米マイクロソフトは10月6日、来年初頭にInternet Explorerを改変すると発表した。Macromedia FlashやJavaを使って動的コンテンツを表示するWebページのほとんどが、修整を迫られる。企業が使うWebベースの業務ソフトも影響を避けられない。米マクロメディア、W3Cなども対策に乗り出した。

図1●特許回避措置の影響範囲は広大
Internet Explorer改変の影響で、Macromedia Flashなど動的コンテンツを含むWebサイトが修整を迫られる
図2●Flashコンテンツを読み込むたびにダイアログを表示する
左下は通常のIE6で表示した「BizTech」のページ。Macromedia Flashで制作したバナー広告が上と右下にある。右上が「IE6 SP1b」で表示したもの。FlashコンテンツがあるたびにWebページの読み込みを停止してダイアログを表示する
図3●米マクロメディアが提案するWebページの修整方法
動きのあるコンテンツを表示するために使っている<OBJECT>などのタグを、Javaスクリプトに置き換える。コンテンツの表示を制御する部分を、Webブラウザの外に置くことで問題を回避する

 今年8月、米イリノイ州連邦地方裁判所は、米マイクロソフト製WebブラウザのInternet Explorer(IE)が、米カリフォルニア大からスピンアウトしたベンチャー企業である米オーラス・テクノロジーズの特許「5838906」を侵害していると裁定した。マイクロソフトは引き続き上級審で争う考えだが、一方で「問題を確実に回避するため」(日本法人)、IEの改変を決定した。すでに、開発者向けのWebサイトでベータ版「IE6 SP1b」を配布している。

 今回の改変は、最近話題のセキュリティ・パッチなどよりも格段に影響が大きい。企業/個人や社内/社外の区別なく、動きのあるコンテンツを使っている世界中のWebサイトで修整が必要になるからだ(図1[拡大表示])。社内のWebアプリケーションも影響を受ける。もちろん、マイクロソフトがオーラスと和解してIEの改変を見送る可能性もあるが、現時点では徹底抗戦の構えを見せている。当面、IE改変の方針を覆す可能性は低い。

使い勝手は大幅に悪化

 改変後のIEは、Flashなどの動的コンテンツがあるたびにWebページの読み込みを停止し、確認ダイアログを表示する(図2[拡大表示])。そのつど「Enter」ボタンを押せばWebページを閲覧できるが、使い勝手は格段に悪くなる。マイクロソフトの意図は別として、ユーザーの立場からは“改悪”と言うしかない。

 オーラスの特許は、Webブラウザに組み込んだ再生ソフトを使い、動的なコンテンツを“自動的に”表示する技術に関するもの。改変後のIEは、これを回避するためユーザーにキー入力を要求する。マイクロソフトの説明によると、ActiveXコントロール、あるいはプラグインを使って動的コンテンツを表示するWebページのほとんどが、IE改変の影響を受ける。これにはFlashのほか、Acrobat Reader、QuickTime、RealOne Player、Windows Mediaが含まれる。Webページ中に表示するJavaアプレットも同様である。

 ユーザーは、IEをアップデートせずに現行バージョンを使い続けるか、NetscapeやOperaといったIE以外のWebブラウザを使うことで、この問題を回避できる。しかし、Webサイトを運営する企業や情報システム部門が、ユーザーにこれらのブラウザの使用を強制することは難しい。問題を根本的に回避するには、改変後のIEでもダイアログが表示されないように、Webページを書き換える必要が出てくる。

大手ソフト会社が対策に乗り出す

 この事態に対して、大手ソフト会社はさっそく対策に動き始めた。

 米マクロメディアは、すでに同社のサイトでWebページの修整方法を公開している。これによると、IEのわずらわしいダイアログ表示は、以下のような方法で回避できる(図3[拡大表示])。現在、ほとんどのWebページは、HTMLの中に<APPLET>、<EMBED>、<OB JECT>といったタグを記述することで、動的コンテンツをWebページ中に表示している。これらのタグを、Javaスクリプトのコードに置き換えればよい。HTML内に記述したJavaスクリプトから、別途保存しておいたコンテンツ再生用のJavaスクリプト・ファイルを起動する形になる。マクロメディアは、上記の方法でHTMLを修整するツールを近く配布する予定である。

 このほか、日本IBMはWebオーサリング・ツール「ホームページ・ビルダー」の仕様変更について検討を開始した。Webアプリケーション・サーバーの大手、日本BEAシステムズは「現時点で詳細は決められないが、IEが改変されれば、我が社の製品も修整せざるを得ない」(広報担当者)としている。米サン・マイクロシステムズも、Javaアプレットを含むWebページの修整について、近く技術情報の公開を始める予定だ。

 今回の特許問題が、IEの改変だけで終わらない可能性もある。Web関連技術の標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)は「マイクロソフトだけでなく、インターネット・コミュニティ全体にかかわる重大な問題」ととらえており、HTML自体の仕様変更を含めた対策を検討し始めた。マイクロソフト、マクロメディアなどと協議する一方、公開のメーリング・リストを開設して、技術情報の収集に乗り出している。

(本間 純)