹線のサービスが低料金で提供されれば,1車両当たり最大2Mビット/秒という“低速”でも,利用価値は結構あるかもしれない。期待感を持って見守っていきたい。