米Lucent Technologiesの米Bell Labs(ベル研究所)の研究グループが,単独で動作する単一分子サイズのチャネル長を持つトランジスタを開発した。Lucent社が米国時間11月8日に明らかにしたもので,10月に発表した分子サイズの有機トランジスタの研究をさらに推し進めたもの。

 ベル研は,チオールと呼ばれる炭素化合物(炭素,水素,硫黄からなる)半導体材料を使い,従来のシリコン・トランジスタと同等の性能を持ち,単独で動作する分子サイズのトランジスタの作成に成功した。

 このトランジスタは,大きさがナノメートル程度(10億分の1メートル)しかないことから“ナノトランジスタ”と呼ぶ。大きさはわずか10億分の1メートル四方で,ピンの頭に約1000万個も乗せることができ,「従来のトランジスタの1/10以下の大きさ」(ベル研)だという。

 同研究グループは,10月に単一分子サイズのチャネル長を持つトランジスタを発表しているが,このときのトランジスタは,格子状に配列した数千個の分子が連携して動作するものであった。今回発表した分子サイズのトランジスタは,一つひとつを独立して制御できる点で「大きな進歩」(ベル研)であるといえる。

 ナノトランジスタを作成する上での大きな問題は,わずか分子数個分の間隔の電極を作り,そこに微小なデバイスを接続することにある。ベル研の研究者は,自己組織化手法を使い,この問題を解決した。

 「極めて微小な分子に(トランジスタ用の)3つの電極を接続することは現実的には不可能だ。分子自身が電極を“探して接続する”ことでこの問題を解決した」(ベル研同研究グループ化学者のZhenan Bao氏)。

 自己組織化手法には比較的簡単でコスト安という特長に加え,従来のシリコン製の半導体と異なり,製造にクリンルームを必要としないという長所がある。

 「この研究成果は,高度な製造手法を使わずに,単一分子トランジスタを実現できることを示している」(ベル研同研究グループ物理学者のHendrik Schon氏)。

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