インターネット電話のP2Pソフト「Skype」はβ版ながら世界170国以上に700万以上の登録ユーザーを持つ。2004年7月13日,本社をルクセンブルグに構えるSkype Technologies社CEO Niklas Zennstrom氏が来日した。Skypeのビジネスモデル,今後の展開,そして技術について聞いた。(聞き手 堀内 かほり=日経バイト)

Q.今回日本に来た目的は。

A.日本はブロードバンド先進国であり,Skypeにとって市場を広げる可能性が大きい国だ。今回は,プレスへの宣伝や,日本のISPとパートナーシップを組んだり,USBフォンやコードレス・フォンといったハードウェアの調査をするために来た。

Q.音声通話をP2Pソフトで始めようとしたきっかけはなにか。

A.KaZaAと呼ぶファイル共有のP2Pソフトを開発したが著作権侵害行為で訴えられ,KaZaAに代わるビジネスを模索していた。もともとスウェーデンの電話会社に勤めていたことがあり音声通信に目をつけた。ソフトウェアならば新たな機能を加えたりすることが容易で,しかも電話会社のように膨大なコストがかかる設備もいらないことからビジネスができるのではと考えていた。ちょうど環境的にもブロードバンドが急速に浸透し,IPを使って音声データをやり取りするVoIPがはやり始めた。ただしたいていのVoIPだと,サーバーを運用管理するコストや音声品質,NAT(Network Address Translation)やファイアウォールを越えられないといった問題があったし,システムが使いづらかった。SkypeのP2Pテクノロジーを使えばこれらを解決できると考えた。

Q.どのようなビジネスモデルで収益を得ようと考えているのか。

A.Skypeはフリーソフトであり,たくさん配布してとにかく多くの人に使ってもらうのが目標だ。現在,Skypeはフリーソフトだけだが,今後これに加えて,有料の機能追加版をリリースする。機能追加版は公衆電話網(PSTN)に接続できたり,ボイスメールができたりするものを考えている。将来的には050番号のような公衆網から電話を掛けられるような電話番号を配布したい。公衆電話網に接続するときの料金は一般的なISPよりもかなり安い価格にする。例えばYahoo!BBで米国の一般加入電話に電話をかけるときは3分7.5円だがSkypeなら4.65円だ。他の国なら9割程度安い価格を設定している。ボイスメールなどの機能に関しては今年中に料金を設定する。

Q.既存の通信事業者と異なる点は。

A.三つある。一つ目が従業員数が47人と少なく,設備などの固定資産が少ないこと。二つ目が,新たな加入者を獲得するのにかかるコストがほとんどないこと。三つ目がインターネットを使うため自社ネットワークを構築するコストがいらないことだ。

Q.広告を表示して収入を得るという考え方もあるが。

A.広告で収入を得る考えはない。Skypeの強みはブランドとネットワークだ。ISPと組んでコーブランド(Co-brand)でビジネスをすることを考えている。我々は47人のスタッフで,膨大な固定資産もないため,売上高が膨大でなくてもビジネスとしてやっていけると考えている。

Q.Skypeのコールフローはどうなっているのか。

A.まずソフトをダウンロードしてSkypeのサーバーに登録する。すると,デジタル証明書が発行され,次にログインしたときにはどこのマシンにアクセスするかが決められる。2回目以降ログインしたときにアクセスするマシンのことをスーパーノードと呼ぶ。スーパーノードはSkypeのサーバーではなく他者のマシンである。スーパーノードは現在ログインしているノードのリストを常に更新している。スーパーノードの決まり方は,いくつかのパラメータがあるが,基本的には(1)性能の高いCPUでメモリーが大きく,(2)ブロードバンド接続ができ,(3)グローバル・アドレスを持つという条件を満たすマシン。Skypeのサーバーがスーパーノードを決めるのではなく,マシン同士がネゴシエーションして自己増殖していく。スーパーノードは全ノードの中で1%以下の数だ。

Q.音質が良いとの評判だが。

A.一定の広い帯域を確保し,パケットの揺らぎ(パケットが届く間隔が一定ではないこと)を吸収するバッファの最適化をしている。音声コーデックにはGIPS(Global IP Sounds)を使っている。これらの具体的な内容は企業秘密になる。

Q.ファイアウォールがあっても通信できるのはなぜか。

A.片方がファイアウォールの内側にいるときはスーパーノードに常にパケットを出し続けている(keep alive)。両方がファイアウォールの内側にいるときは,グローバル・アドレスを持つ第三者のマシンを介してP2P2Pのような状態で通信する。

Q.以前KaZaAというファイル共有のためのP2Pソフトを作り,現在米国で裁判中だと聞く。日本でもWinnyの作者が逮捕されるなど,ファイル共有ソフトを作った側に罪があるという考え方があるがどのように考えているのか。

A.裁判はヨーロッパでもあり,オランダでは違法性はないと司法の判断が下った。米国ではまだ継続中で時間がかかりそうだが,ツールを作った側ではなく実際にそれを使って違法コピーしたエンドユーザーが悪いという結論になるのではないかと見ている。