今,インターネット電話「Skype」が話題になっている。読者の中で使ってみようと思っている方もいるだろう。Skypeは,IP電話と異なり,パソコン上のソフトウエアで音声通信するというもの。これまでも,インスタント・メッセージング・ソフトなどでこうした機能を持つものもあったが,音質や操作性の面からあまり評価されていなかったのが実情だ。

 しかしSkypeの場合,「音質が電話以上」「複雑な設定が一切いらない」など評判が高い。これに加え,最近Skypeから一般の固定電話や携帯電話に発信できる機能「SkypeOut」が加わり,もはやパソコンだけの電話ではなくなった(関連記事)。その料金は「IP電話の1/15」と言われ,ますます注目を浴びている。

■固定電話ではBBフォンに負ける

 今回はSkypeを日本国内で利用する場合のメリットについて考えてみたい。というのも同サービスは,ルクセンブルクのSkype Technologiesが同社のWebサイトで無償配布するソフトを用いる。世界中のユーザーがこのソフトをダウンロードして利用している。現時点でのダウンロード数は1820万9460という。日本国内はIP電話によって遠距離でも安い電話を使えるようになったが,果たしてSkypeを日本で使う料金メリットがあるのか気になる。

 Skypeでは「Skype Global Rate」と呼ぶ各国共通レートと,それに入らない国別料金を設定している(Skype Technologies社の資料)。前者は米国,英国,フランス,カナダなど22カ国で適用され,料金は一律1分0.017ユーロ(約2.27円)である。日本はこの共通レートではなく国別料金が適用される。固定電話への通話の場合,1分0.027ユーロ(約3.61円)だ。これを日本のサービスと比べてみよう。

グラフ1●国内で3分間の通話料金 昼間の税込み価格

 例えば,NTT東西の市内通話料金は税込みで3分8.925円。格安と言われるソフトバンクのBBフォンの場合は,同7.875円。Skypeの1分3.61円を3分にすると10.83円になるので,国内固定へ発信する場合はBBフォンの方が安い(グラフ1)。ただし,Skypeは1分単位で課金するので,2分までの短い会話ならSkypeの方が得ということになる。

 一方で,国内の携帯電話にかけたときのSkypeの料金は,1分0.157ユーロ(約21.1円)で,BBフォンの同26.25円(8:00~23:00)より安くなる。しかし,今年4月に導入された事業者識別番号(0036や0039など)を使って固定電話からNTTドコモ/auにかけた場合は,これよりも安くなる。ただし,ボーダフォン/ツーカーにかけた場合はSkypeの方が安い(グラフ1)。

 少し複雑になってきたので簡単にまとめてみると,次のようになる。

◇相手が固定電話の場合
 ・市内 (1)BBフォン,(2)NTT東西,(3)Skype
 ・市外 (1)BBフォン,(2)Skype,(3)NTT東西
 ※ただし,2分以下の短い通話の場合はSkypeが最安

◇相手が携帯電話の場合
 ・NTTドコモ/au (1)NTT東西,(2)Skype,(3)BBフォン
 ・ボーダフォン  (1)Skype,(2)NTT東西,(3)BBフォン
  /ツーカー

 こうしてみると,Skypeはそこそこのメリットしかないようだ。ただしSkypeには月額の固定利用料などがいらないことや,パソコン間の通信は無料ということを考えると十分使えると言える。また,まだBBフォンのようなIP電話を利用しておらず,市外通話が多い人であれば利用価値は高いだろう。

■海外への発信で本領発揮

 国内での通話はそこそこの感じがするSkypeだが,実は同サービスが本領を発揮するのは海外に発信する場合である。グラフ2は,海外に1分かけたときの料金をSkypeとBBフォンとで比べたもの。BBフォンの米国向け料金は1分2.5円と安いが,Skypeではさらに安く設定されている。

 また見てよく分かるのは,BBフォンがわずか数円と格安なのは,米国に限定されているという点。カナダ,英国,フランス,オーストラリアになると10円台~数十円台に上がっていく。対するSkypeの,この5カ国への料金はSkype Global Rateによって一律の0.017ユーロ(約2.27円)。しかも米国とカナダでは,携帯電話との通話にもこの料金が適用される。

