米IBMがスイスのチューリッヒで,1平方インチに1Tビットのデータを記録可能な新しいデータ記録方式のデモンストレーションを行った。IBM社が現地時間6月11日に明らかにしたもの。「Millipede(節足動物の“ヤスデ”)」と名付けられた同社の研究プロジェクトが試作品を作成し,実際にデータの読み書きが可能なことを示した。

 「この記録密度は,現在最も高密度な磁気記録方式の20倍以上あり,2500万ページの文書を切手大の領域に記録できる」(同社)

 記録には磁気や電気的な手法を使わず,ナノメートル(100万分の1mm)サイズの“カンチレバー”と薄いフィルムを利用する。カンチレバーでフィルムに1つ“くぼみ”を作ることで,1ビットの情報を表現する。同社はこれを「110年以上前に開発されたパンチ・カードの“ナノテク”版」と表現している。「ただしMillipedeは,パンチ・カードと異なりデータの書き換えが可能」(IBM社)

 カンチレバーの大きさは,厚さ0.5μm,長さ70μm。先端には,フィルム面に向けて長さ2μmの針のような部材が取り付けられている。この先端部は,データの記録時に摂氏400度に加熱されてフィルムに接触し,フィルムに直径10nmのくぼみを作る。一方読み出し時には,先端部が摂氏300度に加熱されてフィルムに接触する。くぼみに触れると先端部の温度が下がることから,データの有無を判断できる。

 データを書き換える際には,まずくぼみの周囲に加熱した先端部を何回か接触させることでデータを消去し,その後新しいデータを書き込む。10万回以上の書き込み/書き換えが可能という。

 カンチレバーは縦横方向に移動でき,1本のカンチレバーが100μm四方の領域の記録を処理する。Millipedeプロジェクトが作成した試作品では,3mm四方の領域に1024本のカンチレバーを配置している。この試作品で達成した記録密度は,1平方インチ当り200Gビット。3mm四方の記憶容量に換算すると,約0.5Gバイトとなる。同プロジェクトは2002年初頭までに,7mm四方を超えるサイズで4000本以上のカンチレバーが同時に動作する新たな試作品を作成するという。

 Millipedeの概念図や動作を示すアニメーションなどは,IBM社のWWWサイトに掲載している。

 「フラッシュ・メモリーの記憶容量は,1Gバイトから2Gバイトが当面の限界といわれている。Millipedeでは,10Gバイトから15Gバイトのデータを同じサイズに記録できる。しかも,電力消費量は少ない」(同社)

 データの転送速度は,1Mbpsから2Mbpsが可能という。消費電力はデータ転送速度によって異なるが,100mW程度になると同社はみている。

 「現在の記録技術は原理的限界に近づきつつある。それに対し,Millipedeはその1000倍の記録密度を実現できる可能性を持っている」(IBM社Millipedeプロジェクト担当者のGerd Binnig氏)

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