米Advanced Micro Devices(AMD)はダブルゲート・トランジスタの製造に成功したと米国時間9月10日,発表した。トランジスタのゲート長は10nm(100億分の1m)。これは「現時点で大量生産可能の最も小さいトランジスタの6分の1」(AMD社)という。製造には,現在の標準的な技術を流用できるという。

 「現行のトランジスタなら1億個しか集積できない面積に,当社の新トランジスタなら10億個集積できる。これにより,LSIの性能を飛躍的に向上できる」(AMD社)

 ダブルゲート・トランジスタは,ゲートを二つ備える構造を持つ。ゲートが一つしかないトランジスタに比べ,内部を流れる電流の量を2倍に増やせる。さらにFin Field Effect Transistor(FinFET)と呼ぶ設計により,薄いシリコンの「fin(ひれ)」を設け,トランジスタがオフ状態にあるときの漏れ電流の量を抑える。同社は,「この二つの設計を組み合わせることで,高性能の新型LSIを小さな面積で作ることが可能になる」と説明する。

 「FinFET型のトランジスタにより,現在LSI業界が利用している要素技術インフラそのままで,極めて高性能の製品の供給を継続できる」(AMD社技術開発担当副社長のCraig Sander氏)

 同社の研究所では,カリフォルニア大学バークレー校および米Semiconductor Researchと共同で研究を進め,10nmサイズのCMOS FinFETの開発を行った。同トランジスタの製造は,AMD社のサブミクロン開発センターが担当した。

 「優れた漏れ電流制御特性を示すことから,FinFETは,将来のナノスケールCMOS世代における有望株の一つといえる。今後10年以内に,大量生産が実現できるだろう」(カリフォルニア大学バークレー校電子工学およびコンピュータ科学科助教授のTsu-Jae King氏)

 なおAMD社とカリフォルニア大学は,同トランジスタに関する研究成果を"FinFET Scaling to 10 nm Gate Length"と題する論文にまとめ,2002年12月9日から11日にかけてカリフォルニア州サンフランシスコで開催されるInternational Electron Devices Meetingで発表する予定。

◎関連記事
米IBMが新たなカーボン・ナノチューブ製トランジスタを開発,「最適化前でも現行のトランジスタの性能を上回る」
米IBMが記録密度1Tビット/インチ2が可能な新たな記録方式を発表,「“ナノテク”版パンチ・カード」
「ムーアの法則を超える!」,米IBMが単一分子でコンピュータ論理回路“NOTゲート”を実現
米HPとUCLAが分子エレクトロニクスの特許を取得,「“分子”を論理回路用のデバイスとして利用する」
米ベル研,単独で動作する分子サイズ有機トランジスタを作成,「低コスト,クリンルームなしで製造が可能」
米ベル研,分子サイズの有機トランジスタで電子回路を作成,集積度は数千倍に
「20GHzで10億トランジスタのMPUが可能」,米インテルが次世代技術を開発
「2015年までに1兆円規模になるナノテクノロジ市場,急成長を遂げるのは材料分野」――米調査

[発表資料へ]