2009年3月14日に提供が始まった新幹線車内の無線LANインターネット接続サービス。N700系東海道新幹線の東京-新大阪間で,IEEE 802.11b/g方式の公衆無線LAN接続サービスを利用できるというものだ(関連記事)。今回,出張の帰りにN700系のぞみに乗車する機会を得たため,試しにこの新幹線インターネット接続サービスを利用してみた(写真1)。

 新幹線インターネットを利用できるのは,NTTコミュニケーションズの「ホットスポット」,NTTドコモの「Mzone」および「mopera U」,ソフトバンクテレコムの「BBモバイルポイント」,UQコミュニケーションズの「UQ Wi-Fi」のユーザーである。

 ただし,普段これらのサービスのユーザーでなくても,NTTコミュニケーションズの「ホットスポット 1DAY PASSPORT」(500円)を利用すれば,24時間はホットスポットのユーザーとなれる。しかも1DAY PASSPORTは,携帯電話とクレジットカード決済を使って購入できるので,出張時の新幹線車両内で急にパソコンを使ったインターネット接続の必要が生じたなどという場合には重宝する。

 筆者はBBモバイルポイントのユーザーであるため,今回はBBモバイルポイントで接続実験をしてみた(写真2)。

写真1●N700系新幹線で車内インターネット接続を実験
写真1●N700系新幹線で車内インターネット接続を実験
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写真2●SSIDは「mobilepoint」「0033」(ホットスポット)「UQ_Wi-Fi」「docomo」の四つが見える
写真2●SSIDは「mobilepoint」「0033」(ホットスポット)「UQ_Wi-Fi」「docomo」の四つが見える
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実効速度で800kビット/秒を記録

 IEEE 802.11g方式の理論上の最大速度は下り54Mビット/秒。ただし,新幹線インターネットの最大速度は1編成当たり下り2Mビット/秒だ。1車両ではなく1編成,つまり16両分でたったの2Mビット/秒である。これは,地上と車両の間の通信において,地上側のアンテナに線路沿いに張り巡らさられた「漏えい同軸ケーブル(LCX)」を使うからだ。2006年にそのことが発表された際には,満席で約1300人もの乗客が乗れる新幹線全体で2Mビット/秒というのはどうなのかと筆者は疑問に思った(関連記事)。このため今回は,快適なインターネット接続ができるかどうか,かなり懐疑的な思いを抱きながらの接続実験だった。

 ところが,京都から上り新幹線「のぞみ54号」(東京駅23時45分着)に乗り込み,すぐにネット接続を試してみると,意外にも快適な接続環境であるとの印象を持った。もちろん動画コンテンツなどの視聴は望むべくもないが,電子メールの受信やITpro程度のWebサイト閲覧では,ほとんどストレスを感じることがない。そのときに,インターネットの速度計測サイトで下り速度を測ってみると,その結果は実効速度820kビット/秒(写真3)。速度計測サイトには誤差がある可能性もあるが,意外なほどの快適さを裏付ける数値が記録されたのだ。

 また,LCXを使った通信にはHSPA(high speed packet access)など他のモバイル接続サービスにはない利点がある。トンネル内でも通信できることだ。ご存じの通り,新幹線にはトンネルが連続する区間がある。そのような区間でも,比較的安定したネット接続ができることを今回の実験で実感することができた。

 さらにN700系新幹線には電源環境が充実しているという良さもある。グリーン車は全席,普通車は窓際の席(車両の両端は全席)にコンセントが設けられているのだ(写真4)。最近のノートPCは,スペック値で10時間以上のバッテリ駆動時間をうたう機種も珍しくない。とはいえ,つい充電を忘れてしまうこともあるし,日帰り出張の帰りにはバッテリ残量が心細くなることもある。新幹線インターネット使用の有無にかかわらず,ノートPCを携行する出張時には,N700系の窓際席を予約するのが得策のようだ。

写真3●「goo スピードテスト」で実効速度820kビット/秒を記録
写真3●「goo スピードテスト」で実効速度820kビット/秒を記録
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写真4●普通車でも窓際の席の足下には電源コンセントが
写真4●普通車でも窓際の席の足下には電源コンセントが
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名古屋を過ぎたあたりから…

写真5●静岡あたりで再計測すると実効速度210kビット/秒にまで低下していた
写真5●静岡あたりで再計測すると実効速度210kビット/秒にまで低下していた
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 快適に使えていた新幹線インターネットだったが,名古屋を過ぎたころから徐々に実効速度が落ちていく感覚を味わった。静岡あたりで再度,速度計測サイトにアクセスしてみると,今度は実効210kビット/秒にまで低下していた(写真5)。

 これは場所による差というよりは,おそらく同時接続数の問題だろう。そこで,トイレに行くふりをして同一車両内の乗客数をすばやく数えてみると,ちょうど半分ぐらいの席が埋まっていた。他の車両の乗客数は分からないし,ネット接続を利用している人の割合も不明なため確実なことは言えないが,この程度の混み具合でも実効速度が200kビット/秒程度にまで落ちる場合があることが分かった。

 多くの席がビジネスパーソンで埋まる朝の下り新幹線や,乗車率が100%を超えるような帰省ラッシュの車中では,やはり快適なネット接続環境は望めない可能性が高い。「新幹線インターネットがあるから,ネットで調べ物をしながら企画書を車中で書き上げればいいや」などとタカをくくっていたら,ネット接続が遅くて十分な資料を参照できなかったなどという事態に陥るかもしれない。ビジネスパーソンの皆さんは,くれぐれもご注意を。