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米Microsoftが変身,知的財産戦略の見直しで狙うもの

2003/12/12

 ここ最近,米Microsoftの動きに大きな変化が表れている。感謝祭の週が終わって最初に発表したのは,知的財産ライセンス供与の新たな計画(関連記事)である。これまで自社の知的財産についてかたくなに保護主義だった同社が,一転して方針を変えた。

 その趣旨は,「業界と協調していくこと,協力関係を構築することでIT産業の発展を促進する」ことだという。これまで同社は,ソース・コード開示プログラム「Shared Source」を実施していた。しかしそれは同社が認定した企業などに限られていた。今回の計画は「基本的にすべての企業に公平に開放する」(同社)というもので,これまでとは大きく異なる。

 これまでのイメージの払しょくを図るべく,突如“優等生”になった感があるMicrosoft社だが,同社は本当に変わったのだろうか。米New York Timesの記事は今回のライセンス計画を「侵略的独占主義者からの変ぼうぶりを示す」と表現しているが,その背景には何があるのだろうか。今回はこうした米メディアの情報を拾って,そのあたりを探ってみたい。

■体系化したライセンス制度

 Microsoft社は既に4000件の特許を取得しており,これに加え現在,5400件を申請中という。今回のプログラムはこれらのすべてを視野に入れたもので,その範囲などについては,これから作成するプログラムで順次定める予定。そして,その第1弾となるのが「ClearType(関連記事)」と「FAT(File Allocation Table,用語解説])」である。前者は液晶画面で文字品質を高めるフォント・レンダリング技術,後者はMS-DOSから採用しているファイル・システムだ。

 また同社は,ファイル形式/スキーマに関するライセンスも用意する。先ごろ発表したOffice 2003用XMLスキーマがこれに当たる(関連記事)。さらに,標準仕様技術に関するライセンス,商標,著作権をも対象に入れるという(Microsoft社サイトに掲載の資料)。

 ライセンスの形態はさまざまで,例えば学術機関や非営利団体に対しては,研究開発目的に限り,無償で提供する。一般の企業に対しては有償のプログラムを用意する。これまでのようなケース・バイ・ケースのモデルとは異なり,体系化した包括的なライセンス制度を設け,ライバル企業へのライセンス供与について話し合うのもやぶさかではないという。またそれよって,きちんと利益も得るという。

■欧州委員会とは無関係

 とは言っても,このライセンス・プログラムでは利益追求が目的ではなく,あくまでも業界の発展に寄与していく,というのがMicrosoft社の説明だ。同社は以前から他社からライセンス供与を要求されており,今回の計画はそうした業界の声に応えたものという。さらに同社は,欧州委員会が現在調査している独禁法違反の係争とは直接的な関係や意図はないとも説明している。

 しかし,同社には欧州委員会との係争によって厳しい“ペナルティー”を課せられる可能性があることも事実である。同委員会では,Microsoft社が米Sun Microsystemsや米Novellなど,他のサーバーOSベンダーに対して,技術情報を開示していないことが問題としている。こうしたベンダーは製品の相互接続性を確保するため,Microsoft社からの技術情報が必要だからだ。

 Microsoft社によれば,今回のライセンス・プログラムは,ある部分で欧州委員会の要求に応える形とはなったが,それは結果的なものに過ぎないという。Microsoft社の上級副社長であるBrad Smith氏は,「競合企業や(米国の)政府機関が我々の進むべき道について働きかけてきており,今回打ち出したプログラムはその方向性と合致している」と説明する(washingtonpost.comの記事)。

 米国の司法省/州政府と和解に至った同社だが,ここ最近,競合企業から「Microsoft社はいまだ和解条件に準じていない」といった非難の声がある。New York Timesの記事によると,今回のライセンス計画は明らかに,こうした非難をかわす役割を果たすという(掲載記事)。

■IBMに28年務めたベテランを雇い入れる

 いずれにしても,Microsoft社の同プログラムへの取り組みはかなり真剣なもののようである。今回の報道で,メディアにたびたび登場する知的財産部門副社長兼副相談役のMarshall Phelps氏は,Microsoft社が今年6月に雇い入れた人物。同氏は,米IBMに28年間在籍し,IBM社の知的財産/ライセンス部門の副社長を務めていた(Microsoft社サイトに掲載の関連資料)。

 同社が今後どの程度の規模でライセンス事業を展開していくのかは未知数ではある。しかしメディアの多くは,Microsoft社のこの計画を評価している。いわく,「ハイテク業界のトレンドを認識し,他社を訴えるのでなく,ライセンス供与すべきことを悟った」「Microsoft社は,業界,政府,教育機関に技術供与することに価値を見いだした」「リーダーシップとしての役割をもっと担うことが必要と認識するまでに成熟した」――(siliconvalley.com掲載記事)。

 Phelps氏によれば,数十年前に米Bell研究所やIBM社が特許を広くライセンス供与したことで,今やハードウエアの業界では,特許のクロス・ライセンスは一般的となっている,しかしこうした慣行はソフトウエア業界では1990年代半ばまで定着しなかったという。Microsoft社も後ればせながら,ようやく仲間入りを果たし,今後は,米Intel,IBM社,米HP(Hewlett-Packard),富士通といった先人のライセンス・モデルを学びながら,自社のモデルを作っていくという。とりわけWebサービスに関する技術については無償供与を多くして,IT業界の発展に寄与したいとしている。

■生態系を拡大し続けるMicrosoft

 しかし,こうした取り組みは「Microsoft社にとって,業界との関係修復以上にメリットがある」とみるアナリストもいる。例えば前述のNew York Timesの記事によると,ファイル・システムのFATはデジタル・カメラに利用できる。こうしたWindowsの要素技術を広くライセンス供与していけば,いずれ市場における同社の地位は強固になる。これについて米IDCアナリストのAl Gillen氏は,「Microsoft社の技術を導入する製品が増えれば増えるほど,Windowsの生態系が大きくなる」と説明している。

 11月に来日したCEOのSteve Ballmer氏は,ひたすら社会貢献活動に奔走したという。わすか4日間の日程だったがこの間,早稲田大学への人材育成支援策(発表資料),高齢者・障害者支援策(発表資料),小中学校などにIT機器/ソフトを無償提供する団体への支援(発表資料),中小企業支援策(発表資料)を発表した。

 いずれも直接的にビジネスには結びつかない行動で,同社にとってこうしたCEOの来日はかつて例がないという。これには,欧州を中心に世界中の政府や自治体に広がるLinuxへの脅威,Windowsを標的にしたウイルスや訴訟問題によるイメージの悪化を払しょくするのが狙いと言われている。

 Ballmer氏は来日時に「(Microsoft社は)業界リーダーとしての責任を果たす」と述べた。もはや業界から独り離れ,非協力的な態度を取ってはいられないというわけだ。

 こうしてみるとMicrosoft社は大きく変わった。即時的には大きな利益に結びつかないことも積極的にやるまでに成熟した。これは間違いないようである。しかし,そうした変化で今後もたられるものは,やはりMicrosoft生態系の拡大なのだろうか。

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