米IBM Almaden Research Centerが,従来のコンピュータでは解くことが難しかった問題に対して高速に回答を出す量子コンピュータを開発した。IBM社が米国時間8月15日に,スタンフォード大学で開かれたIEEE主催のHot Chips 2000 Conferenceで発表したもの。「世界で最も進んだ量子コンピュータ」(IBM社)としている。

 「量子コンピュータはMooreの法則が成り立たなくなる時代,すなわち回路の設計寸法が原子や分子のサイズにまで小さくなる2020年ころのコンピュータである。基本回路は原子や分子から成る」(IBM ResearchとStanford大学,Calgary大学の研究者で構成された研究チームを率いるIBM社のIsaac L. Chuang氏)。

 量子コンピュータは,原子または原子核の量子物理学的性質を利用する。「量子ビット(Quantum Bit,またはqubit)」を用いて計算を行う。量子ビットは現在のコンピュータの「ビット」に相当する基本単位である。

 今回開発した量子コンピュータでは5量子ビットを使って計算を行った。フッ素原子核のスピンが他と相互作用して量子ビットを形成する。ラジオ周波数のパルスを使ってプログラムし,核磁気共鳴測定装置と類似の装置を使って計算結果を検出した。

 Chuang氏のチームの開発した量子コンピュータは,現在のコンピュータでは最大4ステップの繰り返し演算が必要な数学的問題を,ワンステップで解くことができたという。今回解いた問題は「順番検出(order-finding)」と呼ばれるもの。暗号などのアプリケーションに適用できる。

 実用的な量子コンピュータの実現はまだ先の話である。開発した量子コンピュータは5量子ビットで構成しているが,実用に際しては数ダースの量子ビットが必要になるという。「しかし,今回の結果は可能性を示唆したものだ。これからの研究に勇気を与える」(IBM社)。

 Chuang氏は,「量子コンピュータは当初,特殊な数学的問題の解を求めるコプロセサとして使われるだろう。データベース検索などにも使える。ワードプロセサやWWWサーフィンには向かないが・・・」と語っている。

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