米Hewlett-Packard(HP)の科学者が現地時間9月9日に,スウェーデン王立技術研究所で開催されたシンポジウムにて分子エレクトロニクスに関する画期的な研究成果を発表した。同社の「量子科学研究所(Quantum Science Research Laboratories)」の責任者であるR. Stanley Williams氏は,彼の研究グループが次の3つを達成したと述べた。

・現在報告されている中で,最も集積密度が高い電子的にアドレス可能なメモリーを作成した。実験室でデモを行った回路は,能動素子として分子スイッチを使った64ビット・メモリー。面積は平方ミクロン内に収まり,人間の髪の毛1本の太さに,この回路が1000個以上が収まる。デバイスのビット密度は,今日のシリコンのメモリー・チップの10倍を越える。

・初めて,書き込み可能で不揮発性の分子スイッチ・デバイスを使ってメモリーと分子ロジックの両方を組み合わせた。

・ナノインプリント・リソグラフィと呼ばれる高度な製造システムを用いて回路を組み立てた。本質的にこれは印刷方式で,回路のウェハ全体を高速かつ安価にマスターから型抜きした。

 「分子エレクトロニクスは,シリコンの限界を越え,将来のコンピュータ技術を押し上げるものだと信じている。従来のシリコンに分子スイッチ・デバイスを重ねることにより,基盤となる技術に複雑で高度な変更を加える必要なく,容量とパフォーマンスを格段に拡張できる」(同氏)。

 回路は,同社が特許を取得した格子構造に分子スイッチを組み込んで製造した。まず,研究者たちは幅40ナノメタの8本の並行線の原型金型を作った。そして次の3つの工程を経て組み立てた。

1.シリコン・ウェハ上のポリマー層に型を押し付け,東西方向に8本の溝を作る。そこに白金金属を流してワイヤを作る
2.表面に電子的にスイッチ可能な分子の単一層を付着させる
3.第1の段階を繰り返し,型を90度回転して分子層の上に南北方向に8本のワイヤを作る

 上と下のワイヤーが交差する64カ所のそれぞれで,およそ1000の分子が挟まれ,1ビットのメモリーになる。ビットは,分子の電気抵抗をセットするために電圧パルスを使って書くことができ, 低電圧時に抵抗を測定することで読むことができる。

 「光と電子ビーム・リソグラフィを組み合わせて使うことにより,マスターを作るのにおよそ1日かかった。これは,通信できるように従来のワイヤーに625個の別々のメモリーがつながっている。そのあと,インプリントを作るのには,数分しかかからなかった」(同氏)。

 また,このメモリーは,書き換え可能で不揮発性であることも証明された。つまり,電圧が無くなった後も情報を格納する。DRAMチップにこの機能はない。また,研究者は,分子スイッチの接点がデマルチプレクサになるように設定して,同一の回路にロジックを乗せた。

「これは,分子ロジックとメモリーが同一のナノスケールの回路上で動作することをはじめて実証したものである」(同氏)。

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