米IBMは,単一分子のカーボン・ナノチューブで構成される発光素子を開発したと,米国時間5月1日に発表した。「同発光素子の大きさは世界最小。電気的に制御可能な素子を製造できたことは,分子デバイスの研究が急速に進んでいることの明かし」(IBM社)という。
同発光素子の詳細は,科学雑誌「Science」の5月2日号に掲載する。論文のタイトルは,「Induced Optical Emission from a Carbon Nanotube FET」。
カーボン・ナノチューブとは,炭素原子を直径数nmのチューブ状に結合させた分子で,その直径は人間の毛髪の5万分の1未満しかない。発光素子の開発に成功した効果について,同社の研究者らは,「ナノスケール電子工学/光素子分野でカーボン・ナノチューブの応用に向けた研究が活発になる」と評価する。
同社の開発した発光素子は,直径1.4nmのナノチューブ状単一分子。研究チームが波長1.5μmで発光することを確認した。同社では,「この波長は光通信で広く利用されており,特に利用価値の高い光」と説明する。「直径の異なるナノチューブは異なる波長の光を出すので,ほかの用途にも応用可能」(同社)
研究チームは3端子トランジスタ内部に同発光素子を組み込み,トランジスタのゲート部分に低電圧をかけて,ナノチューブの両端間(ソースとドレイン間)に電流を流した。これを同時二極性という性質を持つ素子上で行うことで,1つのカーボン・ナノチューブのソース電極に負電荷(電子)を,ドレイン電極に正電荷(ホール)を同時に注入できた。この電子とホールがナノチューブ内で出会うと,電荷が中和され発光したという。
この発光素子はトランジスタでもあるので,ゲートにかける電圧に応じてオンとオフを切り替えられる。「個々のナノチューブの発光を電気的に制御できることから,(ナノチューブのような)1次元素材の光物理的性質を詳しく調査できる」(同社)
IBM社の研究開発部門IBM Researchナノスケール科学担当マネージャのPhaedon Avouris氏は,「発光現象を利用してカーボン・ナノチューブの電気的特性をさらに理解することで,電気/光学的な応用に向けた開発を加速する」と述べる。「ナノチューブ発光素子は,つなぎ合わせたり,カーボン・ナノチューブやシリコン製電子部品に組み込んだりできるはずで,電子/光電子分野において新たな可能性を開く」(同氏)
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