「コンピューティングと通信の機能を統合するシリコン技術は,ムーアの法則による恩恵の及ぶ範囲を無線/光通信分野などに広げる」。米Intel,CTO(最高技術責任者)のPat Gelsinger氏と同社上級副社長のSunlin Chou氏は米国時間9月12日に,カリフォルニア州サンノゼで開催中のIntel Developer Forum(IDF), Fall 2002の講演で述べたもの。

 両氏は「当社はシリコン・ナノテクノロジの研究を進めることで,ムーアの法則の寿命を延ばす」と語った。なおムーアの法則とは,Intel社の創設者の1人であるGordon Moore氏が唱えた「集積回路におけるトランジスタの密度は,2年ごとに2倍になる」という経験則である。

 講演のなかでGelsinger氏は,Intel社が研究している以下の3つの技術を紹介した。

・シリコン無線機:
 同社の低消費電力CMOS製造プロセスを用い,LSIに無線通信機能を組み込む。数年後に実用化し,さまざまなLSIで無線通信の利用を可能とする。

・シリコンによる光通信:
 Gelsinger氏はシリコン光学を利用した波長可変レーザーのデモンストレーションを行った。同氏は,「この研究は,デジタル機能とシリコンベースの光電子素子を単一LSIに統合できる高密度集積素子の構築に,ムーアの法則を適用しようとするものだ」と説明する。「低コストのシリコン製ビルディング・ブロックと素子技術を組み合わせ,光通信ネットワークのコストを劇的に下げることが最終目標」(Intel社)

・センサー・ネット:
 同社は,演算/通信機能を持つ低コストなシリコン製センサーを組み合わせて“センサー・ネット”と呼ぶ無線ネットワークを構築し,メイン州のグレート・ダック島で実施試験を開始した。同島ではIntel社の研究所とアトランティック大学が,センサー・ネットを使って島の環境を研究している。各センサーは温度/湿度/気圧/赤外線センサーを備えており,研究者は現地に入ることなく野生動物や環境を監視できる。計測したデータは衛星回線を通じてインターネットに送信されるので,情報はリアルタイムに入手可能。「センサー・ネット技術を使うと,人間が現地で調査を行う場合よりも,環境破壊の程度を低く抑えてデータ収集できるようになる」(同社)

 またIntel社は,新たなシリコン技術,材料,素子の構造に関する研究/開発も行っているという。「超紫外線(EUV)リソグラフィー,トランジスタのゲートの新しい誘電物質,新型のトランジスタの構造や,2003年に当社の90nmプロセスに導入する予定のストレインド・シリコンと呼ばれる電子の移動度を高める技術などで,ムーアの法則を延命できる」(同社)

 Chou氏によると,同社は10年以内に生産を開始する計画のテラヘルツ・トランジスタ研究プロジェクトの一部で,非平面のトリプル・ゲートCMOSトランジスタ(“トリゲート・トランジスタ”)を検討している。同トランジスタは3次元構造を採ることで,トランジスタのゲート面積を広げることができ,性能向上とより高速なプロセサの実現に寄与するという。

 さらにChou氏は,「当社の研究者らは,カーボン・ナノチューブやシリコン・ナノワイヤなど長期的なナノテクノロジ研究プロジェクトを,大学と共同で進めている」と語った。ただし同社は,コンピュータ用素子としてのナノチューブやナノワイヤの実用化には10年以上かかるとみている。

◎関連記事
「ムーアの法則を新分野に適用し“夢”のデバイス実現を目指す」,米インテルがIDFで講演
「ムーアの法則を継続する」,米Intelが消費電力と発熱を抑える新たなトランジスタ構造を発表
米AMDがゲート長10nmのダブルゲートFinFETを開発,「集積度は現行トランジスタの10倍に」
米HPが欧州にて分子エレクトロニクスに関する画期的な研究成果を発表
米IBMが記録密度1Tビット/インチ2が可能な新たな記録方式を発表,「“ナノテク”版パンチ・カード」
米IBMが新たなカーボン・ナノチューブ製トランジスタを開発,「最適化前でも現行のトランジスタの性能を上回る」
米ベル研,単独で動作する分子サイズ有機トランジスタを作成,「低コスト,クリンルームなしで製造が可能」
「2015年までに1兆円規模になるナノテクノロジ市場,急成長を遂げるのは材料分野」――米調査

[発表資料へ]