東日本巨大地震が発生したのが3月11日(金)であったにもかかわらず、一部企業は11日夜から週末にかけて積極的に被害状況を発信し、顧客の不安の解消に努めた。そのほかの大手ITベンダーも2営業日後の15日までには、状況を報告。東北方面を中心に生産活動が止まっていることなどが明らかになった。
今回の東日本巨大地震は、事前に想定されたネットワークや電話回線網への被害にとどまらず、電力の供給不安や、物流活動の停滞をも広範囲に引き起こした。建物が無事だった東京圏においても、計画停電や交通機関の運行削減、物流の停滞、さらには福島第1原発事故に伴う二次災害不安などで、企業活動に深刻な影響を及ぼしつつある。特に電力供給などの影響の長期化に注意を払う必要がある。
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NTTは当日から、大手ITベンダーも15日までに報告
NTT東日本やNTTコミュニケーションズは、発生当日の11日から自社サイトで被害状況を数時間おきに公表した。コンピュータ機器に標準時刻を送信する情報通信研究機構(NICT)も12日に一部施設の稼働停止を知らせた。NEC、日立製作所、富士通などからも、2営業日後の15日までには工場などの被害状況報告の第一報が出そろい、東北方面で工場が稼働停止していることなどが明らかになった。
地震の直撃を受けた宮城県仙台市に本社を置くグレープシティは、停電などでサービス業務が停止する事態に陥ったものの、関東支社がいち早くTwitterにアカウントを取得して状況報告を行っている。これは中堅中小ベンダーの緊急対応例として参考になるだろう。
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物流や部品生産でも影響大
IT業界以外でも大きな被害が出ている。ネット通販大手のアマゾン ジャパンは千葉県市川市の物流センターがダメージを受けたために「お急ぎ便」などのサービスを停止したほか、「北海道、東北および関東地方の一部へのサービスはしばらく提供できない」と発表した。
アマゾンに限らず、ネット通販会社各社はサービスレベルの保証ができなくなっていると見られる。宅配便各社によれば、東北方面や茨城県などの被災地域で配送が停止しているほか、関東圏でも配送が遅延している。
また、全社生産高の約10%を担う工場を茨城県に持つ半導体大手、米テキサス・インスツルメンツ(TI)は「大きな損傷が発生した。元通りの出荷体制になるのは9月」と発表した。
一方、幸いなことに全国銀行協会(全銀協)の全銀システムには影響は出なかった。
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計画停電などへの対応迫られる
3月13日夜に急きょ東京電力から発表された計画停電に伴い、データセンター各社も、非常用電源の確保についての状況確認と、情報発信を迫られた。少なくとも大手センターは問題なく稼働している模様だ。
計画停電に伴い、都内の業務継続体制にも大きな影響が生じている。交通機関の運行削減が実施され、通勤の足も不安定になっているためだ。
こうした交通事情や余震、福島第1原発のトラブル長期化などの影響を受け、SAPジャパンは業務や社員の一部を関西に一時的に移し、東京圏にとどまる社員には在宅勤務を推奨した。関西への一部業務移管を公表したベンダーは珍しいが、在宅勤務を社員に推奨しているベンダーは少なくないと見られる。
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生産移管などの検討進むも、タブレット端末などの部材供給に懸念
今後も震災に直撃された工場の生産体制の立て直しに向けて、対策検討が続く。富士通はPCサーバー製造を福島県から石川県の工場に、デスクトップPC製造についても福島県から島根県の工場に一時的に移管する方針を発表した。
今後、判明してくる可能性が高いのは、各種製品への部材供給状況だ。米調査会社IHS iSuppliは日本製部品の工場や物流トラブルにより、米Appleの新型タブレット端末「iPad 2」の生産に影響が出ると予想している。
幸い通信機器向けチップを手がける米クアルコムやCPU大手の米インテルは、自社製品の供給への影響は軽微としているが、今後もこうした発表に注意を向けていく必要がある。
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電力不足や列車運行削減で企業・社会活動に長期的影響も
東北圏の一部では鉄道網の再建に数カ月以上を要する可能性がある。関東圏でも東京電力が計画停電の長期化を示唆していることから、列車の運行削減が長期化する可能性がある。企業に対して節電を求める声が社会的にますます高まる可能性も高い。
既に対外的なイベントやマーケティング活動は中止や延期が相次いでいる。マイクロソフトはIE9日本語版の公開と記念イベントを延期した。情報処理技術者試験も延期されている。大手ITベンダーは採用活動についても、延期を表明している。 マーケティング担当者、採用担当者などは対外的活動の再開に向けて今後も難しい判断を迫られるだろう。国内企業の生産性が低下する心配があるほか、消費者心理が冷え込む可能性を指摘する声も調査会社から出ている。