米Hewlett-Packard(HP)の臨時株主総会が米国時間3月19日に開かれた。この株主総会の議題は,すでに報道されているように米Compaq Computerとの合併の是非である。Compaq社も翌日の20日に臨時株主総会を開き同様の株主投票を行ったが,とりわけ,賛否をめぐって激しい戦いがあったHP社の投票結果が注目を集めている。

 HP社会長兼CEOのCarly Fiorina氏が率いる取締役会の合併提案に対して,HP社共同創業者一族が異議を唱えている。その代表はHP社の共同創業者の一人である故William Hewlett氏の長男で,HP社の役員も務めるWalter B. Hewlett氏である。

 この陣営には,同氏を含むHewlett家一族と,一族が設立した財団「William and Flora Hewlett Foundation」,さらにHP社のもう一人の共同創業者である故David Packard氏の一族が運営する財団「David and Lucile Packard Foundation」が加わっている。

 取締役会と共同創業者側が合併を巡って競っているのだ。ところが,この結果はすぐに発表されない。数週間先になるという。当日に結果が分かり,合併問題の方向性が定まると思っていた向きには,肩すかしをくった感じだろう。いったい,この投票はどうなっているのか。今回は,このHP-Compaqの合併問題を一連のニュースや米メディアの報道から追ってみよう。

■株主総会会場には反対派が多数来場

 投票結果はなぜ,すぐに分からないのか。まず株主投票は,株主総会に出席した株主による直接的な投票と,総会に出席しなかった株主による委任状による間接的な投票とがある。前者について,米CNET.News.comが株主総会会場で行った“入り口”調査の結果を報告している。それによると,「今から賛成票を投じてくる」という株主がいくらかはあったものの,大半が強い反対を表明したという。

 ただし多くが,その最大の理由として「レイオフと統合の困難さ」を挙げており,調査対象者のなかにはHP社やCompaq社の従業員が多く含まれていたようだ。「経営者は従業員の犠牲のもと自分の財産を増やすことを考えているだけ」とする意見も多く聞かれたという。なおCNET.News.comでは,賛否回答の具体的な数字や回答者中の従業員の割合は明らかにしていない(掲載記事)。

■賛否の拮抗と複雑な投票方法,あの米大統領選がよみがえる

 問題は後者の委任状(proxy card)の集計である。この委任状の集計に大変な手間がかかるというのだ。委任状には2種類がある。一つはHP社取締役会が株主に送った「白」のカードと共同創業者側が送った「緑」のカードである。株主が白と緑どちらのカードを第3者機関である米IVS Associatesに郵送して,自らの意志を示す。つまり,合併を提案している取締役会の「白」の委任状を送れば,それは合併賛成。合併に反対している共同創業者側の「緑」の委任状を送れば,それは合併反対の意思表示となるわけである。

 これだけなら白と緑の枚数を数えるだけで簡単なのだが,「株主が一度送った委任状を撤回できる」というルールがあって集計を面倒にしている。ある株主が例えば「緑」を送った後に「白」を送れば,その株主の票は「白」になるのだ。株主ごとに投票したのは1枚だけか,2枚だけかを確認して,2枚の場合は,どちらのカードが新しい日付で有効なのかを判定しなくてはならない。このチェック作業に大変な手間と時間がかかる。

 また集計は手作業で行われるため,双方が集計結果に異を唱えたり,集計のやり直しを求めることも考えられると言う専門家もある。なにやら,あのブッシュ-ゴアの大統領選挙を彷彿とさせるではないか。

■総額1億ドルを投じたし烈な多数派工作

 この,委任状送付後に反対票を投じられるという仕組みのために,投票締め切りの最後まで両陣営は多数派工作が繰り広げた。

 Hewlett氏を除く取締役会が合併の承認を得るには過半数以上の賛成票を獲得しなければならないのだが,この株主投票では,棄権票や投票されなかった票は無効となる。つまり取締役会側は投票された票の中で過半数以上をとればよいのである(詳細はHP社のQ&Aサイトに掲載している)。

