米Lucent Technologiesの米Bell Labs(ベル研)の研究チームは,深海に住む海綿動物の体内から,通信ネットワークで使用する光ファイバとよく似た構造の物体を発見した。Lucent Technologies社が米国時間8月21日に明らかにしたもの。研究者らは英国の科学雑誌Nature(同日版)の中で,「この深海海綿のガラス繊維は,工業製品である光ファイバよりも技術的に相当優れている可能性がある」と報告している。

 この発見について,ベル研材料科学者のJoanna Aizenberg氏は「海綿の生体光ファイバが,生物から着想を得た新手法をもたらし,より良い光ファイバの素材やネットワークを実現する可能性がある」と述べる。「母なる自然が持つ,非の打ちどころのない素材を作り出す能力には驚かされる。生物の研究をさらに進めれば,自然からいかに多く学べるか気付くだろう」(同氏)

 研究対象の生物は,海綿の一種で熱帯の深海に住む“Euplectella(カオロウドウケツ)”。英語では一般的に“Venus Flower Basket(ビーナスの花かご)”と呼ぶ。体長は15cmほどで,ガラス状シリカによる円筒形の網のような複雑な骨格を持つ。骨格の根元はガラス繊維が束状になっており,それがちょうど王冠を逆さまにしたように外部に広がっている。このガラス繊維は2インチ~7インチ(約5cm~18cm)の長さがあり,太さは人間の髪の毛ほどという。

 ベル研の研究チームは,この海綿のガラス繊維が異なる光学特性を持つ複数の層に分かれていることを発見した。その構造は通信用光ファイバと似ており,高純度のシリカ製ガラスの周囲を有機物が包む筒状になっている。実験したところ,このガラス繊維は通信用光ファイバと同じ原理で光をよく通すという。

 海綿の光ファイバの透過率は低く,現在の通信ネットワークには使えない。しかしベル研では,「極めて柔軟性が高いので,折れて使用不能にならないという大きな長所がある」としている。一般的に通信用光ファイバは曲げに弱く,折れると使えなくなってしまう。折れたファイバは交換するしかなく,コストと手間がかかる。それに対し海綿の光ファイバは,「硬い結び目を作れるほど柔軟で,通信用光ファイバと違いその状態でも折れない」(Aizenberg氏)。

 研究チームによると,「現在光ファイバの製造には非常に高い温度と高価な設備が必要だが,海綿の光ファイバには海水の温度で生成できるというメリットがある」という。「こうした自然の生成プロセスをまねることができれば,光ファイバ製造にかかるコストを削減できるだろう」(ベル研)

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