米Lucent Technologiesの米Bell Labs(ベル研)は,ヒトデに似た海洋生物を参考にして,複雑なパターンを持つ方解石の単一結晶を直接形成する手法を開発した。Lucent Technologies社が米国時間2月21日に明らかにしたもの。将来光通信などに応用できる可能性があるという。

 結晶の大きさは約1mmで,10μm未満のパターンからなる構造を持つ。「将来この新手法は,さまざまな用途の結晶を形成する際の製造方法に革新をもたらす可能性がある。単一結晶にミクロン・スケール以下のパターンを作って光電子回路に組み込むことは,各種電子素子,センサー,光学素子において重要な構成要素となる」(Lucent Technologies社)

 ベル研の研究者らが研究対象とした生物は,クモヒトデ類(蛇尾類)と呼ばれる無脊椎の海洋生物。小さな円盤状の体から通常5本の細長い腕が伸びており,ヒトデやウニといった棘皮門に属する生物である。

 同研究所では2001年8月に,クモヒトデ類の“腕”表面の外骨格にある石灰と似た方解石の結晶が無指向性の光受容器として機能することを発見したと発表している(関連記事)。腕の骨はレンズのように光を収束させる球状の物体が連なった構造を持ち,レンズ表面からの焦点距離は5μm。骨のなかにある神経で光信号を検知できる。神経と数千ある方解石の結晶が組み合わさることで,体表面の広い部分が複眼として機能する。

 この方解石のマイクロ・レンズは,複屈折や球面収差(通常のレンズで発生する歪み)をうまく補正する構造を備える。この構造に模倣したレンズを作ることで,光通信機器向け部品や,LSI設計・製造のEUV(Extreme Ultra Violet:超紫外線)リソグラフィ技術といった分野で応用できるという。

 現在レンズの製造は一般的にトップ・ダウン方式で行っており,ガラスを削って目標の形に加工する。それに対しクモヒトデ類は,ボトム・アップ的手法で自分の小型レンズを形成している。この手法では,複雑なパターンを持つ“鋳型”に方解石を何層も沈着させ,海水の温度で完全な結晶レンズを作ることができる。

 ベル研物理科学研究担当上級副社長のCherry Murray氏は,「これは,“自然から学べる”ということを示す素晴らしい例だ」と述べる。「この例では,比較的単純な生物が光学および材料設計という非常に複雑な問題に対する解決策を持っている。クモヒトデ類を研究すれば,複雑な形を持つ単一結晶を低温かつ低コストで形成する方法を手に入れられる」(同氏)

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