調査内容 IT関連キーワードの認知度・業務への影響・利用状況
調査時期 2008年4月中旬
調査対象 ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者
有効回答 2920件(1136件)
( )内は情報システム担当者の有効回答数


 日経マーケット・アクセスでは,ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者を対象に,最新あるいは注目のIT関連キーワードを毎月三つずつ挙げて,その認知度,業務への影響と利用の状況について聞いている。2008年4月の調査では,「PaaS(Platform as a Service)」,「クラウド・コンピューティング(Cloud Computing)」,「2038年問題対策」の3つのキーワードを取り上げた。

PaaSの認知度は1年前のSaaSに届かず

 今回の調査で,このシリーズで取り上げてきたキーワードは合計60種になった。そのうち「認知度」の設問で「聞いたことがない」という回答の60種平均は40.2%,中央値は43.0%である。

 2007年2月の本調査で取り上げた「SaaS(Software as a Service)」は,「聞いたことがない」が49.3%だった。しかし前回2008年3月調査での「Google Apps」は,「聞いたことがない」が平均を5ポイント近く下回る35.4%。認知度スコア(下の「調査概要」参照)は「SaaS」が1.98,「Google Apps」は2.21で,60種の平均は2.31(中央値は2.23)。業務への影響度や利用度では前回の「Google Apps」もワースト3やワースト5という低スコアではあるものの,この2回の結果を比べると,SaaS関連のキーワードの認知度はかなり上がってきた。

 そこで今回取り上げたキーワードが「PaaS」である。SaaS事業者として有名な米Salesforce.comが,2007年9月に発表したアプリケーション構築基盤Force.comとともに使い始めた新語。荒っぽく言えば「SaaSを開発するための環境を提供するSaaS」である。米Amazon.comのAmazon Web Services(ストレージ・サービスのS3,アプリケーション実行環境のEC2など)や,米Googleが2008年4月に発表したGoogle App EngineもPaaSの一種として語られている。

 このPaaSの認知度や影響度,利用度を今回調査した結果は,残念ながら「惨敗」であった。認知度スコア1.56は歴代60種のキーワードのうち下から3番目。「聞いたことがない」が66.5%で過去3番目の高率。いずれも「AIR」(2007年10月調査),「XBRL」(2007年8月調査)に次ぐ位置だった。

 ただし,「聞いたことがない」とした回答者を除外して聞いている“業務への影響度”では,PaaSを「将来関わる可能性がある」とした回答者が61.3%で,歴代4位だった(2006年9月調査の「モバイルセントレックス」と「Web2.0」,2007年7月調査の「ESB(Enterprise Service Bus)」に次ぐ)。キーワード60種の「将来関わる可能性がある」の平均は51.1%である。

 “応用/利用状況”は「具体化していない」が89.7%。前回の「Google Apps」の89.5%を僅差で上回り,今回調査分を除くと2007年12月調査の「PLC(高速電力線通信)」に次ぐ歴代2位の高さだ。キーワード60種の「具体化していない」の平均70.2%との間には,約20ポイントの開きがある。

クラウドに「業務に通用する知識がある」回答者は0.5%

 「クラウド・コンピューティング(Cloud Computing)」は,ネットワーク上に分散したコンピュータの処理能力やストレージ容量,データ資源,アプリケーション・サービスなどを組み合わせて,「何がどこにあるかを利用者が意識せずに,必要な資源を必要な時必要なだけ使ってサービスを受けられる」環境を指す概念である。IBMやGoogle,Salesforce.comなどが2007年後半ごろから盛んに宣伝している。今回の調査期間中(4月11日~16日)の4月14日に米Googleと米Salesforce.comが発表した提携でも,Salesforce.comがSaaSとして提供するCRM機能とGoogleが提供するメール,カレンダー機能などを連携させたものを「クラウド・コンピューティングによるソリューション」と称した。

