[画像のクリックで拡大表示]

 「憤りを感じる」「寝耳に水」「考え得る最悪のシナリオになった」——。米マイクロソフトがWindows Vistaの発売延期を発表したことで、パソコン業界には混乱が広がっている。2006年年末商戦の目玉になるとされていたWindows Vistaの登場が2007年にずれ込めば、新製品の売れ行きへの影響が懸念される。各メーカーとも、担当者は対応におおわらわだ。

 これまで、パソコンへのプリインストール用のWindows Vistaが、メーカーにリリースされるのは8月末とされていた。あるパソコンメーカーの担当者によれば、これが10月末に延期されたという。製品出荷までに動作検証などで2カ月ほどかかることを考えると「2006年内にWindows Vistaをプリインストールしたパソコンを出荷するのは、かなり難しい」(大手パソコンメーカーの製品担当者)。年末商戦の目玉にVistaパソコンを考えていたパソコンメーカー各社にとっては大きな痛手となる。「秋にVistaモデルの準備を進めてきたのに、計画が大きく狂ってしまう。販売台数にも影響があるだろう」(外資系メーカー幹部)。

 今年の夏モデルなどVista発売前に投入するWindows XP搭載パソコンでは、「Windows Vista Capable」というロゴを貼ることでVistaへの対応状況を示す予定だった。この計画も、一から検討する必要に迫られている。「Vista Capable」のロゴは、マイクロソフトが示したガイドラインにのっとったパソコンに付けられ、Vistaが動作するということを示したもの。アップグレードでVistaに対応できることをうたうことで、ユーザーの買い控えを防ぐというのが目的だ。各メーカーは夏モデルでCapable、秋冬モデルでVista対応、と製品を展開するつもりであったが、そのもくろみは大きく崩れたことになる。Vistaが遅れたことで、夏モデル、冬モデルと「Vista Capable PCが2回も登場することになってしまう」(外資系メーカー幹部)のだ。

 夏、秋冬と2商戦期でCapableを出すと、かえって買い控えを引き起こしてしまうのではないか、という声もパソコンメーカーのなかにはある。夏モデルのCapable対応は控えるべきではないか、という議論もなされているようだ。実は「Vista Capable」のスペック要件は、「メモリーを512MB以上を搭載」といった程度の制限しかない。「1年後のOSが本当に動くのかという点も含めて、どんなメリットがあるのかユーザーに伝えにくい」(大手メーカー幹部)という背景もある。

「Vistaの“ビ”の字も聞かれない」という声も

 一方で「Vistaの発売延期による影響はあまりない」という冷静な声も聞かれる。店頭では「お客さんからはVistaの“ビ”の字も聞かれない」(秋葉原の販売店店長)という。最近では、初心者層は少なくなり、新OSは少し待った方がいいのでは、と冷静な目で見る意識も広がっているという。確かにすぐに新OSを使うよりも、しばらくは慣れ親しんだWindows XPを使い続けるという選択肢もあるだろう。企業ユーザーでも、従来の環境がそのまま利用できることが重視される。最新のパソコンを買っても古いOSをインストールして使うケースも多い。「企業では、Vistaの登場後に検証が進んでいくだろう」(大手パソコンメーカー幹部)。

 年内ぎりぎりにVistaが出てくるよりも「発売が来年にずれ込むというマイクロソフトのリリースには、正直ほっとしている」(あるパソコンメーカー)という声もある。Windows Vistaのリリースが2006年末になった場合、2006年内にVista搭載の新モデルを出荷しなければならなくなる。そうなると、2006年の秋冬モデルが買い控えでまったく売れなくなる懸念がある。Windows Vistaが2007年にずれこむことになれば春モデルをVista搭載パソコンにして、2007年に入ってから出荷できる。秋冬モデルとの間が少し空けば、秋冬モデルの買い控えは抑えられる。「最近は商戦期の始まるタイミングが早くなっているが、Vistaの登場で商戦期のタイミングも正常に戻せる」というわけだ。

 メーカーの安堵は、新しいオフィスソフト「2007 Microsoft Office System」の投入時期にも関連している。以前は、新Officeの投入は、Vistaの登場よりも若干遅くなるという見方があった。その状態では、Vista搭載モデルでもOfficeは古いまま、というパソコンが投入される可能性もあった。「そんな中途半端な製品では売りにくい」(販売店の幹部)という声もある。現状で新Officeは2006年末に投入される予定。今回、Vistaが延期となったため、Vistaと新Officeを同時プレインストールするパソコンが初めから投入できるというわけだ。