写真=古浦 敏行

 マイクロソフトのWebブラウザ「Internet Explorer(IE)」を巡る特許紛争に対して、インターネット関連技術の標準化団体、Wide Web Consortium(W3C)は「インターネット・コミュニティ全体に関わる問題」として積極的に関与する姿勢を見せている(関連記事)。米マサチューセッツ工科大学の主任研究員で、W3Cの特許ポリシー策定責任者を務めるダニエル・J.・ワイツナー氏(写真)に、W3Cの特許方針と、IE特許問題への対応を聞いた。

――W3Cは、これまでも特許紛争に悩まされてきたと聞いている。
 我々は、Webの基盤技術が誰にでも無償で提供されるべきだと考える。今年の5月に、W3Cはすべての標準をロイヤルティ・フリーとすることに決めた。今回の(IEの特許紛争)問題では、その信念が試されている。

 ロイヤルティ・フリー方針の決定までには様々な議論があった。中でも「Voice XML」の標準化過程では、特許のライセンスを巡って激しいやりとりが交わされた。規格策定に参加する企業は、自らの特許を無償で提供する必要がある。ところが米ルーセント・テクノロジーズが特許の無償提供に同意しなかったため、Voice XMLのバージョン1.0の策定作業は途中でとん座した。最終的にはルーセントの特許を除外する形でバージョン2.0を策定した。

 こうした抵抗があるにもかかわらず我々がロイヤルティ・フリーを選んだのは、それが最終的に産業のためにもなると考えるからだ。誰にでも無料の標準技術があれば、企業はその上で安心してビジネスを続けることができる。その証拠に、米ヒューレット・パッカードなどの会員企業はロイヤルティ・フリーの方針を強力に支持している。

 我々が聖人君子だから、ロイヤルティ・フリーを選択したという理解は大きな間違いだ。これはビジネスの問題なのである。

――マイクロソフトは既に上告を決めている。なぜ、同社に任せておかないのか。
 上級審が結審するまでにはあと2~3年かかる。我々としても、それまで手をこまねいている訳にはいかない。そこで、W3Cは米特許商標局にオーラスの特許の再審査を申請した。中立性を重視するW3Cが特定企業を擁護するのは極めて異例だが、今回ばかりはやむを得ない。

 オーラスは現在のところマイクロソフトだけにライセンス料の支払いを求めている。しかし、特許自体は、NetscapeであれOperaであれ、ほとんどのWebブラウザに関わるものだ。最悪の場合、W3CがHTMLの規格自体を書き換える必要が出てくる。そうなって欲しくはない。

(聞き手は、本間 純=日経コンピュータ