 しかし今回この「クラウド・コンピューティング」の認知度や影響度,利用度を聞いた結果は,上記の「PaaS」とほぼ同じ傾向。認知度の「聞いたことがない」は61.2%でPaaSよりやや低いものの,「業務に通用する知識がある」はPaaSと同じく過去最低の0.5%。“業務への影響度”はPaaSよりやや低く,「将来関わる可能性がある」がキーワード60種の平均を5ポイント弱上回る55.7%に止まった。

 「クラウド・コンピューティング」の“応用/利用状況”はPaaSよりさらに低く,「具体化していない」が92.4%でキーワード60種の最大。「導入を計画している」は3.4%で今回調査分を除くと最低。応用/利用状況スコア1.16は「PLC」の1.17を下回り歴代最下位である。

「2038年問題」を「聞いたことがない」60.1%

 今年2008年はうるう年。NTT東西の公衆電話が一部使用不能になったり,コンビニ端末でサッカーくじ「toto」を販売できなくなったり,自治体の住民票や印鑑登録証の発行ができなかったり,と何件かシステム・トラブルが報じられた。

 うるう年の問題は,IT業界が経験済みの2000年問題と同様,基本的にアプリケーションの詳細仕様やソースコードをよく見ればわかるはずのもの。しかし同じ「コンピュータの日付処理」関連で,プログラムのソースを見ても簡単に発見できない問題が,今から30年後の「2038年1月19日」に控えている。俗に「2038年問題」と呼ばれる,初期のC言語処理系やそれを基盤にしたUNIX系OSなどが抱える問題である。Linuxで標準的に使われているファイル・システムなどに「2038年問題」が存在することは知られており,すでに2004年にはこの問題の派生形が発生した実績もある。

 とはいえ“今から30年後の話”ということか,今回の調査で提示した「2038年問題対策」というキーワードへの認知度や影響度,適用状況はいずれも低水準だった。認知度での「聞いたことがない」は60.1%。「聞いたことがない」回答者を除く“業務への影響度”では「将来関わる可能性がある」が59.5%で,「PaaS」に次ぐ歴代5位と高い(ちなみに6位は2006年10月調査の「SOA」の58.6%,7位は「SaaS」と2008年2月調査の「グリーンIT」が同率で58.4%)ものの,“応用/利用状況”の「具体化していない」は過去最大の92.4%,応用/利用状況スコアは過去最低の1.16と,いずれも上記の「クラウド」と全く同じ,ワーストタイだった。

■調査概要
 日経マーケット・アクセスが,ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者を対象に,IT関連の最近のキーワードの認知度,自身の業務への影響をどう見ているか,回答者の所属組織での利用状況を聞いた。
 「認知度」は四択の質問で「業務に通用する十分な知識がある」を5,「内容をある程度理解している」を3.67,「名前だけは聞いたことがある」を2.33,「聞いたことがない」を1点にスコア換算した。
 同様に「業務への影響」は三択で「自分の業務と深い関わりがある」を5,「今は関わりがないが,将来関係するかもしれない」を3,「自分の業務には関係ない」を1点に換算。
 「応用/利用状況」は五択で「全社的に運用されている」を5,「一部の部門,業務で運用されている」を4,「一部の部門,業務で試験的に運用されている」を3,「導入を計画している」を2,「導入/利用計画はまだ具体化していない」を1点に換算した。なお,認知度で「聞いたことがない」とした回答者の「業務への影響」と「応用/利用状況」への回答は無効として集計から除外している。
 調査実施時期は2008年4月中旬,調査全体の有効回答は2920件,「所属する企業・組織で自社の情報システムにかかわる業務(企画立案・設計・開発・運用・予算承認など)を担当している」とした実質的な有効回答は1136件。

図1●情報システム担当者の最新キーワードの認知度・業務への影響・利用状況

図2-1●情報システム担当者の最新キーワードの認知度

図2-2●情報システム担当者の最新キーワードの業務への影響

図2-3●情報システム担当者の最新キーワードの利用状況