グラフ2●海外に1分かけたときの料金

 隣国の韓国や,ビジネスで国際通話が増えている中国,そしてまもなく始まるオリンピックの開催地アテネとの通話の際もSkypeの場合,1分わずか数円で済むことが分かる。ちなみに,おもしろいことにギリシャとの通話料金である0.027ユーロ(3.61円)は,Skypeの日本国内の通話料金と同じ。インターネットを使ったサービスでは,距離の差はあまり意味がないのだ。

 それを明確に示しているのが,Skypeの料金表。実はこの料金表は世界共通で,1種類しかない。発信地と着信地の距離に応じていくつもの料金表を用意しているわけではないのだ。発信者が世界のどこにいるかは問わない,料金はすべて着信地で決定する。

 そもそもSkypeが利用しているのはPtoP技術。発信者のパソコンと相手先の通信キャリアまでをPtoPでつなぎ,キャリアが電話網につなぐ。これを実現するためにSkype Technologies社は,通信4社(英COLT Telecom Group,米iBasis,米Level 3 Communications,バミューダTeleglobe)と提携した。これら企業が,それぞれ提携するキャリアと接続して世界中の電話回線につないでいる。

 着信は固定電話でかまわないが,発信はSkypeを利用して安くしたい,また,この夏,知人がアテネに行く,などという人は利用してみてはいかがだろうか。ソフトウエアは同社のサイトで入手できる。また同サイトに掲載されてるようなヘッドセットを利用することをお薦めする。やはりパソコンのマイクとスピーカでは使い勝手が悪い。

■将来は規制の対象になる可能性も

 さて,この原稿を書いている8月5日,米国の連邦通信委員会(FCC)が重大な発表をした。「ブロードバンド接続などのサービスも米国の盗聴法『CALEA』の対象になる」という判断を示したのだ(関連記事)。

 これは昨年から議論されていた問題の1つ。現在,米国の加入電話には規制が課せられているが,IP電話はその対象外になっている。この規制には「広くあまねく電話サービスを供給するためのユニバーサル・サービス基金の負担義務」「緊急通報提供義務」「犯罪捜査を目的とした通信傍受協力の義務」などがある。

 これまでIP電話は,電気通信サービスではなく,情報サービスと位置付けられていたため,こうした規制を免れてきた。しかし今回FCCがこのような判断したことで,将来は,盗聴法以外の規制も課せられるのではないかと言われている(米CNET News.comの記事)。

 なおFCCはこれまで,パソコン間だけで音声をやりとりするインターネット電話については,規制の必要はないとしていた。しかしSkypeは今やFCCの定義する純粋なインターネット電話ではなくなりつつある。将来は,固定・携帯電話からの着信にも対応するという計画を立てている。そうすると,各種の義務が課せられる可能性もある。その結果,現在のような格安サービスが不可能になるかもしれない。インターネットによって生まれた新技術/サービスと,それを規制する当局。そんな対立構図がここにもあるのだろうか。

【お詫びと訂正】
 グラフ1のNTT東西の一部料金に誤りがありました。正しくは固定隣接は3分21円,固定20km超は3分31.5円,固定60km超は3分42円です。お詫びしてグラフ1を訂正します。(2004/08/16)

◎関連記事
電話ソフト「Skype 1.0」リリース。有料で従来電話への発信も可能に
P2P型パソコンIP電話のSkype,キャリア4社と提携
Skype(スカイプ),世界が注目するIP電話ソフトの革命児
パソコン用IP電話のSkype,8月にも固定電話への発信サービスを本格展開
P2P型IP電話のSkype Technologies,年内にも固定電話からの着信サービス開始
P2Pソフト「Skype」で新タイプの通信事業者目指す──Skype社CEOに聞く
ルクセンブルクSkype,IP電話ソフト「Skype for Linux」のベータ版リリース
米国で認知されだしたPtoP,だが課題も山積
Skype Technologies社がPDA向けIP電話ソフトのベータ版リリース