「業績はいいのだが、手放しでは喜べない。我々営業部隊の提案活動が実って、多くの商談を獲得できたわけではないからだ」。2006年度決算で増収増益を達成したあるITベンダーの営業部長は本音を漏らす。
2006 年度決算では多くのソリューションプロバイダが2けた成長を達成した。好業績に大きく貢献したのは、「不採算案件の撲滅」「選別受注」「経営管理の強化」といった“堅実な守り”だ。システム需要が拡大する中、ソリューションプロバイダ各社は、「新規案件の獲得」よりも「危ない案件からいかに逃げるか」に力を注ぐ。あるITベンダーの中堅クラスの営業担当者は「上司やSE陣営から『わざわざ危険な案件を持ってくるな』と言われることが増え、営業という仕事の面白みを感じることができなくなってきた」とこぼす。
守り重視で物足りない存在に
ITベンダーは、好況の波に乗っている。社内の営業担当者の士気が下がっていようが、問題にするところは少ない。ところが肝心のユーザー企業のCIOは、昨今のITベンダーの守り重視の姿勢に対し、不満を募らせているのだ。
「ソリューションプロバイダを標榜するのなら、我々ユーザーと一緒にリスクを負う覚悟を持ち、新しくて難しいテーマに挑む気概を持つべきだ」(日本マクドナルドの前田信一執行役員インフラシステム本部長)。これは、今回インタビューした先進ユーザー企業8社のCIOに共通する意見。ITベンダーの営業担当者だけでは手に負えない要求である。
だからといって、営業担当者は他人のせいにはできない。「本来なら勝ち取れた“はず”の新規顧客やチャレンジングな案件を断っているだけ」と開き直っていたら、さらにまずい。日興シティグループ証券の池原進常務執行役員情報システム本部長・CIOは、こう語る。「ソリューションプロバイダの営業担当者には、新しいITサービスの在り方や提供形態について提案してほしい。そこで得られるメリットやリスクを共有してこそパートナーというものだ」。
挑戦的な取り組みに参加してほしい
図1●ソリューションプロバイダとの関係を見直した/見直す理由 [画像のクリックで拡大表示] |
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図2● ソリューションプロバイダの提案活動で欠けていると思うもの(有効回答116社) [画像のクリックで拡大表示] |
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図3● 提案内容以外の点で、ソリューションプロバイダの選択基準として重視するもの(有効回答116社) [画像のクリックで拡大表示] |
「インフラの抜本的な見直しなど挑戦的な取り組みの意義を理解し、具現化してくれるパートナーを求めた」結果、ソリューションプロバイダを変更することにした。そんな回答が複数存在したのである(図1)。つまり、CIOはIT投資でこれまでにない成果を生み出すために、リスクを共有してでもチャレンジしてくれるパートナーを求め始めたわけだ。
また、CIOがソリューションプロバイダの提案活動に欠けているものとして多く挙げたのが、「コスト削減策や投資対効果の提示といったコスト意識の高さ」と「システム面だけでなく、ビジネスへの効果・影響にも言及したプレゼンテーション」(図2)。確かにユーザー企業に対して、投資対効果やIT化によるビジネス効果を語ったりするのは、ソリューションプロバイダにとって勇気がいる。「カネ」に関する約束事は最もセンシティブであり、軽率にユーザー企業にコミットすることなどできない。それをできるようにするには、「ITベンダーが他人行儀をやめて、もう一歩ユーザー企業側に踏み込むべき」(キリンビールの佐藤一博副社長)である。
もちろん、CIOはソリューションプロバイダに対して「ユーザーの所属業界や業務に対する知識と理解」や「自社を担当する営業/技術者の能力や人間性」など、以前と変わらぬ普遍的な要求も出している(図3)。こうした力を蓄えた上で、挑戦意欲にあふれた存在。そんなソリューションプロバイダをCIOたちは探している。CIOの本音に耳を傾けてみよう。
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