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ニュース

ビル・ゲイツ氏引退の舞台裏

マイクロソフト日本法人元社長、古川享氏に聞く

2006/07/04 日経コンピュータ
元マイクロソフト社長の古川享氏
元マイクロソフト社長の古川享氏
[画像のクリックで拡大表示]

 米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長が、2年後に経営の第一線を退くと発表した。マイクロソフト日本法人の社長、会長を務め、ゲイツ氏とは20年以上の親交がある古川享氏は、その理由は「個人の時間を何のために使うかの優先順位の問題」だと語る。ただその背景には、スティーブ・バルマーCEOへ権限委譲が急速に進んだことで、ここ数年はゲイツ会長自身、マイクロソフトの将来の方向性を打ち出す立場にありながら、「開発リソースの配分や製品出荷の順番を決めるといった経営に直接関わるところまでは口出しできなくなってきた」こと、レイ・オジーをはじめとする後継者が育ってきたことなど、複雑な事情が絡んでいると打ち明ける。

——ゲイツ氏引退の本当の理由は何だと思うか。

 「個人の時間を何のために使うか」という優先順位の問題だ。福祉財団の活動に重点を置くというのは、その通りかもしれない。ただ、引退発表の裏側には二つの別の要素があると思う。

将来にかかわる方向性を打ち出しにくくなっていた

 一つは、ビル自身が、レイ・オジーになら自分の座っている場所を譲ってもいいと思ったこと。ビルの後任としてCSAに就いたオジーは、ビルが後継者となり得ると評価した初めての人間ではないだろうか。

 もう一つは、バルマーCEOに権限委譲を始めてから6年をかけて、ようやく各事業部門のトップクラスにビジネスの中核になる人間が育ってきたこと。「自分の役どころが一つ終わった」と思ったのかもしれない。

 ビルには、たしか12歳、6歳、3歳ぐらいの、3人の子供がいる。彼は、技術の話をしている時のものすごく真剣な顔と比べると、子供と遊んでいる時には別人のように幸せな顔をしている。引退の報を聞いて、「もう少し子供との時間を持ちたい、と思ったのも理由の一つかな」と思った。20数年の間、ああやってトップを走れば、もちろん疲れてもくる。50を過ぎたら、50を過ぎたなりの頑張り方がある。

——しかし、あえて引退する必要はない気もするが。

 それはとても複雑な問題だ。ビルはCSAとして、マイクロソフトの将来にかかわる方向性を自ら打ち出す立場にあった。しかし、予算や人事を掌握しているのはバルマーだ。開発リソースの充て方や製品出荷の順番などを決める場合、権限を委譲した人間はどうしても一定以上は踏み込めない。ビルでも、必ずしも思い通りにできなかったところがある。

 ただ、「権限委譲をしないほうがよかった」とは思わない。ビルも僕と同じで、特定の分野については思い入れがあってすごく集中するけれど、穴がある。権限を委譲しなければ、あれだけ大きくなったマイクロソフトの会社としての成長は止まっていたのではないか。

——グーグルに象徴されるように、インターネット・サービスが既存のソフトウエア・ビジネスを浸食し始めている。その中で、新しい時代のアーキテクトとしての役割を果たすのが無理だったことも、引退の理由の一つでは。

 確かに、無理だったのだと思う。ビルは、機能を集めて製品を作ってきた人。しかし今は、「人間の幸せとは何か」が本質的に問われる時代だ。幸せの定義が多様化するなかで、さまざまなインターネット・サービスが登場しているのだが、ビルはもともとサービスだとかを評価するタイプではないのだと思う。

 実際、ここ3年ぐらい、ビルがいろいろなところで話す基調講演はつまらなくなってきている。ピークは「Information at your fingertips」(1990年に発表)のころだろう。その後でも、 .NETとか、ともかくキーワード先行でも「未来はこうだ。こんな新しい世界が来る」と発言していたのに、最近はそれが全くなくなっている。ただ彼には、いろんな人間の意見を聞いた時に「この技術には脈がありそうだな」と見抜く力や、たとえその技術やビジネスの中に自分には理解できない部分があったとしても、いいものを持っている人間を直感的に見抜いて、「君に任せる」と全権を依頼して発奮させる力はもの凄い。そして、それを継続して追いかける力が凄い。

