業績好調を続けてきたストレージ大手の米EMCが,米国時間の7月5日に「6月末締めの第2四半期の売り上げが,約20億ドルにとどまる」と発表した。2001年度通年の当初売り上げ目標120億ドルも再び下方修正し,一部の報道では「前年度売り上げの88.7億ドルにすら届かない見込み」とされている。

 ジョー・トゥッチ社長兼CEO(最高経営責任者)は,「顧客層の中心である大手企業の業績がここ3四半期で急激に悪化した結果,IT投資の抑制や遅延が始まった」と説明している。

 これに先立つ1~3月期には,米通信機器メーカーが軒並み業績の大幅な悪化を発表したのも記憶に新しい。米サン・マイクロシステムズ,米インテルなど,ほかのIT関連企業も続々と業績悪化を発表している。逆に,ストレージ製品でも米ネットワーク・アプライアンスや米IBMのディスク事業部門などはまだ順調に伸びているという。

業績に変調きたしたIT企業に共通点が

 筆者はすべてのIT企業の業績に目を通している訳ではない。したがって,「EMCと通信機器メーカー」の業績悪化を取り上げて論議するのはいささか無理があるが,それを承知のうえで言うと,ここにきて急に変調をきたしたこの企業群には,ある種の共通性を感じるのである。

 その共通点とは,第1にこの企業群がここ数年,インターネット時代の波に乗って右肩上がりの急成長を続けていたこと。第2にストレージと通信機器という分野は,その需要家が数年後の必要量を予測して購入したのではなく,場当たり的に「あればあるだけ使われるだろう」という発想で,これらの製品への投資を急増させていたように思われること。第3にこれらの企業群は,筆者がコンピュータ業界誌の記者を始めた17年前の感覚からすると,「周辺機器メーカー」という位置づけであるという点だ。

 通信機器業界については筆者は門外漢であり,ことに海外の通信業界の論理には疎い。だが20年近く前の感覚で言うと,この業界はコンピュータ業界と比べて非常に「競争的でない」ものに映っていた。

 通信事業者向けの機器は,当時の電電公社(現NTT)によって規約や仕様が統制されたうえで,横並びの製品が投入されるだけ。メインフレーム・コンピュータ用の通信制御装置/端末制御装置などと呼ばれた機器は,そのメインフレーム・メーカーの製品以外に選択肢がほとんどない。いずれにしても1社が突出して斬新な新製品を投入したり,劇的な価格性能比の改善が行われるというような競争性は感じられなかった。

 それが次々と規制緩和が行われて,気がついてみるとコンピュータ市場より遙かに急速に新技術,新サービスの導入が進み,通信機器の市場自体も爆発的に大きくなった。「規制緩和 - 技術革新 - 市場拡大」という,今日の日本がその構造を改革して目指すべきとされているモデルのまさにお手本のようだ。

オープン・システムの波に乗り成長した米EMC

 他方ストレージのEMCは,市場構造の大変化に乗ったという印象は薄い。むしろ段階的に「隣接するもっと有望な市場へ進出」していくことで,今日の地位に至った感がある。

 筆者は1987年10月に,創刊直後の「日経ウォッチャーIBM版」の記者として,当時のリチャード・J・イーガンEMC社長(現・創業者兼名誉会長)に取材したことがある。当時のEMCはミニコン用増設メモリー・メーカーから,IBM互換製品に参入したばかり。主力製品はオフコンのシステム/36と同38の互換増設メモリーで,実にニッチなベンチャー企業だった。

 EMCはこの年の夏にIBMメインフレーム用の互換小型ディスク「ガーディアン」を出荷し,今日のストレージ大手への道を歩み始める。だが,このディスク製品の売り物は,「制御装置のキャッシュ容量がIBM製品の4倍,制御プロセサを2個搭載しているので25%ほど性能が良く,価格が15%程度安い」(日経ウォッチャーIBM版,1987年10月19日号の記事より)というもの。IBMを始め日立製作所,富士通/米アムダール,米ストレージ・テクノロジといった大手をけ落とす存在になるとは考えにくかった。

 その後もEMCは,90年代半ば以後にメインフレーム用ディスク各社が複雑なRAID技術を採用するのを横目に,単純なミラーリング方式で信頼性を確保するという独自の戦略に進むことで,メインフレーム用の「低コストの互換ディスク」としての地位を確立。並行してオープン・システム用の市場にも進出すると,こちらでは「メインフレーム級の信頼性と性能」を売りにして,「やや割高だが最上位システムには欠かせない」という現在の地位を固めた。

 EMCの場合,外的な「規制緩和」という追い風はなかったものの,より大きなオープン・システム用の市場にうまく乗り入れて急成長を遂げた。とはいえ,そのビジネス・スタイルは強力な直販部隊に依存し,大企業のシステム部門との密な関係が生命線という,80年代のIBMに酷似している。

 ここ20年弱の変遷はかなり違うとはいえ,「EMCと通信機器メーカー」が90年代末に急成長を遂げたのは,インターネットという不特定多数を相手にする世界に直面したシステム構築者が「必要量の予測は不能」と判断し,過剰なまでに機器導入を進めたこと。そしてメーカー側が急速な価格性能(容量)比の改善を提供して,その「過剰(かもしれない)導入」への抵抗感をうまく回避したためだと筆者は考えている。不思議なことにパソコンとは違って,急速な価格性能比の改善にもかかわらず需要家が買い控えには陥らなかったのは,「自分のため」の購入ではなかったからだろうか。

下降局面のIT業界,危機からの脱出にひと苦労?

 ともあれ,IT業界の主役を自負して床柱を背にしていたメインフレーム=サーバー・メーカーの顔色をなからしめた,旧周辺機器系のEMCと通信機器メーカーにも,21世紀の到来とともに逆風が吹き出した。筆者は,通信機器業界はこぞって90年代末の右肩上がりの市場に最適化を進めすぎたために,現在の下降局面からの脱出に苦労するとみる。

 一方EMCは,まだサーバー・メーカーが90年代に行った「ハードの価格破壊に対処するための,ソフト・サービス収入の強化」という戦略にすら,明確には着手していないとみる。確かにEMCはバックアップ機能などの管理ソフトを競争優位のカギとしているが,「ハードを売るためのソフト」の段階である。逆にその後進性が,当面の下降局面からの脱出には「まだ打つ手がたくさんある」と感じさせるのだが・・・。

千田 淳=日経システムプロバイダ副編集長

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