 Hewlett氏側が所有するHP社株は全体の18%。米The Wall Street Journalによると,残りの82%の株式は,57%が機関投資家,25%が個人投資家の手元にある。つまり両陣営はこれらの株主に向けて運動を繰り広げてきたわけである。

 米New York Timesによると,全発行済株式(19億4000万株)のうち85%分が投票されると予測されていた(掲載記事:閲覧には登録が必要)。こうしたなかHewlett氏側は「22%の株式を所有する株主が反対票を投じる予定」と発表。これに対し取締役会側が「合併案を支持する機関投資家が所有する株式は,反対派のそれの約2倍にのぼる」と発表(発表資料)するなど,両者は激しいコメント合戦を繰り広げていた。これまで,両者は新聞広告や郵便,電話などを使って,し烈な多数派工作を行ってきたが,これら運動に使ったお金は両者合わせて1億ドルにもなると言われていた。

■「合併しない場合はFiorina氏が出ていくだけ」とHewlett氏

 果たして結果はどうなるのか。この株主投票は「接近戦であるため,どちらかあるいは双方が早々に勝利宣言を出す可能性がある」と言われていたが,その予測通りHP社会長兼CEOのCarly Fiorina氏が投票後さっそく“勝利宣言”している。

 一方のHewlett氏は同日「投票結果については,あまりに接戦すぎてまだ判定することはできない」とする声明を発表している。なお両者のこの声明は米CNET.Networksサイトのストリーミング・ビデオで観ることができる。

 取締役会側の主張は「合併によるさらなる価値の創出」である。「ハードウエアやソフトウエア分野でリーダー的地位を獲得し,儲かるサービス事業分野において,より効率よく米IBMに対抗できる組織を作る」(HP社取締役会)という(米InfoWorld掲載記事)。

 一方のHewlett氏は,「HP社が,主力事業であるプリンタとイメージング事業の35%を売却し,パソコンや低価格サーバーに注力しようとしている」(同氏)ことに懸念を抱いている(発表資料)。「ハイエンドのサーバー,サービス,イメージング&プリンティング事業に注力すべき」というのが同氏の考えである。

 さらにHewlett氏は,この計画が失敗した場合のFiorina氏の退任の可能性を示唆している。同氏は「(合併計画が失敗に終わっても)経営陣の大きな変更はない」とした上で,「株主が私に賛同し合併に反対するということは,それはおそらくFiorina氏が会社から出ていくこと」と述べている。(掲載記事

■「HP社にとってはもう合併しかない」とみるアナリスト

 米メディアによると,合併完了後の製品ラインについて,ユーザーやアナリストのあいだで波紋が広がっている。「両社には,パソコンやPCサーバー,ハンドヘルド機の分野で重複事業が相当ある」というのがその懸念材料である。また両社のUNIXである「HP-UX」あるいは「Tru64」が突如消滅することを危惧する声も聞かれるという(掲載記事)。

 その一方で,「合併すれば,競争力を高められる可能性が広がると考えるアナリストが増えている」と伝えるメディアもある(掲載記事)。ただしそれは合併しなかった場合,「HP社はもたない」という意味合いであり,同社がもはや後戻りできない状態であることを指摘するもののようだ。

 HP社はこれまでイメージング&プリンティング事業とともにコンピューティング事業に資金を投じてきたが,「それももう(単独では)続けられそうにない。HP社はCompaq社なくして非凡な存在になれない」(米Forrester Researchインフラ調査部門ディレクタのCharles Rutstein氏)のだという。

 さらに合併が果たせなかった場合,「取締役会で分裂が生じるため,その統制が困難になる」とするアナリストもいる。その場合はHewlett氏に言うように,「Fiorina氏が同社を継続して率いていけるかという問題も出てくる」(米IDCハードウエア調査部門上級副社長のCrawford DelPrete氏)という。

 最終的に審判を下すのは株主投票の結果である。しばらくは,HP-Compaq合併問題のニュースが続くことだろう。今後も「US NEWS FLASH」では関連ニュースを取り上げていくつもりである。

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