 もしかすると、マイクロソフトにいるビルの周囲の人間が、「あさっての話をするのではなく、今日、明日の話をしてほしい」などと押し付けているのかもしれない。ビルも、自分が情熱を持って進めていく事業とそうでないものを、どこかでメリハリをつけていたのではないか。

 ただ、かつてのマイクロソフト、現在のグーグルのように20代、30代の指導者でなければ、新しいアーキテクチャは生み出せないとは思わない。そもそもアーキテクチャは周期的に交代するものだ。今はWeb2.0などと言われてグーグルが話題になっているけれど、かつてDOSがWindowsに変わったことも、シングルユーザーのOSがマルチユーザーになったことも、マシンがスタンドアロンではなくサーバーと接続したり、ネットワークの中のバーチャルな資源を使えるようになったことも、僕から言わせれば皆同じ。こうした変化は極めて自然なことだ。

 しかし、時代に合わせて世の中の嗜好が変わったにもかかわらず、ビル・ゲイツなり、そのジェネレーションは、まだ前の時代から抜け出していない。ビルが好きなのはチェリーコーク、といった具合にね。マイクロソフトはこのまま変わらなければ終わってしまうだろう。

歩む方向を変えないと、崖が待っている

——変わるためには、どうすればいいと思うか。

 マイクロソフト、つまりパーソナル・コンピュータは、メインフレームという中央集権型のコンピュータを否定するところから登場した。中央集権から分散化へ。1社独占ではなくオープンに。自由に相互接続ができて、自由に競争ができる世界へ。Web2.0と対比していえば、“コンピュータ2.0”とでもいうべき時代を作ってきた。それが今はインターネットの世界に起こっているだけのことだ。

 ところが今、マイクロソフトは自身が権力の側に立ってしまっている。強い立場にいるがゆえに、昔の痛みを忘れてしまっている。それは、バルマーの下で実権を握った幹部、MBA上がりで実ビジネスの経験のないマネジャが心の通わないビジネスをしているせいかもしれない。

 今のマイクロソフトを見ていると恐竜を連想してしまう。自分の身体をコントロールしきれない。自分の足を踏んづけても、その痛みがなかなか伝わらない。それが現在のマイクロソフトの姿ではないか。例えばExcelやWordのファイル形式を独自フォーマットではなくXMLにと言いながらも、標準設定はどちらなのか。自社サーバー製品と他社のデータベースとの接続性はどうなのか。もっと違うやり方があるのでないかと思う。

 マイクロソフトが革新を起こすためには、小さい組織を作り、「Windowsを否定しても構わないから、新しいサービスを作れ」と、チャレンジさせなければならない。iPodはアップルというブランドを否定したが、それが事業拡大につながった。今のマイクロソフトにそれだけの度量があるだろうか。病んでいる部分を自ら手術できるのか。変わらなければいけないことは、歴史を見ても明らかだ。レミングの行進のように、歩む方向を変えないと、その先には崖が待っている。

(聞き手は服部 彩子=日経コンピュータ)

【修正履歴】
 タイトル,要約部分に関して誤解を招く部分がありましたので,「ビル・ゲイツはネット時代のアーキテクトにはなれなかった」とあったタイトルを修正し,本文の最初の2段落を差し替えました。また最初の小見出し「基調講演はここ3年,つまらなくなっていた」を「将来にかかわる方向性を打ち出しにくくなっていた」に修正し,「——グーグルに象徴されるように・・・」に対する回答の2段落目最後に文章を追記しました。
 なお,差し替え前の本文最初の2段落は下記の通りです。
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「ビル・ゲイツは、インターネットが牽引する新しい時代のアーキテクトにはなれな かった」。マイクロソフト日本法人の社長、会長を務めた古川享氏は、20年以上の親 交がある米マイクロソフトのゲイツ会長が「2年後に経営の第一線を退く」と発表した ことに関して、こんな見方を披露する。その背景には、後継者としてCSA(チーフ・ソ フトウエア・アーキテクト)に就いたレイ・オジー氏の存在、スティーブ・バルマー CEO(最高経営責任者)への権限委譲を急速に進めたこと、組織自体が“恐竜”となっ ていることなどが関係していると、同氏は指摘する。
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以上,ご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。(2006年7月6日)

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