米IBMが米国時間5月20日に,「現時点で最高の性能」(IBM社)のカーボン・ナノチューブ製トランジスタを開発したことを明らかにした。「この成果はカーボン・ナノチューブ製トランジスタが今日の最先端シリコン製トランジスタよりも高速なことを示す」(同社)という。

 同トランジスタの詳細は,科学雑誌「Applied Physics Letters」の5月20日号に掲載された。タイトルは,「Vertical Scaling of Carbon Nanotube Field-Effect Transistors Using Top Gate Electrodes」である。

 カーボン・ナノチューブとは,炭素原子を直径数nmのチューブ状に結合させた分子で,その直径は人間の毛髪の5万分の1未満しかない。IBM社の研究者はこの分子を使い,現在の「金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)」と似た構造の「単一壁カーボン・ナノチューブ電界効果トランジスタ(CNFET)」を作成した。このCNFETは,ゲート電極と伝導チャネルを薄い誘電体で分離した点に特徴がある。

 電気的特性を計測したところ,急峻(きゅうしゅん)なサブスレッショールド・スロープ,低電圧時における高い相互コンダクタンスなど,優れた性能を示したという。「以前発表したCNFETでは,シリコン製ウエーハを使い,ゲートと厚いゲート誘電体を構成していた。今回のCNFETは,それよりもはるかに性能が向上した」(IBM社)

 一般的にトランジスタの性能は,酸化膜(誘電体の部分)が薄く,チャネル長が短いほど高くなる。IBM社が開発したナノチューブ・トランジスタは最適化を行っていないにもかかわらず,すでにシリコン製トランジスタの性能を上回っているという。「今後の研究でゲート長とゲートの酸化膜の厚さを減らせば,CNFETの性能はシリコン製トランジスタを劇的に上回るようになるはずだ」(IBM社)

 さらにIBM社は,p型およびn型の両方のタイプのトランジスタを作成することに成功している。また,今回発表したトランジスタは,各トランジスタのゲートを独立して設けることができるので,簡単な構成で消費電力の少ないCMOS回路を生成することが可能になるという。

 「シリコン製LSIはやがて,“もうこれ以上小さく作り込めない”という段階に入る。カーボン・ナノチューブはすでにシリコンに代わる最有力候補となっている。(シリコンの)物理的限界は,10年から15年後に訪れるだろう」(IBM Researchナノスケール・サイエンス・マネージャのPhaedon Avouris氏)

 なおIBM社は,2001年4月に,カーボン・ナノチューブを使ったトランジスタの列を「世界で初めて」(IBM社)形成したと発表した。2001年8月には,単一のナノチューブで論理回路の合成に成功したことも明らかにしている。

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