Windows分野における2006年最大のニュースは,米MicrosoftのBill Gates氏が引退を表明し,Chief Software Architect(CSA)の座をRay Ozzie氏に譲ったことである。ここ数年のMicrosoftの不調は明らかで,Windows Vistaの開発は幾度も遅れ,インターネット広告やコンテンツ配信などの成長市場でも,米Googleや米Appleの独走を許した。Gates氏の引退によって,Microsoftは過去と決別できるのだろうか。困難に満ちた同社の2006年を振り返ろう。
Gates氏の引退は「けじめ」
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写真1:MicrosoftのBill Gates会長 |
なぜなら,「Windows Vistaの開発遅れ」の責任は,突き詰めればCSAとしてソフトウエア開発を統括したGates氏にあるからだ。Gates氏は2000年1月にChief Executive Officer(CEO:最高経営責任者)の座をSteve Ballmer氏に譲り,CSAの職務に専念しだした。丁度そのころから,Windowsの開発が迷走するようになった。迷走の象徴が,11月8日(米国時間)に開発が完了し,RTM(Release To Manufacturing)となったWindows Vistaである。Windows Vistaには開発に至るまで,様々な紆余曲折があった。
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Windows開発責任者が「Macを買う」と方針変更に必死の嘆願
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写真2:MicrosoftのJim Allchin共同社長 |
Allchin氏はMicrosoftの「Windows Vista Team Blog」でこのメールが本物であることを認め(独占禁止法訴訟の過程で公開されたという),「(Windowsの)開発プロセスを劇的に変化させるために,あえてMacを買うというような表現をした」と語っている。そして,Allchin氏の大胆な嘆願によって,2004年夏の「Windows Vistaの開発方針変更」が実現したのだという。
つまりこういうことだ。Microsoftは2003年11月のソフトウエア開発者会議「PDC 2003」で,次期OS「Longhorn」(開発コード名,現在のWindows Vista)に関する非常に大がかりな構想を明らかにした。Longhornには,(1)既存API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)「Win32」を置き換える新API「WinFX」,(2)新しい画面描画機能「Avalon」,(3)Webサービスの通信基盤「Indigo」,(4)SQL Serverをベースにしたストレージ管理システム「WinFS」,(5)ハードウエアと連携してセキュリティを強化する「Next Generation Secure Computing Base(NGSCB)」,(6)新シェル「Aero」---を搭載すると発表したのだ。
しかし,Allchin氏を筆頭とするWindowsの開発現場は,PDC 2003での発表の直後から,「Longhorn構想は不可能」と判断していたようだ。その証拠が,先に紹介したAllchin氏が2004年2月に送信した「Macを買うだろう」というメールだ。Allchin氏は過激な表現を使ってGates氏やBallmer氏を説得し,Longhornのスケール・ダウンを実現したわけだ。
Microsoftは2004年6月23日(米国時間)にLonghornへのWinFSの搭載を断念すると発表し(関連記事:米Microsoft,「WinFS」の単独製品化をあきらめ,他製品に搭載へ),2004年8月27日(米国時間)にはWinFX(現在の.NET Framework 3.0)をWindows XPとWindows Server 2003にも提供すると発表した(関連記事:米Microsoft,「次期Windows『Longhorn』の広範なリリースは2006年をめどに」)。その後,2005年4月の「WinHEC 2005」で,Win32からWinFXへの移行の断念や,セキュリティ機能であるNGSCB搭載の断念なども明らかにされた。
このように大がかりな「Longhorn構想」は,公表から半年で挫折したわけだが,その大本の責任が,同社のCSAであるBill Gates氏にあることは明らかである。Gates氏を断念させたAllchin氏が,Windows Vistaの完成をもってMicrosoftを退任することや,Gates氏がWindows Vistaの完成前に引退を表明したことは,「けじめ」であるように思えてならない。
年末商戦に間に合わなかったWindows Vista
当初の構想に比べて大幅にスケール・ダウンしたWindows Vistaであったが,それでも開発は難航した。Microsoftは2006年3月21日(米国時間)に,Windows Vistaの出荷が2006年の年末商戦に間に合わなくなることを明らかにし,パソコン業界をガッカリさせた。実際に2006年下半期は,Windows Vistaをにらんだ消費者のパソコン買い控えが発生し,「10月の『WPC Tokyo』以降,パソコンがぱったり売れなくなりつつある」(マイクロソフト)という。
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写真3:Windows Vistaの画面ショット [画像のクリックで拡大表示] |
- Windows Vistaの出荷延期,RTMは10月25日の予定
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- 「XP搭載パソコンを買うなら年末商戦が最後のチャンス」とマイクロソフト
MicrosoftがリリースしたWindows Vistaの評価版のデキが今ひとつだったことも,ユーザーを不安にさせた。ITproのWindows分野で,2006年最も読まれた記事は「現時点で判明した「Windows Vistaの欠点」を暴く」という,Windows Vistaの「ビルド5308」と「ビルド5342」をベースに,Windows Vistaの使いづらい点などを指摘した記事だった。ただし,2006年夏にリリースされたRC1(Release Candidate 1,製品候補版1)はかなり安定するようになり,ユーザーを安心させた。Windows分野で2番目に多く読まれた記事は「Windows Vista RC1レビュー(第1回)--5つの素晴らしい機能」であった。