IBMのナノチューブを利用した論理回路米IBMは米国時間8月26日に,研究チームがカーボン・ナノチューブを利用したコンピュータ論理回路の開発に成功したことを明らかにした。

 「単一分子によるコンピューター回路を世界ではじめて開発した」(IBM社)。ちなみに,インターネット版ウォールストリート・ジャーナルによると研究に携わったPhaedon Avouris氏は,「現在のシリコンを用いたトランジスタ技術の物理的限界(ムーアの法則の物理的限界)は10~15年後にやってくる」とみているという(関連記事)。

 カーボン・ナノチューブは炭素分子で構成された,直径数nm(人間の毛髪の10万分の1)と細い円筒状の物質。IBM社は米国時間4月27日に,カーボン・ナノチューブでトランジスタの列を形成したことを明らかにしている。シリコンを用いたトランジスタに比べて1/500というサイズ。IBM社の新技術は,これまで不可能とされていたナノチューブ・トランジスタの大量形成を可能にするものだった。

 研究チームは今回,このナノチューブ・トランジスタを使って回路を作った。小型で高速,消費電力の少ない,新しいコンピュータへと導く研究という。「今回の発表は,カーボン・ナノチューブを使った微小電子デバイスの開発で今年2度目となる大きなブレイクスルー」(IBM社)。

 具体的には,カーボン・ナノチューブから電圧インバータ(voltage inverter)回路(NOTゲート)を作ることに成功した。電圧インバータは,今日のコンピュータの基本となる三つの基本論理回路(NOTゲート,ANDゲート,ORゲート)の一つ。単一分子(single-molecule)の論理回路を形成したのは「世界で初めて」(IBM社)。

電気特性NOTゲートなお電圧インバーター通常,異なる電子特性を持つ二つのタイプのトランジスタ(n型とp型)で構成しており,これまでのカーボン・ナノチューブ・トランジスタはp型だけだった。しかしp型ナノチューブ・トランジスタでは研究には適しているもののロジックを実行できるコンピュータ回路を製作するのには不十分だった。研究チームは真空の環境でp型トランジスタを加熱することで,n型トランジスタに変換できることを発見したという。またトランジスタを空気にさらすことでp型トランジスタに戻すこともできることも可能という。

 さらにナノチューブ全体ではなく,単一のp型ナノチューブの一部だけを選んでn型に転換し,残りの部分をp型のままにしておくという方法も発見したという。単一分子の論理回路はこの手法を使って形成した。

 またこの研究で重要なことは,「出力信号が入力信号より強くなる「利得」(増幅)現象が起こること」と同社は説明する。IBM社のナノチューブ回路の利得は1.6であることから,今後より複雑な回路も1本のナノチューブを使って構成できるという。

 なおIBM社はこの技術をシカゴで開催されている全米化学会(American Chemical Society)の第222回総会「National Meeting」で発表する。

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