米Microsoftと米司法当局の反トラスト法(米独占禁止法)違反訴訟で,Microsoft社と米司法省はそれぞれ米国時間11月2日に,両者が進めていた和解交渉が合意に達したことを明らかにした。同時に司法省は,この和解案の内容について明らかにした。

 これについて,Microsoft社会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクトのBill Gates氏は,「この和解は公正で正当であり,また,最も重要なことは消費者や経済に貢献するということである」,などとするコメントを出した。

 「この和解は我々のビジネスに厳しい規制を課すものだが,この訴訟を今解決することが,顧客やハイテク業界全体,そして経済にとって適切なことだと考えている」(同氏)

 一方,司法省は,「この和解によりMicrosoft社の違法行為を止める。また将来における同様の行為の再発も防止し,ソフトウエア市場における競争を回復させる」とし,これらを次のような是正措置で実現すると説明している。

・独立系ソフトウエア・ベンダー(ISV:Independent Software Vendor)がMicrosoft社製ミドルウエア製品と,機能ベースで競合できる製品を開発できるようにし,ISVのビジネス機会を創出する。

・コンピュータ・メーカーが,Microsoft社と競合するソフトウエア開発者と柔軟に契約できるようにする。また,これらソフトウエア開発者のミドルウエア製品をMicrosoft社製OSとともに提供できるようにする。

・競合するミドルウエア製品を採用する,コンピュータ・メーカーやソフトウエア開発者などに対する報復を禁止する。

・この和解案の内容に従って,技術紛争に関する問題を速やかに解決する。

 なお,この和解案は,Jackson連邦地裁判事が2000年6月にMicrosoft社の2社分割命令を下した際に言い渡した同意判決(Final Judgment)にならって作成したものである。ただし,「コンピュータ業界は現在も変動しており,今後もさらなる変動が予想されることから,内容の追加/修正を行った」(司法省)。その理由として司法省は,Microsoft社がWindows XPをリリースしたことや,2001年6月に連邦高裁が,連邦地裁の判決を覆しMicrosoft社の違法性についての事実認定を一部再修正したことを挙げている。

 両者が今回合意した和解案では,“ミドルウエア製品”に関して広範な定義を行っている。すなわち,「Microsoft社のOSが“独占”となる恐れがある,すべての技術」(司法省)という。WWWブラウザや,電子メール・クライアント,メディア・プレーヤ,インスタント・メッセージングといったソフトウエアのほか「将来開発される新たなミドルウエア製品」も対象にしている。

 また,これらミドルウエア製品に使われるインタフェースをソフトウエア開発者に公開することも義務づけている。これにより,ソフトウエア開発者がOSに統合された機能をエミュレートできるようにし,Microsoft社のOSと互換性をもつ競合製品を開発できるようにする。

 このほか,サーバー・プロトコルを公開し,他社製サーバー・ソフトがWindows上で動作できるようにすることや,コンピュータ・メーカーに対して均一なライセンス契約を提供することなどが盛り込まれている。Microsoft社の知的財産については,「コンピュータ・メーカーやソフトウエア開発者に対して,今回の和解案に記載されている彼らの権利の行使に必要となる,すべての知的財産をライセンス供与すること」と定めている。

 なお,これらの是正措置をMicrosoft社が順守しているかを監視する委員会を設置することも規定している。委員会は独立した3人のコンピュータ専門家で構成し,オンサイト/フルタイムで是正措置の実施を援助していく。この3人はMicrosoft社の会計/組織に関する記録のほか,ソース・コードも閲覧できる立場にある。

 この和解案による是正措置は,5年間実施する。ただし,この期間にMicrosoft社による複数の違反が裁判所によって認られた場合,さらに2年間延長する。

 なお,この和解案は今後連邦地裁判事による最終承認が必要となる。また,司法省とともに原告団に加わっている18州の司法当局は,現時点ではまだこれに同意していない。

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[米司法省の発表資料]
[米Microsoftの発表資料]